職人の技が生む奇跡の味|須崎屋|五三焼かすてら

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今月は“幻のカステラ”ともいわれる須崎屋の「五三焼かすてら」のご紹介だ。
五三焼かすてらは、卵の黄身と白身を5:3の割合で作るカステラのこと。通常のカステラが5:5の割合であるのに対して、黄身が多い分、まろやかでコクがあり、奥深い味わいに仕上がる。けれど焼き上げるには高い技術を必要とし、本場長崎県でも作れる職人は数人しかいない。

そのうちの1軒が、南島原市にある1867年(慶應3年)創業の老舗、須崎屋だ。
この道60年あまりという5代目の伊藤代二さんと6代目の剛さんが、阿波産の和三盆糖や佐賀産の水飴など選び抜いた素材を使い、生地立て、泡きりなどの行程を丹念に行って焼き上げる。須崎屋の五三焼かすてらは、一窯一窯、絶え間なく火加減に目を配りながら焼くため、作れる数に限りがある。地元でも手に入りにくいことから“幻のカステラ”ともよばれている。
高度な職人の技が生み出す極上の味。最後に問い合わせ先を記載しているので、ぜひ味わってみてください。

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■科学的に考えれば製造不可能!? 数秒ずれても商品にならない

 
 須崎屋があるのは、島原半島南端の須崎港の近く。
 初代は島原と長崎を結ぶ海運業を営んでいたが、当時、貴重だったカステラを地元の人に食べてもらいと思い、長崎で作り方を学んだ。本業である海運で材料の砂糖や小麦粉を運び、カステラ作りを始めたという。

 6代目にあたる伊藤剛さんに五三焼かすてらについてうかがうと、「科学的に考えると、焼き上げることが不可能な配合です。通常のカステラとは全くの別物だと思って作っています」とのこと。

 五三焼かすてらでは、生地を膨らませる卵白や小麦粉を極限まで減らしているので、均一に焼き上げるのは科学的にはほぼ不可能だという。
 科学を超えたもの、つまり奇跡を起こすのは職人の技術だ。

 

島原半島にある須崎屋
 
 
 

均一に焼き上げるには高い技術がいる
 
 「五三焼かすてらは、製造工程の一つ一つ、例えば小麦粉を混ぜるとか、窯から出すなどの作業を、ピンポイントのタイミングで行わなければなりません。数秒ずれただけでも商品にならないので、全神経を集中させて作ります」と伊藤さんは話す。

 特別に工場を見せていただいた。

 須崎屋のこだわりは、まず原材料から。五三焼かすてらの材料は、和三盆糖、卵、小麦粉、水飴、氷砂糖のみ。シンプルなだけに、素材の品質が味に大きく影響する。

 砂糖の「阿波の和三盆糖」は、実際に四国に足を運び、試食して歩いた中で特においしいと感じた岡田製糖所の特選品だ。

 
 
 
 水飴はカステラ職人なら誰もが憧れる佐賀県の「相川のもち米水飴」。その中でも全体の3%にあたる黒帯とよばれる最高級品を用いている。

 氷砂糖は純度99.9%の上一等品。卵は地元島原の「太陽卵」。小麦粉は筑後平野の小麦から作る須崎屋専用の特注品だ。

 さらに、「極上 五三焼かすてら」には、卵には烏骨鶏卵を使用している。

 「材料すべてが、職人さんが精魂込めて作った極上品です。それを使って最高のカステラを作りたいと思っています」と伊藤さん。

 

美しく輝く相川のもち米水飴
 
 

■生地作りも「泡切り」も絶妙のタイミングが要求される

 
 まずは“生地立て”とよばれる生地作りから始まる。和三盆糖や卵を混ぜ、撹拌の時にできる生地の筋(すじ)の入り方を見ながら水飴を入れ、後半に小麦粉をほんの少量加える。

 途中までは機械で混ぜ、最後の微調整は手作業。カステラの“しっとり”と“ふんわり”を両方実現するためには、小麦粉を混ぜ過ぎないことがコツだという。

 「筋の立ち具合から見て、あと3回混ぜて終わり。5回だと混ぜ過ぎです」と伊藤さんが解説してくださるが、素人目には全くわからない。まさにピンポイントの判断だ。

 できたカステラ生地は、ザラメ糖を敷いた型の中に流し込み、オーブンの中へ。このオーブンは輻射を利用して窯全体に熱が行きわたる特注品。

 一般的な量産のカステラでは、上下からのみ加熱するトンネル型のオーブンの中を型が進んで行く方式が多いそうだ。

 

生地作りの仕上げはやはり手作業
 
 
 

オーブンに生地を流し入れる
 
 生地を焼く工程では、「泡切り」が重要となる。これは長いヘラで生地を混ぜ、内部の気泡を抜く作業で、オーブンの中を覗いて状態を見極めながら4回行う。

 この後、鉄板をのせて表面を焼き、釜から出す。焼き上げる温度や時間は最も重要なポイントであり、気温や湿度によっても異なるそうだ。

 焼き上がった五三焼かすてらは、美しい黄金色。甘くいい香りが漂う。これを室(むろ)で一晩寝かせてから切り分け、出荷する。焼き上がりから5日目くらいが一番おいしいそうだ。

 極上の素材で作る最高峰のカステラ。ぜひ味わってみたい。

 
 
 

泡切りは重要な工程だ
 

焼き上がりを見極めて取り出す
 
 

■須崎屋「五三焼かすてら」「極上 五三焼かすてら」問い合わせ先

 
オンラインショップから購入できます。
 
 五三焼かすてらの窯元 須崎屋
 
  株式会社須崎屋
  〒859-2122 長崎県南島原市有家町大苑84番地
  TEL:0957-82-2855
FAX:0957-82-5544
 
 

 
 
 


取材 中元千恵子(トラベルライター、日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)