伊勢の宮師が心を込めて作る|宮忠のしめ縄(玄関用)

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 年神様を迎えて祝う正月。その仕度に欠かせないのが神棚や玄関に掛けるしめ縄(注連縄)だ。しめ縄は神聖な場所であることを示し、中に不浄なものを入れない役目も果たす。縁起物の飾りを付けたしめ縄を“しめ飾り”(注連飾り)と呼ぶことも多い。

 三重県の伊勢地方では玄関用しめ縄を一年中掛けておくことをご存じだろうか? 門符(もんぷ)に“蘇民将来子孫家門(そみんしょうらいしそんけのもん)”と記したしめ縄は魔除けの効果があるとされ、一年を通じて家の入り口に掲げられている。

 伊勢神宮のお膝元である“神都”伊勢にならい、本場のしめ縄を掲げてぜひ一年の無病息災を願いたいものだ。今回ご紹介するのは、創業から70年あまり、伊勢の地で伊勢神宮と同じ唯一神明造(ゆいいつしんめいづくり)の神棚や神具を作ってきた宮忠(みやちゅう)の「しめ縄(玄関用)中寸」。宮忠では「人様の祈りを受け止めるにふさわし神殿を作る」という創業以来の信念を守り、材料を厳選し、手入れの行き届いた道具で宮師たちが心を込めて神棚を作ってきた。それは他の製品も同じ。「しめ縄(玄関用)」も門符は木曽桧、和紙は伊勢和紙、門符の取り付けには麻苧(あさお)を使い、一本一本、職人たちが作り上げる。青藁(あおわら)が清々しいしめ縄を見るたび、神を敬う謙虚な気持ちと神に守られているという安らぎを生み、心身ともに健やかな一年を過ごす大きな助けになることだろう。

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■“蘇民将来子孫家門”の意味とは?

 
 そみんしょうらいしそんけのもん……なぜ伊勢地方ではこの文字を門符に記すようになったのか、そしてなぜしめ縄を一年中玄関に飾るのか。それにはこんな言い伝えがある。

 「昔、伊勢松下に巨旦将来(こたんしょうらい)と蘇民将来という兄弟が住んでいた。ある時、天照大神の弟神である素盞鳴命(すさのおのみこと)が旅の途中で伊勢の地に立ち寄られた。日が暮れて泊まるところに困ったので、裕福な兄の巨旦の屋敷を訪ねて一夜の宿を頼んだところ、巨旦は命(みこと)のみすぼらしい身なりを見てすげなく断ってしまう。そこで、貧しく暮らす弟の蘇民を訪ねると、蘇民は命を快く招き入れ、貧しいながらに精いっぱいのもてなしをした。命は蘇民の温かいもてなしを喜び、粟飯を食べ、藁の寝床で休まれた。ところが、夜半になって命は北の国から恐ろしい悪疫が襲ってくるということを察し、戸外の茅(ちがや)を刈らせて輪を編むと、その茅の輪を家の周りに廻らされた。翌日、里の家々はどこの家も疫病で倒れ、誰ひとり戸外に出てくる者がない。蘇民の家だけが厄病を逃れたのだった。

 

門符に宮忠オリジナルの文字で書かれた“蘇民将来子孫家門”
 
 

伊勢神宮の内宮前にある「おかげ横丁」の商家でも飾られたしめ縄が見られる
 
 命(みこと)は、旅立たれるにあたり、蘇民に向かって、「慈悲深い蘇民よ。われは素盞鳴命である。これからどんな疫病が流行っても“蘇民将来子孫家門”と書いて門口に示しておけば、その災いから免れるであろう」と言い残して立ち去った。その後、蘇民の家は代々栄え、いつの頃からか、伊勢の地方では新年のしめ縄に魔除けとして“蘇民将来子孫家門”の符をさげるようになった」(参考:伊勢市観光協会Webサイト)

 また、「笑門」と書かれているものもあるが、これは「蘇民将来子孫家門」を縮めた「将門」のことで、これが平将門に通じるのを避けて「笑門」になったといわれている。

 

