風土47
今月の旅・見出し

日傘、片陰、白絣。
団扇、風鈴、遠花火。

 日本の夏もかつてはこうした風物に涼感を覚えたものですが、今はクーラーの時代。それでも映像を浮かべると何かそよ風を感じられるのは歳のせいでしょうか。 暑中ならびに残暑お見舞い申し上げます。
 蒸し暑さが続く日本の8月。夏バテどころか、熱中症も珍しくない昨今。水分と適度な冷房の必要性が大いに叫ばれています。
 児童、生徒、学生の夏休みとともに旧盆(8月13日~16日)を中心にした数日は、会社勤めや自営者も夏季休暇で、避暑、行楽、保養、祭り、帰郷など日常を離れて出掛けることが多いことでしょう。
 夏祭り、花火大会の季節でもありますが、とくに東北地方は青森・ねぶた、秋田・竿灯、仙台・七夕、山形・花笠など上旬は祭りの連続です。
道路渋滞、乗り物混雑を考えながら、事故のない夏をお過ごしください。


水面の上にぽっかり開くハスの花(秋田市・千秋公園にて)

季節の甘味話■8月 水饅頭

 和、洋を問わずお菓子の世界は季節に敏感です。夏盛りの8月は目に耳に、鼻、口、肌に涼感を呼ぶ菓子がいっぱい製造、販売されます。
 葛や寒天、果物などを使った目に舌に涼しげな代表的な一品が「水饅頭」です。透き通るような葛粉とわらび粉の生地でこし餡を包み、冷たい水に浮かべたもので、スプーンなどで口に運ぶと、ひんやり、つるりと舌から喉へと涼味が流れてゆきます。
 湧水、名水などで「水の町」ではたいてい作られております。
 “水都”と呼ばれる湧水あふれる大垣の20軒余の水饅頭をはじめ、東海道の宿場・醒ヶ井宿、新潟・新発田など名水の町で食べました。

秋田県■夏の終章に“華”競う全国有数の花火のまち大曲


打ち上げを待つ人たちが埋め尽くす特設の桟敷席

数々と打ち上げられたみごとな花火のひとコマ

花火にちなんだみやげ菓子があるのも大曲ならでは

花火の合間に楽しんだ花火のように多彩な弁当

 秋田県東南部、奥羽線と田沢湖線(秋田新幹線)が交わる大曲(おおまがり)は内陸だけに日中はかなりの暑さになります。明治43年に始まる「大曲の花火」でつとに名高い花火の町です。
 納涼花火でもありますが、「全国花火競技大会」と銘打つように各県から選ばれた花火師が製作した花火の技術と芸術性を審査される歴史と伝統を誇るコンクールなのです。
 昨年、8月25日(土)、東北観光推進機構の招きで観覧席で観賞する機会がありました。駅に降り立ち、花火通り商店街を人波に混じってぞろぞろ歩くこと30~40分。昼花火が終わった丸子橋特設会場には夜花火の部の打ち上げ開始を待つ人たちが高く組まれた観覧席を埋め尽くしていました。
 指定の観覧席券の「A席30993」をやっと探し当ててたどり着くと、どの席も飲食や歓談で盛り上がり、賑やかに夕暮れを待っていました。
 開始の号砲花火と挨拶のあと、19時過ぎに競技開始。長野県の煙花店を皮切りに、10号芯入割物、10号自由玉、創造花火をテーマに、東日本の各県を代表する店の作品が音、色、光、形など高く、大きく、鮮やかに夜空に次々とめまぐるしく連打されました。その度に拍手と歓声が上がりました。
 パッと花開き、パッと散ってしまうはかなすぎる花火ですが、一瞬で闇を開き、一周で闇に戻る夜空を見上げていると、子供時代のこと、友人のこと、父母のことなどさまざまな人が思われるのも花火の魅力かもしれません。
 今年の大曲の「全国花火競技大会」は8月24日(土)、会場は雄物川河畔、昼花火17時30分~、夜花火18時50分~。
<交 通>
・秋田駅から大曲まで秋田新幹線で約30分
<問合せ>
・第87回全国花火競技大会事務局 ☎0187・62・1262
・大仙市大曲観光物産協会 ☎0187・63・1111

滋賀県■歴史が通り抜けた湖北の宿場町・門前町の木之本


宿場町の面影色濃く残る木之本の家並み

町の核をなす街道沿いの木之本地蔵院

 琵琶湖の北東畔、木之本(きのもと)はひっそりした町ですが、天正11年(1583)、織田信長の後継を掛けて家臣同士の豊臣秀吉と柴田勝家が戦った古戦場の賤ヶ岳(しずがたけ)のお膝元です。古くは木之本地蔵院の門前町として発展、北国街道の城下町として発達しました。
 北陸本線木ノ本駅から東へ5~6分、その面影残る道筋を訪ね歩いてきました。通りに出ると、牛馬の売買市が開かれた歴史を伝える「馬宿平四郎」など格子窓や白壁の平入りの低い2階の商家が連なり、450年余の桑酒の「山路酒造」や七本槍の「冨田酒造」などが点在。その中ほどにある眼病平癒の信仰を集める本尊地蔵菩薩に手を合わせ、江戸中期の池泉観賞庭園でしばし心を放ちました。
「本陣薬局」の店先には中将湯、浅田飴、三黄丸などの古びた薬の木看板がさりげなく下がって懐かしさを呼び覚まされました。見ると通りには「2014大河ドラマ『軍師官兵衛』、黒田家発祥の地。ようこそ木之本へ」ののぼりがはためき、問屋跡地の「きのもと交遊館」では戦国大河の展示がありました。
 案内くださった奥びわ湖観光協会の関田みな子さんは、あまり知られていませんが…と前置きして、「来年のNHK大河ドラマの主人公・黒田官兵衛のルーツは木之本町黒田村なのです」と話します。ゆかりの地は駅の西方、賤ヶ岳の麓。黒田家御廟所なども駆け足で案内してくれました。ドラマが始まれば賑わうことでしょう。
 テレビなどの紹介で大人気の刻んだたくあん入りの「サラダパン」のつるや、「名代草餅」の菓匠禄兵衛、「鯖の棒すし」のすし慶など木之本は、目も心も胃袋も満たされる町でした。


創業100年のすし慶の名物「鯖の棒すし」

<交 通>
・北陸本線木ノ本駅下車、徒歩5~10分
<問合せ>
・びわこビジターズビューロー ☎077・511・1530
・長浜市産業経済部観光振興課 ☎0749・65・6521
・奥びわ湖観光協会 ☎0749・82・5909

中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。