風土47
今月の旅・見出し


百花に先駆けて葉より先に花開く梅の花(水戸・偕楽園)

鈴なりの合格祈願絵馬に受験の厳しさを実感(東京・湯島天満宮)
 3日は節分、4日は立春……暦の上では2月は春に向かって駆け足で進みます。

 北海道、東北、北陸など日本海側では降雪が続いていますが、黒潮寄せる南海、太平洋側では梅が咲きだす季節です。

 天神様・菅原道真公を祀る多くの天満宮で道真が愛した梅が咲きほころび、ふくいくとした香りを放つ2月は、受験シーズンでもあり、合格祈願の姿が絶えません。こぼれんばかりに折り重なる奉納絵馬に切実な願いと競争の厳しさが伝わってきます。

 梅は「文(学問)を好めば花開き、文を怠れば花閉じる」との中国故事から“好文木”(こうぶんぼく)とも呼ばれる、学問とゆかりの深い花です。その開花期と受験期が重なるのはなんという巡り合わせでしょう。

 最近、東京大学が5年後に“秋入学”に移行するとの発表がありました。グローバルな観点に立ってのこととはいえ、自然の移ろいに寄り添って暮らしてきた日本人にとって、秋入学は感性や人生観になじむのでしょうか?

茨城県■寒気に花咲く梅が春を呼ぶ偕楽園


水戸のシンボルの黄門様・助さん・格さんの像

紅梅の向こうに見える風雅な趣を湛える好文亭

梅まつり期間中は”梅大使”が笑顔で応対してくれる(2010年3月)

梅酢と紫蘇の香りが甘やかな銘菓“水戸の梅”と梅ふくさ(亀印製菓)

千波湖湖畔のとう粋庵で食べたランチ「黄門料理」(3600円)
 立春が過ぎるとどこか春待ちの心がうごめき始めます。そんな思いを抱かせるのが梅の花です。俗に取り合わせのよいものの例えに「梅に鶯」がありますが、鶯はめったに梅の木には来ず、止まるのは圧倒的にメジロが多いそうです。

 その梅の名所の一つの水戸・偕楽園では2月20日から梅まつりが始まります。

 パンフレットによれば園内には約100種、3000本の梅があり、順次咲き続くとあります。なかでも著名木は柵に囲まれて“烈公梅”など名の付いた6本の古木です。

 烈公とは藩政改革などに功を挙げ、名君とうたわれた9代藩主・徳川斉昭公。観賞と食糧を兼ねて梅を植え、「民と偕(とも)に楽しむ」から偕楽園を開いたのも斉昭公です。通年、入園無料なのはその精神が受け継がれているからでしょう。

 3月の東日本大震災による被害から好文亭など修復工事がまもなく完了し、2月7日(火)には全面開園。記念式典が催され、12日(日)まで文人墨客らを招いた好文亭(190円)が入館無料になります。

 今年の開花は遅れ気味だそうですが、ふくいくたる香りと白梅、紅梅とりどりの色に春を感じに出掛けてみませんか?

 東門の門前には水戸納豆や銘菓・水戸の梅などの土産店や飲食店、水戸光圀公(黄門)と徳川斉昭を祀る常磐神社や陣太鼓など展示する義烈館も見ものです。

 交通は常磐線水戸駅北口からバスで15分。

<問合せ>
・偕楽園 ☎029-244-5454
・水戸市観光課 ☎029-232-9189
・とう粋庵 ☎029-305-7560
・亀印製菓 ☎029-305-2211
岡山県■弁柄で栄えた町並み残る鉱山町・吹屋


情趣ある町並みが重要伝統的建造物保存地区に

きめ細かな建築美の商家を活用した郷土館

昔からの味わいを伝える藤森食堂の手打ちうどん
 城下町、宿場町、門前町など時代とともに栄えた面影を今に残す町があります。なかでも金・銀・銅・鉄などの産出で殷賑を極めた鉱山町もその1つですが、衰退が激しく、多くは姿を留めていません。

 けれど岡山県北西部の山あいに江戸時代から明治時代にかけて、銅とベンガラの生産で栄え西日本きっての鉱山町だった吹屋は、往時をありありと残す数少ない町です。

 伯備線の備中高梁駅からのバスで訪ね入ると、赤茶色の屋根瓦や塗り籠めの白壁、ベンガラ格子など古く美しい町並みがこつ然と姿を表わします。

 弓なりに曲がる300メートルほどの細い道に連なる広壮な家々には石州瓦、ベンガラの塗り籠め壁、白黒のなまこ壁、細やかな千本格子、虫籠(むしこ)窓などさまざまな意匠が施された家並みが連なっていました。

 代表するのが、町並みの中ほどに立つ江戸中期から200年余、ベンガラの製造・販売を手掛けた重要文化財指定の旧片山家住宅や、最上級の木材をふんだんに使って宮大工が手掛けた繊細さ漂う元商人の家を公開した郷土館です。

 吹屋は銅山で始まった町ですが、銅採掘の減少に代わって銅鉱石とともに産出される硫化鉄鉱からできる硫酸鉄(ローハ)がベンガラを生みだすことを発見します。この副産物が銅をしのぐ富を吹屋にもたらしたのでした。

 そのベンガラとはどんなものでしょうか。通常は「紅殻」、吹屋では「弁柄」と表記される貴重な赤色顔料のことで、九谷焼、伊万里焼、輪島塗、衣料の下染め、家屋や船舶の塗料など多方面でもてはやされました。インドのベンガル地方で産出したことからこう呼ばれているようです。

 電柱が取り払われ、派手な看板もなく、淡いベンガラ色に染まった町並みが、今も目にも心にも浮かんできます。また訪ねてみたい町の1つになりました。

 交通はJR伯備線備中高梁駅からバスで約1時間、中国自動車道新見IC車で40分。

<問合せ>
・高梁市成羽町吹屋観光協会 ☎0866-29-2222  ホームページ
銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…八雲小倉(松江市・風月堂)

 数ある松江の銘菓の中でも一押しは、高級な大納言小豆をよく練った小倉餡を、卵いっぱいのふんわりカステラ生地ではさんだこの棹物。粒感を残した餡はしっとりとして上品ながら深い甘さ。和紙にのせて焼く生地のふくよかさと焦げ色も美しく、舌も目もうっとりする絶品だ。少量製造なので予約注文をおすすめ。取り寄せも可。
・半棹箱入り1100円
・島根県松江市末次本町97
・☎0852-21-3576
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。