風土47
今月のコラム・見出し
漬け物は故郷の味
秋から冬にかけて、日本列島はダイコン、ハクサイ、カブ、ゴボウなど野菜の収穫期。特に畑や農家の軒下にかけられる大根干しの光景は日本の晩秋の風物詩です。これらを塩や醤油、糠、糀などで漬け物にする習慣は昔からどこの家庭にもありました。冬場の貯蔵食品として家庭それぞれの作り方や味があって、漬け物はみそ汁とともにまさしく“おふくろの味”。何十年経っても忘れない我が家の味であり、故郷を思い出させる食べ物であります。手間がかかり、核家族化で伝承が難しくなり、家族が少なくなったこと、塩分を控える健康志向などさまざまな要因が重なって、家庭での漬け物作りはめっきり減りました。とはいえ日本的な風習や習慣がなくなりつつある現代にあって、漬け物はなお根強く生き残っている保存食ではないでしょうか。米のおいしさが格段に増してご飯がおいしくなった今日、おいしい漬け物と味噌汁さえあれば十分ということさえあります。そうした要望に応えて各地のアンテナショップでは少量単位でも買える漬け物が売られています。
なかでもこの季節ならではのものに、北海道なら紅鮭を白菜や昆布、人参などと一緒に1枚ずつ重ねて漬け込む「はさみ漬け」や大根、キャベツ、人参などに身欠きニシンを入れた「ニシン漬け」が名物です。秋田には囲炉裏の上にぶら下げ燻されて大根のカリッとした歯応えと燻製が滋味深い「いぶりたくあん」(いぶりがっこ)が有名です。“西の京都、東の山形”といわれる漬け物王国の山形では、高菜の一種の辛味と風味に富む「青菜漬け」が代表的で、この青菜を細かく刻み、大根や唐芋、人参、紫蘇の実などを一緒に樽に漬ける「おみ漬け」も山形名物。これは紅花の買い付けに山形に来ていた質素倹約を旨とする近江商人が、余った野菜屑などを捨てるのはもったいないと漬けた“近江漬け”が起こりといわれています。 東京では大根を塩、糀、味醂で漬けた甘い浅漬けの「べったら漬け」、長野では特産のシャキシャキした塩漬けの「野沢菜漬け」、愛知では渥美大根の「細切りたくあん」、石川では大きなかぶらにブリをはさんだ「かぶらずし」などが冬ならではのご馳走です。
漬け物王国の京都では京野菜を代表する聖護院かぶらに昆布を重ねて漬ける「千枚漬け」。白菜と柿を交互にはさんだ奈良の「柿と白菜の重ね漬け」はまろやかな旨味を醸し出す晩秋から冬にかけての歴史をにじませた上品な漬け物です。 広島では11月末から12月初めまでが収穫期の広島菜の浅漬け「広島菜」が季節の味。 熊本をはじめ九州各地で漬けられる「高菜漬け」は浅漬けもよし、べっ甲色になった古漬けもよし。熊本南西部の芦北・水俣地方では大根を生干ししたあと塩漬けし、ハゼの木などに吊して風にさらして寒干し大根を作ります。これを細切りにして昆布、醤油で漬け込んだ「寒漬け」がコリコリとして味わい深く、風景とともに旨味が今もよみがえって来ます。漬け物には土の匂い、手仕事の味わい、人への思いも深い味わいを添えてくれます。 故郷の風景や人達がしのばれる漬け物の味めぐりを楽しんでみませんか。
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。