風土47
今月の旅・見出し


チューリップなど花々が咲き競って春を謳う
熱海・アカオハーブ&ローズガーデン(4月中旬)
 3月と4月の間には大きな河が横たわっています。
国家や学校など公的機関は年度末から年度初めに、学校は卒業式から入学式へ、宴会は送別会から歓迎会に。学齢も2日を区切りに1年異なります。

 そうした大きな節目、変わり目をたった1日であっさり越える4月という月。例年ならこの日を祝うかのように桜が咲きほころびますが、気温の低い日が多かったせいか、今年は桜も遅れがちです。

 今年はどこで桜に出会いますか。近所でも遠くでも、日本人にはそれが1年のもう1つの区切りの行事のようになっているのではないでしょうか。
桜は別れと出会いの季節に重なるだけ、うきうきの中にもどこかしみじみとしたものを感じさせる花でもあります。 さまざまの事思ひ出す桜かな(芭蕉)

三重県■新しい企画で楽しさ弾ける志摩スペイン村


陽気さあふれるメインロードのエスパーニャ通り

歌と踊りと笑顔が弾けるエスパーニャカーニバル

スペインの名物料理の海鮮炊き込みのパエリャ

カフェ・カンタンテの情熱的なフラメンコショー
 年号が平成に変わってまもなくの1990年代は、いわゆるテーマパークと呼ばれるエンターテイメント観光施設が全国に相次いで生まれた時代です。しかし長引く経済不況や旅行志向の変化などによってそのほとんどが姿を消しました。オランダ、スペイン、ドイツ、ロシアなど外国をイメージしたものも多くありました。

 なかで今も健闘しているのが、志摩半島の一角の丘陵地に平成6年にオープンしたパルケエスパーニャを核にした「志摩スペイン村」。ほかにホテルや天然温泉「ひまわりの湯」などからなる広大な敷地をもつ複合リゾートです。

 久し振りに訪ねてみると、名称のとおり宮殿、古城、広場、白壁、オレンジ色の瓦をはじめドン・キホーテ、サンチョ・パンザの像やフラメンコショー、名物料理パエリヤなどいずれもスペイン歴史・文化・芸術等の本格的な再現は変わっていません。

 陽気な歌や踊り、勇壮なアトラクション、カラフルな伝統工芸、美味なスイーツや料理など楽しみがいっぱいあふれていました。

 特にこの春からゴールデンウイーク、夏休みにかけて「人と自然の調和、共存」をテーマに、期間限定や新エンタ―テイメントが続々登場し店舗もリニューアルしていました。NEW企画として目についたのが、

①アトラクション「冒険大迷路~謎の黄金遺跡~」(2月17日~12月2日)
②新作映像ソフト「ポセイドン」
③新フラメンコショー「カフェ・カンタンテ」など。

 また今年2月から入園券類を廃止し、煩わしさのないパスポート券類のみに1本化。入園料金ではシニアパスポート(3800円→2800円)、2DAYパスポート(大人6400円→5800円、シニア5600円→3400円など)、年間パスポート(大人・シニア・中人15000円→12000円)などの大幅値下げも話題を呼んでいました。お孫さん連れのおじいちゃん・おばあちゃんには耳よりなニュースです。

<問合せ>
・志摩スペイン村営業企画部 ☎0599-57-3335
・志摩スペイン村 http://www.parque-net.com

広島県■世界遺産と大河ドラマ放映で隆盛の宮島


平安時代から8代目の宮島のシンボル・大鳥居

海に浮かぶような朱塗りの社殿が優美な厳島神社

表参道に迷うほどあるもみじ饅頭(やまだ屋)

音戸(呉市)で味わった清盛丼(上)と日招き丼(下)
 古来、人はお墨付きやランク付けにヨワいようで、特に日本人はことさらで、“日本三景”の1つの宮島は昔から人気の景勝地でした。国宝・重要文化財も多数知られていましたが、平成8年“世界文化遺産”の登録によって国内外からどっと押し寄せ、さらに今年はNHK大河ドラマ『平清盛』の放映で訪れる人がいっそう増えています。

 平清盛ゆかりのその宮島、呉(音戸)に先日行ってきました。平日でも廻廊を行き交う人の波が絶えない様子に驚きました。 ご存じのように宮島に鎮座する厳島(いつくしま)神社は推古天皇元年(593)に創建された古社です。島そのものがご神体なので地面に杭を打てないため波打ち際と海上に社殿を設け、遥拝するために海中に大鳥居が建てられたのでした。

 対外貿易など瀬戸内や西海など海を舞台に勢力と地位を高めていった平家一門にとって海の神「斎(いつ)き島」への思いは厚く、安芸守になった平清盛が権勢と信仰心、美意識を注ぎ込んで、今日見るような社殿を造営しました。

 潮満ちれば海中に浮かぶかのような、潮引けば巨大さを見せる朱塗りの大鳥居をはじめ、夥しい数の鮮やかな朱塗り柱、反りの美しい檜皮葺屋根、広い板敷床などで構成された社殿は、平安時代にその極に達したといわれる寝殿造りの建築美をみごとに留めていました。

 廻廊を歩きながら宮島公認ガイドの横山さんは、廻廊全体が国宝で踏み歩いている板の下に国宝の敷板があるとか、隙間は下からの海水の力を逃がすためとか、興味深い話をいろいろと解説してくれました。

 島には平家一門の繁栄を祈って奉納した平家納経など宝物、美術工芸品を展示する宝物館や醤油醸造など豪商でならした江上家の屋敷を使って宮島の歴史や暮らしを物語る宮島歴史民俗資料館(来年1月14日まで平清盛館併設)などのほか、社家や上卿(しょうけい)屋敷の古風な家並み続く滝小路、宮島の町家、商家の趣残す町家通り、そして名物もみじ饅頭や宮島杓子などの店が軒を連ねる表参道商店街などもぶらぶら歩いてみると、宮島の歴史や文化の懐の深さが感じられました。

 平清盛は厳島神社造営に限らず、沈む夕日を扇で招き返して1日で開削したとの伝説のある急潮で名高い音戸の瀬戸にも立ち寄りました。 呉へは広島駅から呉駅まで観光列車「清盛マリンビュー」(土・日・祝限定)がありますが、宮島桟橋~音戸漁港を結ぶ「高速船きよもりブルーライン」(土・日・祝限定・約60分)に乗れば、対宋貿易など海にロマンとドラマを記した清盛の思いをわずかでも感じられるかもしれません。

 折しもこれらの歴史、文化、味覚、体験など多彩に楽しめる『宮島・呉キャンペーン』(平成24年4月1日~6月30日・JR西日本)が展開されています。

<問合せ>
・宮島観光協会 ☎0829-44-2011
・呉市観光振興課 ☎0823-25-3309
・JRおでかけネット http://www.jr-odekake.net

銘菓通TVチャンピオンおすすめの今月の菓子…桜どき(千葉県成田市・なごみの米屋)

 成田山新勝寺の参道沿いにある、栗入りの極上羊羹などで知られる老舗が4月中旬まで売り出す季節限定の「桜どき」。透き通った錦玉羹に桜の風情を写し取り、桜色の羊羹を流し合わせた香り立つように美しい棹物だ。歯触りしっとりで、しっかりした甘さなのにきめ細かでまろやか、上品な味わいが好ましい。春をいっぱい感じる羊羹である。
・1棹735円
・千葉県成田市上町500番地
・☎0476-22-1211、フリーダイヤル0120-753-048
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。