風土47
今月のコラム・見出し


年の瀬やクリスマスを連想させる緋紅色が鮮やかなポインセチア

冬の夜をメルヘンチックに彩るイルミネーション(東京ドームシティにて)
 木枯らしが身にしみ、風花が舞う季節。今年も余日わずかになりました。

 店先や民家の窓辺で目に止まるのが鮮やかな緋紅色のポインセチア。中南米原産の高さ2~3メートルの常緑低木ですが、多くは観賞用に鉢植えの温室栽培。緑と赤の取り合わせが鮮烈で、なぜかクリスマスのイメージと重なります。

 御歳暮、贈答品、故郷名産、帰省土産など物資の往来が頻繁なこの季節。師(先生)より、宅配便屋さんが一番走り回る月ではないでしょうか。

 故郷の味や香りが懐かしくなったら、デパートのふるさと物産展に出掛けませんか?道府県や市町村が出店するアンテナショップも心の帰郷になるでしょう。

 冬枯れの風景を華やかに彩るイルミネーションが町や通り、公園などに今年も灯り始めています。

圏央道開通近しで存在感アピールの中房総(千葉県)


御宿駅に近い海岸に立つ「月の沙漠」の像

御宿名物の「伊勢エビ料理」(大野荘の伊勢エビの鬼殻焼き)

日蓮聖人誕生の地に立つ安房小湊の誕生寺

1〜3月は菜の花畑が車窓に流れるいすみ鉄道

千葉を代表する名物の太巻き寿司(いすみ市・楽働会)
 東京湾と黒潮流れる太平洋の間に突き出す房総半島。そこは暮れのうちに菜の花が咲き出す温暖の地です。

 半島の西側が内房、東側が外房と呼ばれていますが、内房の市原市から長柄(ながら)町、大多喜町、外房のいすみ市、御宿(おんじゅく)町、勝浦市までの10市町が、平成24年に開通の圏央道(木更津東~東金~茂原長南)を機に、中房総観光推進ネットワーク協議会を結成し、地域連携をはかっています。

 そんな動きを知って、10月下旬、外房線特急「わかしお」で最初に訪ねたのが、童謡『月の沙漠』の舞台となった海辺の町、御宿でした。“伊勢えび祭り”(9月1日~10月31日)の幟に誘われ、民宿大野荘で鬼殻焼きなど伊勢エビ料理に舌鼓を打ちました。聞けば御宿は伊勢エビの町で、祭りには宿や飲食店、商店23軒が協賛し、キャンペーを盛り上げていました。

 海岸伝いを南西にたどると、勝浦では400年続く路上の朝市、安房小湊では日蓮上人ゆかりの誕生寺や遊覧船観光の鯛の浦、北東に向かったいすみ市ではビューポイントの太東埼灯台や菜の花路線のいすみ鉄道に心ひかれます。

 内陸に入った睦沢(むつざわ)町では妙楽寺の巨大な木造大日如来坐像(国重要文化財)、長南(ちょうなん)町では日本唯一の建築様式の四方懸(がけ)造りの笠森観音(国重要文化財)など貴重な歴史遺産にめぐりあえます。

 目をひいたのは鴨川市やいすみ市などの寺社に残る武志伊八郎信由の雄渾繊細な彫りの欄間彫刻。波を彫らせたら日本一といわれ、“波の伊八”と呼ばれた宮彫師の作品で、関東一円の寺や神社に多く残されています。

 大原からムーミン列車も走るいすみ鉄道で内陸に向かうと、徳川四天王の本多忠勝が居城した城下町・大多喜町、養老渓谷をかすめる小湊鉄道に乗り継ぐと、古代、上総国分寺・国分尼寺跡の復元の中門、回廊に上総国の国府の歴史が甦る市原市がありました。

 海と山と里山の風景、歴史と文化と祈りの遺構、魚介と穀物と花のもてなし……。

 中房総はおもしろ半島の内懐深く、温もりを感じさせる旅路でした。

<問合せ>
・千葉県観光課観光プロモーション室 ☎043-223-2412
・千葉県観光物産協会観光振興課   ☎043-225-9170
美味、町、海、山、工芸輝く北陸路の冬(富山・石川・福井県)


富山名産のますのすし。駅弁以外に20軒ほどの店がある

イチゲンさんお断りの格式高いひがし茶屋町の家並み

冬の風物詩の雪吊りが美しい日本三名園の兼六園

冬の美味のズワイガニ。福井では越前ガニがブランド名

柱状節理の断崖と日本海がつくる名勝の東尋坊

鯖と酢飯のなじみが絶妙な駅弁「おとなの焼き鯖寿し」(福井駅)
 北陸の冬は雪と寒気に長く見舞われます。その見返りのように、日本海は甘エビ、ズワイガニ、寒ブリなど多くの幸を恵んでくれ、人々は工夫を凝らし一層の美味に仕立てて味わいます。それらが北陸の冬の旅路に一層の楽しみを添えてくれます。

 そんな季節に駅で手にした「北陸冬物語」(JR東日本・JR東海・JR西日本3社共同企画)のパンフレットに誘われて富山、石川、福井への旅をしました。

 富山では氷見ブリ(寒ブリ)やズワイガニなどキトキトの魚介、輪っぱ(曲げ物)に酢飯とマスを載せた“ますのすし”、石川では鴨の治部煮(じぶに)、かぶらずし、ゴリなどに甘エビ、カニなど添えた雅な加賀料理、福井では小鯛の笹漬け、焼き鯖、へしこのほかに、なんといっても11月に解禁なった地元産証明タグ付きの越前ガニなど迷うほどの美味が目白押しでした。

 厳しい冬の気候はまた欄間(らんま)彫刻、加賀友禅、九谷焼、金箔工芸、竹細工など数々の伝統工芸を生み育て、技と美意識を深め、薬や和菓子など多くの物を育んできました。

 伝統芸能や文学、茶の湯、お座敷など文化ももちろん冬が一層磨きをかけたことでしょう。

 門前町や宿場町、武家屋敷町、茶屋町、工芸集落、合掌造りの山村集落、そして富山湾、能登半島、越前海岸、若狭湾の海景も、信仰を秘めた立山や白山(はくさん)、奥越(おくえつ)・経ヶ岳の雪嶺も冬にひときわ輝きを放っているのです。

 そういえばつい最近発表された法政大学大学院・坂本教授の調査による「全国幸福度ランキング」では奇しくも福井県、富山県、石川県がベスト3。かつて行われた「NHK全国県民意識調査」でも同様の結果が示されています。

 自分たちが幸福と感じて暮らしている人達に出会える北陸の旅。もてなしも優しく温かいに違いありません。

 「北陸冬物語」のキャンペーン期間は2011年12月1日~2012年3月31日。Japanese Beauty Hokurikuがサブキャッチです。

 この冬こそ北陸の旅のベスト・タイミングかもしれません。

〈問合せ〉
・JR西日本金沢支社営業課 ☎076-253-5222
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。