風土47
今月の旅・見出し


実りの秋の極みの柿と兵庫・出石城
 秋深まりゆく昨今。各地から紅葉の便りが届きます。

 それを追い掛けるように山岳地帯では雪が降り始めています。長い酷暑の夏の見返りに冬は寒く、雪が多いのでしょうか。

 11月は場所によって秋の終わりとも冬の始まりともいえる微妙な月ですが、朝夕冷え込む日でも、時には日中のポカポカ陽気に身も心もほこほこ。これを「小春日和」と呼んだ先人の表現力に脱帽します。陽だまりの心地よさと可憐さから、「小春」は女性の名前にも使われます。

 寒さとともにたそがれも早いこの季節、柿の実は朱赤に熟れきって、柚はごつごつの形で黄色く実ります。その背景に澄んだ秋の空があれば、まさに「旅日和」です。

 逝く秋の大和の国の薬師寺の塔の上なるひと片(ひら)の雲  佐佐木信綱

季節の甘味話■11月 柿菓子


秋の風情こもる上品な甘さの銘菓「木守」
 柿はそのまま生食するのが一番おいしいですが、干し柿や小豆餡、寒天を加えて羊羹にするなどお菓子には欠かせない素材の1つです。その代表菓が縄や藁でぐるぐる巻きにした「巻柿」。

 これを風雅な茶菓に仕立てたのが高松市・三友堂の「木守」(きまもり)です。干し柿をよく煮込んで柿ジャムにし、小豆と寒天をなじませた餡にしてもち米粉の煎餅ではさんだもので、パリッとした歯触りともちっとした柿餡との穏やかで上品な甘さが口中に漂います。菓名はすっかり実を落とした柿の枝に翌年の豊作を願ってポツンと1つだけ残す“木守り”からの名付けです。

 他に柿に寒天など加えて半割の竹に流した大垣市・槌谷の「柿羊羹」という柿の旨さを生かした銘菓もあります。

・木守=三友堂☎087・851・2258
・槌谷=☎0584・78・2111

岩手県■復興遠いが、昔に変わらぬ美しい景観の宮古の海


無惨さを伝える宮古・田老地区の防潮堤

かつての面影そのままの美しい浄土ヶ浜

港そばでいち早く再開した「寿司魚正」

以前に変わらぬ様相の宮古・魚菜市場
 先日、震災後、初めて三陸海岸の宮古市を訪れました。早く行きたいと思いつつ2年半が過ぎました。復興の進捗(しんちょく)ぶりはいかがと思い、最初に足を運んだのは度々の津波災害を教訓に、高さ10メートルの3重の防潮堤を巡らし、防災万全と称された田老(たろう)地区です。

 「学ぶ防災」のボランティアガイドの案内で第1防潮堤に立つと、第2防潮堤はほとんど破壊、波はことごとく堤を乗り越え、家々は打ち砕かれ流され、ここに街があったのかと思うほどの雑草の原っぱが広がっていました。

 ただ1軒、6階建ての「たろう観光ホテル」が、波に襲われて残った1~2階部分の鉄骨・鉄柱が津波のむごさを伝えていました。

 このホテルの窓から津波の来襲を一部始終撮影したビデオがここを訪れると見られます。今更ながら胸がつぶれる思いでした。

 被災の建物や船などは忌まわしい記憶や保存の難しさから撤去されていますが、この建物は薄れゆく津波の恐ろしさの“記憶の防波堤”として残しておく方がよいのではないかと思いました。

 宮古観光のシンボルの「浄土ヶ浜」に行ってみると、何もなかったかのように、松をのせた岩と白石の浜がつくる美しい景観が甦っていました。自然の造形の強さというのでしょうか?

 売店や食堂で働く人やガイドに携わる人の話を聞けば、家族や友人、家屋、財産を失ったと言葉を詰まらせながらも前向きに生きる人たち……その姿に人間の強さもまた見たようでした。

 宮古の海岸部は復興にほど遠いですが、駅前周辺の市街地は思いのほか被災の傷痕は癒えているようで、旅人の受け入れも整いつつあるように見受けられました。

<交通>
・JR山田線、三陸鉄道宮古駅下車
<問合せ>
・宮古市産業振興部商業観光課☎0193・68・9091
・宮古観光協会☎0193・62・3534

長崎県■多彩な歴史、文化、味に出合える坂の町・長崎


洋風建物が集まる長崎のシンボルのオランダ坂

外国人の居留の名残の東山手洋風住宅群

キリシタンの祈りの聖地・国宝・大浦天主堂

しっぽくの1つ、豚の角煮の坂本屋の「東坡煮」
 歴史、文化、景観、味覚……長崎は旅する者にとって、魅力多彩な町です。

 長崎駅を出ると目を前にひっきりなしに行き交う路面電車。迷路のように巡る石畳や石段の坂道を歩けば暮らしの匂い、異国情緒の名残がそこここに。高みで振り返ると、洋の東西を問わず多くの文明文化が持ち込まれた青い港がのぞかれます。

 長崎を巡るなら市電を軸に歩きがおすすめ。代表的なコースは、駅前からの市電を市民病院前で下り、オランダ坂歩きから始まります。

 活水女学院下の切り通しの石畳の坂道ですが、丘の上に外国人居留地があったので、いつからとなく“オランダ坂”と呼ばれるようになったのです。長崎港を見下ろす東山手の傾斜地には7棟の瀟洒な洋風住宅が並び、往時をしのばせます。

 足下に見える黄瑠璃瓦の屋根は長崎における中国文化を伝える孔子廟・中国歴代博物館です。ここに入館して市電を横切ると前方の丘に、現存する最古の木造ゴシック建築の大浦天主堂が見えてきます。居留外国人のために幕末の1864年に建てられた教会で、ステンドグラスとコウモリ天井の荘厳な聖堂は日本人キリシタンの心の拠り所にもなりました。

 横の道を抜けた先の港を見晴らす南山手の丘には、日本の文明開化に関わった英国人貿易商トーマス・グラバーをはじめ外国人邸宅を集めたグラバー園があります。坂を下りて港沿いを歩くと、外国人が出入りした人工島の出島があります。近くには港風景と一体となった飲食・物販の出島ワーフがあります。

 中華・和食折衷の豪華なおもてなし料理の「しっぽく」、庶民的な「ちゃんぽん」、ポルトガル渡来の「カステラ」など和・洋・華の文化が織りなす長崎はまさにちゃんぽんの町。歩けば多種多彩な歴史が見えてくる万華鏡のような港町です。

<交通>
・JR長崎本線長崎駅下車
<問合せ>
・長崎市総合観光案内所☎095・823・3631
・坂本屋☎095・26・8211
中尾隆之
中尾 隆之(旅行作家)高校教師、出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。