風土47
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旅がらすの「味」な旅の空便り

3月は桜前線にうごめく旅ごころ

南伊豆町下賀茂温泉の河津桜南伊豆町・みなみの桜咲く青野川沿い
 暦の上では3月5日は啓蟄(けいちつ)。冬ごもりの虫が這い出る頃という意味のとおり、気候も徐々に明るさや温かさを増し、人のうごめきも目立ってきます。とくに卒業、進級、入学、就職、転勤など人の異動も多い季節です。

 中旬にはソメイヨシノの開花が告げる桜前線が、南から北上して冬枯れの日本列島を心浮き立つ薄紅色に染め上げてゆきます。各地の城跡、公園、川堤、街道など桜の名所は数えきれないほどあり、花の盛りにはどこも大いに賑わいを見せます。日本人の桜に寄せる思いは格別で、とくに年齢を重ねるほどに深まるようです。かの俳聖・松尾芭蕉も「さまざまな事思ひ出す桜かな」と吟じています。

 ソメイヨシノより花が1月半早く、色もひときわ濃くて人気の河津桜の盛りの南伊豆町下賀茂温泉に2月中旬に行ってきました。水清い青野川に映えるピンクの桜と黄色の菜の花の鮮やかさに心浮き立っていました。

 ご存じのように気象庁から3月3日に桜の開花予報が発表されます。例年は25日頃が日南海岸(宮崎)、高知県、天草あたり、31日には九州一帯、瀬戸内海沿岸、紀伊半島、東海地方、伊豆、房総半島。4月10日には北陸から北関東。北東北は4月20日過ぎで津軽海峡を越えるのは4月末期です。今年はどこで桜に出合いますか。追いかける旅もまた風流なものです。

B級グルメに伊豆・網代の「イカメンチ」

網代のイカメンチ定食喫茶「ことり」で食べたイカメンチ
 伊豆の旅の途中、立ち寄った熱海市網代・多賀で珍しい“イカメンチ”の幟をいくつも見掛けました。イカメンチとは港町網代で昔から食べられてきた郷土料理で、港に揚がったアジ、サバなどをすり身にしてイカを混ぜてニンジン、ゴボウ、タマネギなど野菜を加えた、各家庭が思い思いに作ってきたつみれにして揚げたいわば天ぷらやさつま揚げ。

 これを網代名物にしようと、今年1月に飲食店や土産店が20軒、イカメンチの会を結成し、食事のメニューや土産品として販売をスタート。イカ、魚、野菜は共通素材ですが、作り方や味はそれぞれ異なり、個性を競い合うという感じで始まっています。駅前の喫茶「ことり」で食べたそれは、あつあつでなかなかイケル味でしたが、イカの風味がもう少し強く出した方が、というのが率直な感想。料金はイカメンチ単ピン650円、イカメンチ定食1000円。他店もほぼ同じような料金のようです。
 問合わせは網代温泉観光協会TEL0557-86-6204

『坊っちゃん』から『坂の上の雲』の町への松山

松山市・坂の上の雲ミュージアム坂の上の雲ミュージアム
 2月中旬、伊予の松山を旅しました。「春や昔十五万石の城下哉」と正岡子規に吟じられた松山といえば、道後温泉と夏目漱石『坊っちゃん』の町ですが、今では近代俳句の父・正岡子規と軍人秋山兄弟3人の明治後期の熱い青春を描いた『坂の上の雲』(司馬遼太郎)の町として知られるようになりました。

 2年前、中心街の大街道近くに打ちっ放しのコンクリートとガラスのユニークな坂の上の雲ミュージアムがオープンし、NHKスペシャルドラマになってまもなく放映されるなど注目を集めています。

松山名物・一六タルトいつの時代も不変のみやげの一六タルト
 町を歩けば四国第一の都会らしく人や車のうごめき、観光客の姿も絶えません。四国札所巡りのお遍路さんも道後温泉の奥の石手寺は決して素通りしません。みやげもの店にはタルト、タルト、タルト……。一六タルトの他においしいタルトもいろいろあるんです。町の中心にそびえる132㍍の勝山山頂の松山城は3月20日過ぎには桜が開花。日本列島では宮崎、高知に続く早い早い桜の名所なのです。

中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。