■材料にこだわり、手作りされる宮忠の「しめ縄(玄関用)」

 
 しめ縄に使われる藁(わら)は青藁と秋藁の2種類あるそうだ。青藁は、穂が実る前の早い時期に青刈りした藁のことで、わざわざ青刈り用の田植えをして作られる。宮忠のしめ縄の青々とした清々しさはここから生まれる。もう一つの秋藁は米を収穫したあとの藁のことで、茶色っぽい色ではあるがしめ縄の芯材として欠かせない。見えない部分に入れて腰を強くする大切な役目を果たすという。宮忠では、玄関用、神棚用、大型など多種のしめ縄を作っている。

 「しめ縄(玄関用)」には、藁のほかにも厳選された素材が使われている。門符は伊勢神宮の御用材として用いられるのと同じ木曽桧を使用。天然木として国が管理して供給される官材を、柾目取りにして木札にしている。また、清浄さを示す雷光・稲妻型の「紙垂」(しで)に用いる伊勢和紙は、伊勢神宮の御神札に使われる和紙を納めている和紙製造社に特別に漉いてもらっているものだ。門符を結び付ける麻苧(あさお)には本麻を使用。麻苧は麻や苧(からむし)の繊維で作った緒のことで、清め祓いと生命力の象徴であり、神聖なものとしてとして古くから神事に使われてきた。これらの材料は説明しなければただの木札や和紙、紐であるが、ここに宮忠のこだわりが見える。

 作る手順は、夏の間に刈り取って乾燥させた青藁を材料にして縄をない、飾り付けを行う。本体のしめ縄の形をもう一度整えてから、紙垂を付け、その上に重ねるようにして門符を麻苧で結び付ける。12月に出荷する場合は、色づいた橙(だいだい)を取り付ける。橙には「家内安全」そして代々「子孫繁栄」の意味があるという。

 

青刈りされた藁を乾燥させる

門符は木曽桧を柾目取りして使う
 
 

紙垂を取り付ける
 

飾り付けに使用する麻苧
 

■宮忠が作る「しめ縄(玄関用)」の種類

 
 宮忠では玄関用のしめ縄だけでも約20種を作っている。門符は「蘇民将来子孫家門」「笑門」「千客万来」「商売繁盛」の4種類、大きさは小寸、中寸、大寸、特大、特々大の5種類がある。大きさや作る季節によって多少、仕様が異なる。小寸と中寸には青物とよばれる裏白(シダ類の葉)は付いていない。橙が付くのは12月の出荷分のみだ。

 今回、販売を行うのは「蘇民将来子孫家門」の中寸なので、青物は付いていない。意匠的には控えめだが、扱いはしやすい。大きさは幅450~500㍉ × 高さ270~300㍉。家庭やオフィスにもさりげなく置けるサイズだ。「蘇民将来子孫家門」の門符の裏には、セイマンの印やドーマンの印、“急々如律令”の文字が宮忠オリジナルの書体で書かれている。

 自然の素材を使って手作りしているので、見本画像と多少大きさや位置が違うことがあるが、それはご了承いただきたい。

 伊勢地方では一年中玄関に掛けておくそうだが、気になる場合は屋内にかけてもいいという。ちなみに、伊勢地方では橙が変色しても朽ちて自然に落ちるまでそのままにしておくそうだ。


敷地内で色づく橙
 

「しめ縄(玄関用)中寸 蘇民将来子孫家門」

青物が付いた商品もあり、宮忠のHPから購入できる(これは特別価格ではないのでご注意を)
 

■戦後、行き場のない祈りを受け止めた宮忠の歴史

 
 伊勢神宮のお膝下で「宮づくり」を始めて70年あまり。宮忠では、熟練の宮師が一つ一つ心を込めて作った神棚や神具を製造販売し、しめ縄や盛り塩、火打石などの縁起物も取り扱っている。

 その宮忠の歴史は昭和13(1938)年、前身であった国民神殿斎作所から始まる。

 「現社長の祖父、つまり私の曽祖父が神殿づくりを始めたのが昭和20(1945)年、ちょうど終戦の年でした」と、歴史を語ってくれたのは工場長の川西洋介さんだ。

 「当時、戦争が終わり、人々は身体も心も疲弊していました。日本中が元気をなくし、心の拠り所を求めていた。大きな悲しみや喪失感を抱えながらも、それでも人々は希望と安らぎを求めて神様に手を合わせる。そんな時代に、祈りの聖地であるこの伊勢で『人様の祈りを受け止めるにふさわしい神殿を作りたい』、そういう想いで曽祖父は神棚を作っていたと聞いています」。その想いは代々受け継がれることとなる。

