風土47
今月の旅・見出し


9月~10月、道辺に咲き連なって萩が
道をなす千葉・勝浦の「花野辺の里」
 9月は「秋」の序章です。四季の区分の1つのほかに、秋の字には穀物が実ること、時などの意味もあります。また秋気、秋水などの語句には澄みきる、すっきりとしたという、さわやかなイメージをまとっています。秋雨、秋思などのようにどこか寂寥感を伴ってもいるようです。

 秋の草花は七草の萩に始まり、桔梗、コスモス(秋桜)、彼岸花、菊などと続きます。なかでも字に秋をもつ「萩」は、紅紫の花びらは小さく、どこか控え目で寂しげです。それがいにしえの大和人の好みに合ったのか、万葉集にも数多く詠まれています。

 1日は節分から数えて「二百十日」、10日は「二百二十日」。季節の変わり目に当たる頃で暴風雨(台風)の襲来が多く、特に稲作農家では警戒し、備えをしたものですが、気象の地球規模の変動で必ずしも当たらなくなりました。

 23日は秋分の日……この日を過ぎると昼がしだいに短くなって、月日の足取りは速まりつつ過ぎてゆきます。

 山海の幸の収穫期だけに、旅先でも食卓でも食べる楽しみも増すシーズン。アンテショップに出向き、ふるさとの旬を探すのも旅ではないでしょうか?

にっぽん・お菓子紀行~旅で出合った名菓・珍菓~薄皮饅頭/ままどおる (福島県郡山市)

百数十年続く柏屋の「薄皮饅頭」
洋風随一の三万石「ままどおる」
 新幹線、東北本線、磐越西線、水郡線の接続する郡山は福島県中央部に位置する交通の要衝。この町の名物に柏屋の「薄皮饅頭」があります。江戸時代、奥州街道の郡山宿で売り出さした茶屋饅頭が始まりで、香りよい黒糖入りの薄皮の中にきめ細かで上品な甘みのたっぷりの小豆あんがロングセラーの秘密です。

 もう1つの名物が三万石の「ままどおる」。昭和35年~40年頃、洋風の土産菓子がなかったことから、バターを使った小麦生地でミルク入りの白餡を包んだやさしい洋風の美味しさがたちまち人気を得ました。

 新旧、和洋の郡山を代表する土産菓子の不動の両横綱の地位を守り続けています。


・柏屋☎024・932・5580
・三万石☎024・932・1661


岩手県■藤原三代の栄華と世界遺産の人気が続く平泉


平泉の象徴の金箔の金色堂

老杉の表参道・月見坂

レストラン源の「平泉もち御膳」


松栄堂の「ごま摺り団子」と「献上田むらの梅」
 藤原三代百年の黄金の都・平泉が世界遺産に登録されて3年余。1年目の秋と、この夏に訪ねましたが、「平泉レストハウス」の駐車場など団体ツアーのバスがひっきりなしに出入りし、老杉がそそり立つ表参道の月見坂を行き交う人が絶えません。相変わらずの人気振りでした。

 中心ポイントは慈覚大師円仁の開基に始まり、清和天皇によって改称、長治2年(1105)に藤原清衡が再興した天台宗の「中尊寺」です。とりわけ目をひくのが天治元年(1124)に完成した国宝「金色堂(こんじきどう)」で、堂の内外すべてが金箔で飾られ、巻柱や須弥壇には夜光貝を用いた螺鈿細工や漆の蒔絵が施されたみごとな阿弥陀堂です。覆堂の中で燦然と光を放っています。京都・金閣寺の270年も前のことです。

 特筆すべき1つに内陣に藤原三代の遺体がミイラとなってなお800~900年余安置されていることがあります。

 金色堂は建立後165年間は覆われることなく風雨にさらされながら建っていました。後に執権・北条貞時が覆堂を設けて保護したことによって、今に残るのです。

 平泉が滅んで500年後に『奥の細道』の旅で訪れた松尾芭蕉は覆われた金色堂を参詣して、「五月雨の降り残してや光堂」の句を詠んでいます。

 中尊寺には美術工芸の粋、栄華と滅亡の哀史、源義経・弁慶の最期、松尾芭蕉の句などいろいろに心寄せる人がいつの時代も多く、世界遺産でさらに国内外から観光客がめっきり増えています。

