栗あん入りも人気|黒瀬製菓舗 柿大将

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 今月は待ちに待った銘菓の登場だ。

 『風土47』のスタッフの間で、この連載開始当初から「おいしい、いつかご紹介したい」と話題になっていたのが、この「柿大将(がきだいしょう)」だった。

 干し柿の名品といわれる市田柿の中に黄味餡を入れた和菓子。自然で奥深い甘みの市田柿と、この上なく上品でなめらかな黄味餡が絶妙に引き立てあう。口の中でまろやかに混じり合い、醸し出すやさしい味わいは、ゆっくり食べ進まないともったいないほどだ。

 生産する黒瀬製菓舗は、熊本県の天草市街から車で約20分の天草半島の突端にある。約150年の歴史を持つ老舗で、現在は7代目社長と8代目が切り盛りしている。

 黒瀬製菓舗は、古くから多くの当主がカステラやどら焼きなどで全国的な菓子博覧会で金賞を受賞してきた。「柿大将」も平成20年に開催された第25回全国菓子大博覧会で金賞を受賞している。

 「材料も作り方も特別なことはしていません。ただ、丁寧に作るだけです」と話すのは「柿大将」を考案した8代目の黒瀬友希さんだ。店にとっては特別でなくても、当たり前のように受け継がれる確かな技術と精神が、人の心に残る味を創り出すのだろう。

 「干し柿の中に黄味餡が入った菓子は食べたことがある」という方や食通の方にこそ味わっていただきたい。「柿大将」はひと味違うはずだ。2月までは、例年大人気の栗あん入りも販売している。最後に問い合わせ先を記載しているので、ご興味がある方はぜひお取り寄せしてみてください。

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■天草半島で誕生した銘菓の噂は、遠く東京まで届いていた

 
 それは2年半以上前に遡る。

 「熊本県の天草に、地元で評判の銘菓があるらしい。何でも、出張で天草を訪れた男性が、空港に戻る前にわざわざタクシーで何10分もかけて買いに行ったそうだ」と、当サイトの代表が噂を聞きつけ、取り寄せたのが「柿大将」だった。

 これが絶品。干し柿もだが、黄味餡の上品でおいしいこと。干し柿と餡の組み合わせと聞いて「甘過ぎるのでは?」と思ったが、とんでもない。上手に引き立て合って、あと味まで心地いい。

 この菓子を作る黒瀬製菓舗は、天草半島で、どら焼きや羊かん、季節の和菓子などを製造して販売する老舗菓子店。

 歴史があるだけではなく、大正2年開催の「両殿下銀婚式 奉祝記念 関東産業博覧会」でカステラや口砂香、寒菊などの菓子で名誉金杯を受賞したのを皮切りに、何人もの当主が、全国的な菓子博覧会で受賞している名店だ。

 

干し柿の中に黄味餡がたっぷり
 
 
 

歴代の当主が授与された何枚もの賞状が残る
 
 この店に「柿大将」が誕生したのは、4年ほど前。
 東京の有名店で修業した後、店の後継ぎとして帰郷した友希さんに、地元の農家や業者の方々から「干し柿を使った商品を作ってほしい」と依頼があった。

 オリジナルのパッケージも作って商品として定着したのは平成14年、第24回全国菓子大博覧会が熊本県で行われたころだったそうだ。

 「ちょうど子どもが保育園に入った時期に誕生した菓子だったので、子どもが成長するように商品も育ってほしいという願いを込めて、“ガキ大将”と子どもを思わせる名前を付けたのです」と友希さん。

 願いの通り、「柿大将」は店の一番人気の商品へと、大きく成長したのだった。

 
 
 

カステラやどら焼き、季節の和菓子などが並ぶ店内
 

店頭に展示された古い木型が店の歴史を物語る
 
 

■どんなに売れても“時短”はしない。手のかけ方で味が決まる

 
 ほかの地域でも、干し柿に餡を入れたお菓子を時折見かける。けれど、「柿大将」はその中でも特においしいと感じる。

 このやさしい味はどこから生まれるのだろう。

 「市田柿は仕入れているので、うちでは黄味餡を作って詰めるだけなんですよ。黄味餡の材料や製造方法についても特別なことはしていません」と控えめに語る友希さんに、何とか秘訣を聞き出そうと食い下がって手順を教えてもらった。

 黄味餡の材料はいたってシンプルだ。白餡と卵黄、生クリーム、砂糖。砂糖は上質な白ザラメを使用するという。

 手順も一つずつ丁寧に混ぜるだけ。

 「分量の比率や火の入れ方は、それぞれの店や和菓子職人が研究して独自の理論を持っているでしょうが、基本は同じ、餡を作る和菓子の技術です。

 もし味に違いが出るとしたら“手のかけ方”でしょうか。一つ一つの作業を手間ひま惜しまず丁寧に行う。味が変わってしまうので、決して“時短”はしません」と言う。

 

“手のかけ方”が味に表れる
 
 
 

羊かんの袋詰めも一つ一つ手作業で行う
 
 例えば、卵黄は生卵から使うと臭みがあるので、一度茹で卵にして裏ごししてから餡に混ぜ入れる。

 「おいしいといっていただくには、結局は和菓子の基礎技術をしっかり行うことが大切なのだと思います。基本ができてこそ、応用も効くわけですから。立ち返るのは基本ですね」との言葉が印象的だ。

 黒瀬製菓舗で、歴代、言い伝えられているような教えはありますか?と聞いてみたが「特に言葉としてはない」とのこと。

 けれど、“丁寧に作る”という、一見、当たり前のことを一途に貫くことがのれんの信用につながるのだと、老舗の当主は先代たちの姿から学ぶのだろう。

 「和菓子離れが進んでいますが、『柿大将』を召し上がっていただき、少しでも和菓子の文化に目を向けていただければうれしいです」と友希さん。

 10月~2月は、熊本県産の栗を裏ごしして餡に使った「柿大将(栗あん入り)」が人気を集めるが、この商品も冷凍で取り寄せられる。

 この機会に『風土47』イチオシの銘菓をご賞味あれ。

 
 

■「柿大将」の問い合わせ先

 
注文は電話でお問い合わせください。
 
 黒瀬製菓舗 増田屋
 
  http://www.kuroseseikaho.info
 
  〒863-2507 熊本県天草郡苓北町富岡3243
  営業時間:10:00~19:00
  定休日:不定期
  電話・FAX:0969-35-0119
 
 

 
 


取材 中元千恵子(トラベルライター、日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)