風土47
今月の旅・見出し


秋の花色に染まる北海道・美瑛の「四季彩の丘」
 10月は爽秋の季節です。

 9月下旬まで酷暑の名残が続いたせいか、10月が待ち遠しく、また旅行などを延期していた人も少なくありません。仕事にスポーツに趣味に、そして仕事に打ち込むにも最も快適な季節ではないでしょうか?

 とはいえ北海道ではすでに紅葉前線が南下して、大雪山は初冠雪など冬の兆しさえほの見えています。秋は駆け足で列島を走り抜けてゆくのでしょう。

 田畑や山野、海からも美味がもたらされ、まさに「食欲の秋」です。

 食、祭り、紅葉、芸術など心誘われる物が多い10月……旅に出かけませんか?

季節の甘味話■10月 最中(もなか)


3色の餡が詰まった坂尾甘露堂の「加賀さま」

手で合わせて作るたねやの「ふくみ天平」
 パリッとした皮で餡をはさんだ最中は愛好者の多い和菓子の1つです。もち米粉をこねて薄くのばして円形の型に入れ、焼いて皮として2片で餡をはさんだものです。

 餡は水分が少なく粘りや煉りが硬めなのは皮が湿気を吸いにくくするためで、皮が崩れにくくパリパリ感があることが大事だからです。そのため近年は皮と餡を別々に個装し、食べる時に自分で合わせる“手作り最中”がずいぶん増えています。

 最中の名は、古歌の「池の面に照る月なみを数うれば今宵ぞ秋のもなかなりけり」と詠まれたように、最中は満月の意味。丸型を月に見立てたのでしょう。今日では丸の他に四角、瓢箪、栗、花、魚など実にさまざまな形の皮が作られています。

 代表的なのは丸型では「加賀さま」(金沢市・坂尾甘露堂)、「白松がモナカ」(仙台市・白松がモナカ本舗)、四角い「百楽」(大阪市・鶴屋八幡)、ひょうたん型の「空也最中」(東京都・空也)、手作りでは「ふくみ天平」(近江八幡市・たねや)が知られています。

・坂尾甘露堂☎076・262・4371
・たねや☎0748・33・1151

長野県■りんごや紅葉色づく秋の湯田中温泉めぐり


老舗旅館や共同風呂が風情漂わせる大湯あたり

ソープやシャンプー完備がうれしい「楓の湯」

清風荘の露天風呂と特製の「ざく切りりんごのジャム」
 長野県北東端、山ノ内町は山と高原、温泉と果樹の町です。

 秋はりんごや草木が赤く色づき、湯煙や吐く息が白さを増して、やがて山に雪が来て志賀高原は白銀の世界。色とりどりのスキーウエアが斜面に躍ります。

 そんな季節の合間に湯田中温泉に遊びました。湯田中は夜間瀬川の北岸の高台に延びるかつての前橋街道沿いを中心に旅館や土産物店が連なる温泉地です。

 駅から南へメーン通りを7~8分歩くと、地元用の共同風呂の「大湯」を中心に老舗の旅館など昔日の面影を漂わせる家並みが続いています。典雅でレトロな桃山風呂のある旅館「よろづや」や俳人・小林一茶が逗留した「湯田中湯本」など宿や土産物店、寺などが地味ですが、落ち着いた町並みをつくっていました。

 周辺には「綿の湯」「わしの湯」「滝の湯」「白樺の湯」「千代の湯」など小さな湯屋が点在します。鍵をもつ地元民だけが入浴できる風呂なのです。(ただし毎月26日は一般の人の利用が可とのこと)。

 長野電鉄終点の湯田中駅で降りると駅に隣接して、温泉郷の玄関口らしく足湯と内風呂からなる「楓の湯」があります。300円払って入浴すると、5~6人でいっぱいの内風呂と3人ほどの露天風呂があり、平日ながら混んでいました。

 駅近くの知り合いが経営する宿の「清風荘」に顔を出すと、今がシーズンとリンゴを浮かべた風呂を勧められました。帰りに貰った宿の特注の「ざく切りりんごのジャム」は、しゃきりとした歯応えとほんのり甘酸っぱいりんご本来の美味しさと香りを醸す絶品でした。そばの季節でもあります。

 宿の若旦那の大関松男さんの話では10月からは旅館の女将さんがバスに同乗して自慢のスポットを約1時間半案内する『湯の郷まるでら号』が運行するとのことでした。

<交通>
・長野駅から長野電鉄特急で約45分
<問合せ>
・山ノ内町観光連盟☎0269・33・2138
・楓の湯☎0269・33・2133
・清風荘☎0269・33・3295

徳島県■「なると金時」でほっくりの水の都・徳島市


駅前から望むこんもりした徳島のシンボルの眉山

ボードウォークが快適な新町川のリバーサイド

「なると金時」

クリーミーな甘さの「なると金時レアチーズポテト」

ほくほく食感の焼き饅頭の「元祖銘菓なると金時」

鳴門うず芋
 四国の中ほどを西から東へ流れる吉野川。その河口にひらけた徳島市は川や水路に囲まれた水の都です。江戸時代は蜂須賀氏の阿波藩25万石の城下町として栄えました。

 駅前に降り立つとビルの通りに連なるワシントンヤシの並木の正面に、徳島のシンボルの「眉山(びざん)」がこんもりそびえています。ボードウォークの新町川を渡り、山麓に立つ年中阿波おどりが見物できる「阿波おどり会館」へ。ロープウェイで山頂に立つとビルの林立する市街が眼下に。大鳴門橋や淡路島、和歌山方面も間近でした。

 香ばしい匂いに誘われて名物の「やき餅」を食べて、涼やかな風と眺望をしばし楽しみ、帰りは阿波おどり会館の物産コーナーに並ぶ徳島特産の「なると金時」を宅送。店員さん曰く「なると金時は皮は紅色、中は黄金色。蒸かしても焼いてもほっくり甘いんです。海砂の混じる吉野川河口から鳴門にかけて採れます。時には普通のサツマイモの2倍の値段もする最高級ブランド芋です」。

 そういえばこの会館だけでなく徳島駅クレメントプラザ地階の土産品コーナーには、なると金時を使ったさまざまな種類のスイーツが迷うほどありました。人気のクリーミーな「なると金時レアチーズポテト」(徳島市・五線譜)や、スライスした芋を蜂蜜に漬けたいかにも芋の旨みが実感できる「鳴門うず芋」(つるぎ町・栗尾商店)をうっとりしつつ味わいました。金時芋の出荷箱そっくりのパッケージの「元祖銘菓なると金時」(鳴門市・菓匠孔雀)も土産に買いました。

 徳島ラーメンやたらいうどんも名物です。

<交通>
・高松駅から高徳線特急で1時間10分、徳島駅下車
<問合せ>
・徳島市観光協会☎088・622・4010
・阿波おどり会館☎088・611・1611
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。