 わずか百年で滅んだ都ですが、900年後の今も輝き、語り伝えられているとは三代の誰が思ったことでしょう。

 食事なら餅文化の国・岩手ならではのあんこ、生姜、ずんだなど6種類の餅が味わえるレストラン源(げん)の「平泉もち御膳」(1600円)がおすすめです。

 おみやげにはごま蜜がとろり、ひやりと舌に漂う、菓匠松栄堂の「ごま摺り団子」(8個入り・540円)や、青ジソの葉でくるんだ求肥と梅餡がもっちりとして清々しい甘さの「献上田むらの梅」(8個入り・864円)を美味しさ太鼓判、お忘れなく。

 中尊寺参道入口前の「平泉レストハウス」では、食事の他に「漬物の金婚漬」など東北地方の一帯の名産品も揃っています。

<交通>
・東北新幹線一ノ関駅からバスで22分、または東北本線平泉駅からバスで5分
<問合せ>
・平泉観光協会☎0191・46・2110
・平泉レストハウス(レストラン源・土産処ジパング)☎0191・46・2011(代表)
・菓匠松栄堂総本店☎0191・23・5009


鳥取県■ベージュ色の砂の世界にうっとりする鳥取市


風紋がみごとな鳥取砂丘

珍しい常設の砂の美術館

JR鳥取いなばの砂丘らっきょう漬

かろや商店のとうふ竹輪
 鳥取市は江戸時代は藩政時代、岡山から移った池田氏が治めた因幡・伯耆32万石の旧城下町です。その名残は市街地の北寄りの久松山麓の秀吉の兵糧攻めで名高い鳥取城跡や藩主ゆかりの樗谿(おうちだに)神社、興禅寺などにありますが、今は人口19万余の県庁所在地として賑わっています。

 多くの旅行者のように向かったのが鳥取砂丘。砂丘会館の前から小丘を上ると、目の前にパッと大きく開けたのが、なだらかなうねりを連ねるベージュ色の広大な砂の丘陵。風が描いた美しい模様や青い日本海など日本離れした光景は何度見てもうっとりさせられます。

 自然の営みだけがなし得るこの眺めを求めて年間130万人が訪れるそうです。2012年春にリニューアルオープンした世界初の砂像展示の「砂の美術館」も必見です。

 一見、不毛地帯のようですが、周辺の砂地では古くからラッキョウ栽培が盛んで、全国屈指の生産地。JA鳥取いなばの「砂丘らっきょう漬」は絶品です。収穫は6月ですが、種蒔きは9月に始まり、赤紫の花をつけるのは10月半ば。

 ラッキョウつながりではないのですが、鳥取市はカレールーの消費量全国一、つまり全国屈指の“カレーライスの町”なのです。ついでながら豆腐7:魚肉3の割合の飽きないおかず、おやつの「とうふ竹輪」も、家庭の冷蔵庫に常備の鳥取市民のソウルフードです。前田商店やかろや商店など市内に6つの製造元があります。

 また甘味とかすかな酸味がみずみずしい日本一の生産を誇る鳥取の特産品の「二十世紀梨」はただ今、8月中旬~10月が収穫期です。

<交通>
・山陰本線鳥取駅下車、バスで22分
<問合せ>
・鳥取市観光協会☎0857・26・0756/鳥取市観光案内所☎0857・22・3318
・砂の美術館☎0857・20・2231

中尾隆之
中尾隆之(日本旅のペンクラブ代表)
出版社を経てフリーランスライターに。月に10日は取材旅行の現場主義で、町並み、鉄道、温泉、味覚等の紀行コラム、エッセイ、ガイド文を執筆。とくにお菓子好きで、新聞、雑誌にコラム連載のほか、『全国和菓子風土記』の著書もある。2007年8月に「全国土産銘菓選手権初代TVチャンピオン」(テレビ東京系)に。