風土47
今月の旅・見出し


6月の花の紫陽花(飯能・休暇村奥武蔵にて)

茅の輪くぐり(宮崎・鵜戸神宮にて)
 6月は本州では雨がしとしとの梅雨時ですが、陰暦の異称は「水無月」(みなづき)です。水が無い月ではなく、水を田に注ぎ入れる月の意味だそうです。

 今年は6日が二十四節気の「芒種」(ぼうしゅ)。芒とは穀物の穂先の硬い毛のことで、この日を目安に種蒔きや田植えを行ないました。地球の温暖化のせいか、季節が足早になって多くの地方ではその農作業は済んでいます。

 変わらないのは1年で昼が最も長く、夜が最も短い6月21日の「夏至」の日です。北海道東端の根室や知床半島辺りは白夜めいた感じの日が続きます。

 6月が過ぎると1年の半分が終わります。半年の間に付いた罪やけがれを祓い浄めるための「夏越しの祓え」の行事があり、多くの神社で茅の輪くぐりが行われます。

にっぽん・お菓子紀行~旅で出合った名菓・珍菓~水戸の梅/乃し梅(茨城県水戸市)

亀印製菓の「水戸の梅」と「梅ふくさ」
 しとしと降り続く雨の6月。梅雨と書くようにこの時期の雨は梅が青々と熟する季節です。その梅の町の水戸市の駅ビルの売店に競うように並ぶのが銘菓「水戸の梅」です。

 明治中期に求肥で白餡を包み、梅酢と蜜に漬けたシソの葉でくるんだものを数軒の店が発売。その後統一商標で味を競い合ってきたのです。元祖争いもあるようですが、嘉永5年(1852)創業の漬物店をルーツにする「亀印製菓」が明治25年に「星の梅」で売り出したのが始まりとか。片や明治23年に県令安田定則勧めで売り出したというのが「井熊総本家」。他の店も材料や製法、風味に大差なくそれぞれにひいきが付いています。

井熊総本家の「のし梅」
 梅肉をつぶして砂糖、寒天で煮詰めて延ばしたゼリー状の甘酸っぱく香りのいい「のし梅」の店も多く、「吉原殿中」とともに人気の水戸銘菓になっています。

・亀印製菓☎029・305・2211
・井熊総本家☎029・221・2605
埼玉県■宿場で栄えた花と歌舞伎と名水の町・小鹿野


宿場の面影が残る小鹿野の中心街

旧本陣寿旅館を改装した「観光交流館」

200年続く太田甘池堂の「古代秩父羊羹」

OGANONOのロゴに注目の「夢鹿蔵」

秩父・小鹿野名物の「わらじかつ丼」
 秩父市の北、囲まれるように群馬県境に接して位置する小鹿野(おがの)町は、かつて上州や信州への街道の往来で古くから栄えた宿場町です。国道299号沿いの中心街には古くからの木造3階の商家や蔵、商店、旅館などが連なり、趣ある町並みを残しています。

 町歩きの拠点は2年半前に旧本陣寿旅館を改修した「観光交流館」で、観光情報館や食事処、休憩所などになっています。かつて地質調査に訪れた宮沢賢治の宿泊記録があり、「雨ニモ負ケズ」の詩碑も立てられました。別棟の代官の間は多目的ホールで、250年続く、町民による小鹿野歌舞伎が演じられることもあります。

 近くの118年前の銀行の蔵を改装した休憩や食事ができる交流施設の「夢鹿蔵」(ゆめかぐら)には、オートバイ専用の屋根付き駐輪場も完備。両神温泉・薬師の湯の駐輪場とともにオートバイで町おこしするライダー歓迎の小鹿野町ならではの設置です。

 宿泊や温浴なら「国民宿舎両神荘」が便利です。

 創業200年余の太田甘池堂の「古代秩父羊羹」やビッグな「わらじかつ丼」も小鹿野名物です。

〈交通〉
・西武鉄道西武秩父駅からバス約45分、秩父鉄道秩父駅から約40分
〈問合せ〉
・小鹿野町おもてなし課・小鹿野両神観光協会☎0494・79・1100
・観光交流館☎0494・75・4717(食事処ゑびすや)
・国民宿舎両神荘☎0494・79・1221
・太田甘池堂☎0494・75・0132
兵庫県■時間をゆったり留めた城下町の名残・出石


出石の町とシンボルの辰鼓楼

皿に盛って出てくる出石そば

栗蒸しや沢庵饅頭の湖月堂

沢庵和尚が再興に尽力した宗鏡寺

今は化粧品店の川崎尚之助生家跡
 兵庫県北部の豊岡市は今やコウノトリが甦った町として知られていますが、平成の大合併でその豊岡市と一緒になったのが城崎温泉や城下町出石(いづし)です。

 バスの終点は小高い台地に石垣や長塀、隅櫓を見せる出石城の麓。江戸時代に築かれ、松平氏ら城主が入れ替わって、信州・上田から移封され5万8000石を以って治めた仙石氏の時代が明治維新まで続きました。

 江戸時代の町は明治の大火で焼失しましたが、住民は江戸の面影を引き継ぐ感じで昔ながらの町を甦らせ、いま見るしっとりした町並みを残してきたのです。

 その象徴が三の丸大手門の脇に、太鼓を打ち鳴らして登城の辰の刻を知らせた見張り櫓を模した「辰鼓楼」(しんころう)。明治半ばに時計が取り付けられたといいます。

 町を歩いて目に付くのは43軒ほどある「出石皿そば」の店です。そばの風土がない関西方面に繁栄しているのは、そば王国・信州から国替えの時、城主がそば職人を連れてきたことに始まるそうです。

 食べ方は信州とは大いに異なり、白磁の出石焼の皿にそれぞれ盛ったそばを、ネギやワサビ、とろろなどを薬味に鶏卵1個を溶いたつゆにつけて食べるというユニークさ。

 出石で目を引くのは、漬物のたくあんの創始者でおなじみの沢庵和尚の出身地で、晩年、戻って再興したのが宗鏡寺です。そして昨年のNHK大河ドラマ『八重の桜』の主人公の八重(綾瀬はるか)の最初の夫の川崎尚之助(長谷川博巳)の出身地であることでにわかに脚光を浴びました。出石藩の藩医の生まれで、生家跡の案内板がかけられました。

〈交通〉
・山陰本線豊岡駅からバスで30分
〈問合せ〉
・但馬國出石観光協会☎0796・52・4806
中尾隆之
中尾隆之(日本旅のペンクラブ代表)
出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。