風土47
今月の旅・見出し

 寒暖定まらない弥生3月ですが、今年は寒気なお長く、春の足取りは例年に比べるとはっきり遅いようです。
 それでも3日は雛まつり、5日は啓蟄、13日は奈良・東大寺のお水取り(修二会)、20日の春分の日など日毎に季節は進んで行くことでしょう。
 旅ごころもふんわり膨らみ、弾んできます。


奉納の人形があふれる雛流しで知られる和歌山・淡嶋神社

季節の甘味話■3月


300年近く前に創製した元祖的存在の「長命寺桜もち」

 寒さで春は遅れぎみですが、3月は桜前線が日本列島を北上する季節です。開花に先立って和菓子屋の店内には「さくら餅」の張り紙が出されます。四季の折り目ある日本ならではの風情です。
 さくら餅はあんを入れた餅皮を2~3枚の桜葉で包んだ生菓子ですが、関東と関西では異なります。
 関東では東京・墨田の「長命寺桜もち」に代表されるように、小豆のこしあんを薄く焼いた小麦皮でくるみ、塩漬けの香り高い桜葉で包んだものが主流です。
   関西では小豆あんを包む餅皮はもち米を蒸して乾燥させて細かく砕いた道明寺粉を使います。ほんのり薄紅色をつけて桜の葉でくるんでいて、粒の食感が特徴です。
 葉はそのまま食べるか否かはお好み次第ですが、桜の葉の香りを楽しむというのは日本人ならではないでしょうか?京都で有名なのは嵐山近くの「鶴屋寿」です。
<問合せ>
・長命寺桜もち ☎03・3622・3266
・鶴屋寿 ☎075・861・0860

千葉県■東京湾フェリーで渡れば南房総・館山は早い春


春の東京湾を突っ切る快適な東京湾フェリー

黄色い菜の花の明るさはまさに春の色

いちご狩りセンターでは大粒のいちごが食べ放題

歯触り、甘みなどオドロキの食感の銘柄レタス

 ♪春は名のみの風の寒さよ~。今年の春は『早春譜』の歌詞そっくりで、なかなか暖かくなりません。その分人は早い春を探しに出掛けたくなるもので、人に誘われ、南房総へ行ってきました。
 アプローチは横須賀・久里浜港~富津・金谷港を40分で結ぶ、今は東京湾内に唯一残る定期航路の「東京湾フェリー」。白い船体の豪華な「かなや丸」(3580トン・定員580名)と「しらはま丸」(3351トン・定員580名)の 2隻が運行(片道700円・往復1280円)しています。
 向かう対岸はかつて房州石の切り出しでにぎわった鋸山。振り向けば富士山がくっきり姿を現わします。東京湾を航行する多くの船を眺めながらのクルージングは、それ自体で船旅気分を満喫させられます。
 着いた金谷港の近くには50年を迎えてゴンドラを新しくした鋸山ロープウェーが4分で山上に運んでくれます。山上からの眺めは広く大きく胸がすく思いでした。
 国道127号を南下した館山市では菜の花が咲き、いちご狩りセンターでは遅れがちのいちごが今盛り。また神戸(かんべ)地区のレタスの収穫体験(3月下旬まで)ではそのまま食べても美味しい肉厚で歯触りパリパリの絶品のレタスを味わいました。 中央卸売市場の品評会でもトップクラスのブランド・レタスであることが納得です。
 昼に食べた地魚寿司のすし種にも旬の味わいが香っていました。

<問合せ>
・東京湾フェリー ☎046・830・5622
・館山市商工観光課 ☎0470・22・3346
・館山いちご狩りセンター
 ☎0470・22・3466
・かんべレタス・百笑園 ☎0470・28・3200

大阪府■古代の歴史と超高層ビルが織りなす天王寺地区


大阪・下町のシンボル、通天閣の見える新世界の通り

ビルとしては日本一の高さを誇る、あべのハルカス

大阪あそ歩の名ガイド・浪華けいこさんとベルリンの壁

整然として壮大な伽藍を見せる風格のある四天王寺

 日本史の中で古代に関わる遺跡が少なくない市南部の天王寺・阿倍野地区は、大阪に行く旅行者でもわりあい立ち寄ることが少ないエリアです。
 しかしここは聖徳太子が593年に建立、多くの伽藍を配した日本最古の官寺・四天王寺のお膝元。噴水や花壇、庭園をもつ明るい天王寺公園や茂る樹木の中に飼育された天王寺動物園など市民の憩いの場です。隣接して大阪市民の心のシンボル・通天閣があり、新世界やジャンジャン横丁など庶民的なにぎわいで知られています。
 JR・地下鉄天王寺駅、近鉄阿部野駅など和歌山、奈良方面との電車の発着も頻繁で、東京でいえば上野、浅草といった感じのようです。
 この一画に空をつくような高さ300メートル・60階の日本一の超高層複合ビル「あべのハルカス」が出現しました。この夏のタワー館先行オープン、来年春のグランドオープン目指して内部工事が急ピッチで進捗。大阪の新しいランドマークとして注目を集めつつあります。
 この天王寺界隈をまち歩きするのが人気とのことで、大阪観光コンベンション協会などの旗振りによるガイド付き「大阪あそ歩(ぼ)」のまち歩きイベントに参加しました。スタートは天王寺駅。江戸前期の独特の音節を生みだした竹本義太夫生誕の地や、南北に分断された朝鮮民族統一の願いを込めた統国寺を巡りました。この寺には信者から奉納された東西ドイツを隔てたベルリンの壁の一部が置かれていました。
 熊野詣での第一王子之宮とされる堀越神社、庚申信仰の発祥の地という庚申堂、竹本義太夫墓所の超願寺ではお線香を供えました。
 そして訪れた四天王寺は中門、五重塔、金堂、講堂が一直線に並ぶ天王寺式伽藍に中国、朝鮮半島から伝わった仏教の源流が見てとれました。
 大阪の原風景のような町と近未来的都市の躍動……天王寺・阿倍野は目が離せないエリアなのです。

<問合せ>
・大阪観光コンベンション協会・大阪あそ歩事務局 ☎06・6282・5930

中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。