香りと風味豊かな“果物の女王”|マスカット・オブ・アレキサンドリア


宝石のように透明感のある美しいエメラルドグリーン、高貴な香り、そしてこの上なく上品で爽やかな甘み。今月は“果物の女王”と称される岡山県産「マスカット・オブ・アレキサンドリア」のご紹介だ。
岡山県といえば、“晴れの国おかやま”といわれるほど日照時間に恵まれ、温暖な気候と豊饒な大地から、ブドウや白桃など良質な果物が採れるフルーツ王国として名高い。
ブドウもたくさんの種類が作られているが、なかでも最も古い130年の栽培の歴史を持つのが「マスカット・オブ・アレキサンドリア」だ。関係者の人たちが、愛情をこめて「アレキ」(以後アレキ)と呼ぶこの品種は実に生産量の約9割を岡山県が占める。県を代表する名産品の一つだ。
130年間、生産者が「もっとおいしく、もっと美しく」とたゆまぬ努力を続けてきたアレキは、もはや芸術品の域。エジプト原産でクレオパトラ女王も食べたことから果物の女王といわれるが、容姿端麗、気品ある風味は“女王”の呼び名にふさわしい。
フルーツ王国・岡山が誇る自慢の逸品。最後に問い合わせ先を記載しているので、ぜひ味わってみてください。夏の贈答品としても喜ばれること間違いなしです。

■ほかの品種の追随を許さない高貴な香りと上品な風味
ご自身も生産者であり、JA岡山西船穂ぶどう部会の会長を務める浅野三門(みかど)さんは、アレキの魅力を「甘みと酸味のバランスの良さも大きな特徴です。単に甘いだけではなく、爽やかで品のいい甘さは、ほかのブドウにはない独自の味わいですね」と語る。
今でこそ、岡山県はブドウの一大生産地で、岡山ニューピオーネ、瀬戸ジャイアンツ、紫苑、コールマンなど多くの品種が作られているが、明治11年にブドウ栽培を始めたころは、土地や気候に合う品種が見つからず、試行錯誤を繰り返したそうだ。
そんな中でアレキにたどり着き、明治19年に温室栽培に成功し、やがて一大産地へと成長。温室栽培技術のおかげで、アレキは5月~11月までの長期間の出荷が可能になった。
「私は、たまたま栽培開始130年のこの時期にアレキを作っていますが、ここまで栽培技術が進歩するには、挑戦や失敗など、多くの先輩方の尊い経験が積み重なってのことです」と、浅野さんは話す。

香水の「ムスク」のような匂いから「マスカット」と名が付いたという
■花穂整形や粒まびき。手をかけ美しくみずみずしく育てる
アレキの初出荷は、毎年5月の最終日曜日と決定している。
その日から逆算して、12月下旬にはハウス(温室)の加温が始まる。そして、1月上旬には6月の出荷に合わせて次のハウスの加温を開始し、1月下旬には次のハウス、2月中旬には次……と、露地栽培が始まるまで、半月ほどずらしながら出荷に向けてハウスの加温が開始される。
それぞれのハウスではおおよそ次のように生育が進む。
加温開始→(30日)→発芽→(30日)→開花→(30日)→種が硬くなる硬核期→(30~40日)→実がみずみずしく成長→(40日)→収穫。
この間、ハウス内の温度や湿度を調整しながら、浅野さんたちはそれぞれの時期に合わせた作業を行う。

アレキの花。小さな花が実を結んで大きな粒へと成長していく

1つ1つ、丁寧な手作業を積み重ね、見事な房へと育て上げる
新しい枝(新梢)が伸びてきたら、重ならないように導いて、ぶどう畑の棚線に固定する。これを「誘引(ゆういん)」という。
花のつぼみが膨らんできたら、大切な「花穂(かすい)整形」の作業だ。1つの房にはいくつもの花が咲くので、それがすべて実に成長しようとすると粒が小さくなる。そこで、確実に結実させ、房型を整えるために8~9cmにカットしていく。この時、すでに出荷時の大きさや重さも想定しているという。
実が成長してきたら、「粒まびき」を行う。これも重要だ。8~9㎝にカットされた房には各200~300の花が咲き、実になる。この実がマッチ棒の先ほどの大きさになったら「粒まびき」の1回目で70粒ほどに減らす。
さらに大豆より少し大きいくらいに育ったら、変形やキズのある粒を除いて60粒ほどにする。
どの粒を残し、どれをカットするかは経験で学ぶことも多く、技術と熟練を要する作業だという。
硬核期を乗り切って、実にたっぷりと水分が回ったら「仕上げまびき」を行い、やがて収穫して出荷する。
この作業を、それぞれの加温開始に合わせて10月の最終の出荷まで繰り返し繰り返し続ける。
「大変だ」とおっしゃるかと思いきや、浅野さんは「楽しみや喜びも大きい仕事です。こんまい(小さい)花の時から少しずつ成長していく姿を見るのは、子どもを育てるような楽しみがあります。手をかければそれに応えて育ってくれる。立派な実に成長して出荷させるときは、子どもを嫁がせるような気持ちですね」とのこと。
浅野さんの農園では、ハウスだけで2300坪(約7600平方メートル)、全体では8反(約7900平方メートル)弱の広さがあり、アレキとシャインマスカットと半々で生産しているそうだ。

箱詰めも手作業。みずみずしく育ったアレキが出荷されていく
■130年の努力が育てた“果物の女王”はさらなる時代へ
さらに「1房1房、心を込めて育てました。味も香りも格別です。ぜひご賞味ください」と自信をもってPR。
食べる30分~1時間前に冷やし、皮ごと口に入れるのがおすすめ。皮がパリッとはじける食感が楽しめ、皮と実の間の一番風味の濃いところが味わえる。
「アレキは日持ちがよくて、常温で置いても10日くらいはびくともしません。その点でも優秀です」と浅野さん。
日本各地で生産農家の高齢化が進むなか、船穂町は後継者も育ち、ニューファーマー(新規就農者)も増えて、活気があるそうだ。それだけやりがいや魅力のある仕事であり、行政や地域も一体となって応援している名産品なのだろう。
「130年の歴史を紡ぐ一員として、次の世代にバトンを引き継いでいきたい」という浅野さんの言葉に、アレキに携わる人たちの誇りと熱い想いを感じた。

気品あふれる“果物の女王”は贈答品として大人気
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取材 中元千恵子(トラベルライター、日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)