京都の食通が認めた味|こと路 ちりめん山椒

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やわらかくふっくら炊きあがったじゃこと美しい緑色の実山椒。噛みしめると深みのある味わいが口に広がり、爽やかな山椒の風味がふっと立ちのぼる。
「こと路」のちりめん山椒は、あくまでも上品な味付けでじゃこのうま味を引き出し、山椒のほどよいアクセントとともにご飯が止まらなくなると評判の品だ。

おいしいもの、名のある老舗の名物が、数多くひしめく京都。
その地にあっても、20年ほど前に販売を開始すると、またたく間に味の良さで評判となり、今では京都を代表する逸品に数えられる。
「ちりめん山椒は『こと路』でなくては」というファンも多い。

実はこのちりめん山椒、もとは呉服屋の女将さんが親しい方へのご挨拶の品として配っていたものだった。お世話になった方へ、と愛情込めて丁寧に作られていたこだわりの製法は、今も変わらない。「こと路」では、ちりめん山椒の味付けも炊き込みも、職人さんではなく、創業者である女将の中西迪子(みちこ)さんが今も行っている。

どんなに人気になっても、変わらずに守り続けられる味。京都の食通に認められたちりめん山椒の逸品をぜひ味わってみてください。「こと路」の味が信用され、現在は梅干しやわさび昆布、梅こんぶなども取り扱いっていて、詰め合わせは贈答品として喜ばれること間違いなしです。(問い合わせ先は文末に記載)

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■姑の「一番おいしい」の言葉に勇気をもらい、店をオープン

 
 「とにかくみなさんに喜んでいただけるのがうれしくて」
 創業のきっかけをうかがうと、女将の中西迪子さんは明るい声でそう答えた。
 室町の呉服屋の女将だった中西さんが、ちりめん山椒を作り始めたのは、お姑さんの影響だったそうだ。

「川魚というと、甘辛く濃い味付けにすることが多いでしょ。私はあれが苦手だったんですが、ある時、もう40年前くらいでしょうか、姑が嵐山の川で獲れたオイカワという川魚を山椒を入れて炊いてくれたんです。それがおいしくて」

 お姑さんはおいしいものに詳しい、舌の肥えた方だったので、その川魚は抜群の味だった。中西さんの川魚嫌いをすっかり打ち消してくれた。

 京都でちりめん山椒を作る店は数多い。中西さんは、いろいろな店のものを買って食べてみたが、これ、という味に出会えなかった。そこで「姑の川魚のように炊いてみよう」と思った。

 

じゃこのうま味を生かし、色味も美しい「こと路」のちりめん山椒。
ご飯がすすむ
 
 

ちりめん山椒を炊く女将の中西迪子さん
 
 これを、近所の方や友人、知人に配ると「おいしい」と大好評。その笑顔を見ているうちに、もともと「自分でも何かやってみたい」と思っていた中西さんは、ちりめん山椒の販売を考えるようになった。

 けれど、やはり一般のお客さんにお金を払って買っていただくことを考えると、「大丈夫だろうか。やっていけるだろうか」と不安が心をかすめた。ここはおいしいものの多い京都でもある。

 そんな時、開業に向けて、最後の一歩を超える勇気をくれたのもお姑さんの味覚だった。

 「おいしいと言われるちりめん山椒を10個くらい買って、その中に私の作ったものも混ぜ、店名が分からないように皿に盛りました。姑の前に並べて食べてもらい、『一番おいしいのは?』と聞いたら、私の作ったちりめん山椒を選んでくれたんです」と中西さん。

 
 
 
 もともとお姑さんの味が好きで作り始めたちりめん山椒。好みが似ているのかもしれない、と思ったが、お姑さんの味覚に絶対の信頼を寄せていた中西さんは「大きな自信をもらいました」と話す。
 それが20年前、52歳のことだった。

 「呉服の展示会の粗品にでも使ってもらえればいい。小さなお店でいい」。そんな控えめな願いで売り始めた商品は、口コミで評判になり、地元のお寺で観光シーズンに出店させてもらうと全国から取り寄せの注文が来るようになった。やがて関西の有名百貨店への出品も決まった。

 「商品の力を感じました」と中西さん。
 夢を実現するのに年齢は関係ない、という言葉は真実なのだと思わせてくれる。

 

平成9年に開業した「こと路」
 
 

■気温や素材で変わる炊き上げ時間は「女将の舌だけが頼り」

 
 中西さんのこだわりは、「良い素材、上品な味つけ、見た目の美しさ」。
 それは、以前、自家用に作っていたころから変わらない。

 「味が濃すぎたり、黒く炊けるのは嫌なんです。じゃこの味を生かして、山椒の実もきれいな緑色に仕上げたいと思っています」と中西さん。

 素材となるちりめんは、宮崎や鹿児島、徳島産の小ぶりの上乾のもののみを使用。小さめにこだわるのは、生臭さや苦みが出ないように、また食感をやわらかく保つためだ。

 仕入れたちりめんは白い紙の上に広げ、大きいサイズのものや、エビ、タコの異物を入念に取り除く。

 

旬の実山椒を仕入れる
 
 
 

4つの鍋を前に調理する中西さん
 
 実山椒は、主に和歌山産のものを、旬の時期に1年分仕入れる。こちらも、実についた軸を一つ一つ手作業で取り除く。1㎏の実山椒の軸を取るのに、8~9時間はかかるという。 美しい緑色に仕上げるために、塩漬けの実山椒を使うメーカーもあるそうだが、こと路ではそのままを使用している。

 この厳選した素材を、調味料を合わせた鍋に入れ、中西さんがつきっきりで炊き上げる。その日の気温や温度、じゃこの塩分度や乾燥具合によって、火加減や味付け、炊き込む時間が変わる。

 「4つの鍋で炊いていますが、それぞれコンロが違うだけでも炊き加減が変わってきます。
 『ここまで』というタイミングは、私の味見をする舌だけがたよりですね」とのこと。

 
 
 
 添加物は一切使用せず、やわらかくさらさらとした風合に仕上げたちりめん山椒は、ご飯にのせても、酒の肴としても楽しめる。
 じゃこのうま味のあとに、山椒のさわやかな辛味が立ちのぼる。

 創業時に比べ、上質なちりめんの価格が上がるなど、状況も変わっているが、「自分が納得できるちりめん山椒をお売りする、その最初の想いを貫きたい」と、採算度外視で素材の質も丁寧な製法も変えていない。

 女将さんが真心こめて手作りするちりめん山椒。京都の食通もうならせる逸品を味わってみたい。

 

炊き上がったちりめん山椒
 
 

■「ちりめん山椒」のお問い合わせ先

 
こと路
 
  ホームページ
 
  〒602-8019
京都府京都市上京区出水通室町西入る近衛町46番地の3
  TEL:0120-39-5104(フリーダイヤル)
  TEL:075-432-9283
  FAX:075-432-3837
  営業時間:9:00~18:00
  定休日:無休(1月1~4日は休み)
 
 

「こと路」のちりめん山椒
 
 


取材 中元千恵子(トラベルライター、日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)