 「現社長である父からは『いいものを作れ』と言われます。“いいもの”を作らないと技術も質も向上していきません。私たちはお客様はもちろんですが、神様にも喜んでいただける神棚づくりをめざし、技術的にも精神的にも向上するように努めています。神への祈りは勇気と安らぎをもたらします。私たちは、神と自然を敬う心、宮造りから受け継いだ技と質で、幸せを祈る人々の思いを受け止めるにふさわしい神棚をお造りすることを使命としています」

 

神職の資格も持つ川西洋介工場長

宮忠の本社工場
 

■「物(もの)であって物ではない」。“神棚を作る”という仕事

 
 宮忠の代表的な神棚は、屋根には茅葺き、材料には木曽檜を使用し、伊勢神宮の建築様式である唯一神明造を忠実に模したものだ。材料と造りへのこだわりは神棚だけでなく神具にまで及び、その一つ一つを宮師が手仕事で仕上げている。

 「神棚や神具を手作りすることは毎日が神様とのふれあいです」と川西工場長は話す。「私たちがお作りしている神棚や神具は“物(もの)”であっても単なる“物(もの)”ではありません。神様や信仰など心につながっています。しかも神棚などは何回も買い替える物ではないので、お客様にとってはもしかしたら人生でたった一つの神棚かもしれない。心を尽くして作るということは朝礼などでもよく話します。もちろん、商品をまたぐようなことはいたしません。新年には毎年、神社の宮司に来工いただき、安全祈願や工場などの祓い清めをしていただく神具調製始祭を行っています」と川西さん。

 

唯一神明造の神棚
 
 
 神棚づくりは、材料を吟味し、それら一つ一つを加工することからスタートするのだという。木を鉋(かんな)で削り、さまざまな形や大きさの部品を切り出す。組み立て作業ではよく似た材を寄せるところから始まり、土台から上に向かって順に組み上げて行く。木目や色など様々な材料があるので同じ形でも一社一社それぞれの表情が出てくるそうだ。屋根は茅葺職人が仕上げる。
 
 宮忠では、扉金具の取り付けや彫刻も手仕事で行う。扉金具では、爪に入ってしまいそうな小さな釘で真鍮製の金具を一枚一枚打ち付けていくという。神鏡台の勢いのある彫刻も一彫り一彫り仕上げていく。製品づくりだけでなく、何種類もの鉋(かんな)の手入れなど、職人たちの仕事は多岐にわたる。その細部まで気を抜かない仕事が、心のこもった商品を生み出している。本場の宮師が作るしめ縄をぜひ飾ってみたいものだ。

 
 

宮師の手作業で作り上げられる
 

神鏡台の彫刻の作業
 
 

扉金具の取り付け
 

新年には工場などの祓い清めを行う
 

■“風土47”の特別価格で取り寄せられます

 
伊勢宮忠の「しめ縄(玄関用)中寸 蘇民将来子孫家門」が特別価格で購入できます。この機会にぜひお求めください。
 
-お取寄せ・ご注文方法-
 
しめ縄(玄関用)中寸 蘇民将来子孫家門
  2,043円(税込、送料別)
 
・ご注文方法
 
  ↓伊勢宮忠Webサイトからご注文ください。
【しめ縄(玄関用)中寸 蘇民将来子孫家門】
 
※備考欄に必ず「風土47特別価格希望」とご記入ください。
受注直後の自動送信メールでは通常価格でのメールが届きます。
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記入無き場合は通常価格での販売とさせていただきます。
 
10,800円(税込)以上お求めの場合、送料無料とさせていただきます。(対象外商品有)
 
通年での取扱商品です。橙は例年12月初旬から取り付け致します(※11月中の発送の場合は橙が付きません)ので、12月に入った着指定日時を希望していただくか、年末用と備考欄にご記入ください。希望の着指定がない場合には、準備出来次第にお送りさせていただきます。
 
・お支払方法
 
  クレジットカード 及び 代金引換(代引き手数料別途)
 
年末用しめ縄のお振込みでのお取引はお受けしておりません。
 

「しめ縄(玄関用)中寸 蘇民将来子孫家門」
 


取材 中元千恵子(トラベルライター、日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)