風土47
今月の旅・見出し


濃いピンク色が力強く春を告げる桃の里(茨城県古河市・古河総合公園)
 4月はソメイヨシノの桜前線が北上して、日本各地を春色に染め上げて行く時。3月中旬の南九州や南四国に始まり、北海道東部に至るのは5月中旬。世界地図では狭い日本だが、桜は2ヶ月ほど北上の旅を続ける。

 その都度、テレビや新聞、雑誌は花見へ誘い、日本列島は”桜狂い“の様相を繰り広げる。

 桜をけじめにするかのように4月は入学式や入社式、桜に誘われるかのようにユキヤナギ、レンギョウ、桃などが開花、人界も自然界も生気をみなぎらせる“張る”の季節に染まる。旅ごころの蕾も開いて、今年も本格的な旅行・行楽シーズンが幕を開け、5月の大型連休で大きく花開く。

 古河(茨城県)や昼神温泉(長野県)では花桃がひときわ華やかな時である。

岡山県■歴史・文化の名残を宿す桜らんまんの城下町・津山


桜の花に優美さを増す津山城備中櫓

名城の面影を伝える津山城の高石垣

津山銘菓「桐襲」(10個・700円)

古い町並みに心誘われる出雲街道

復元の町家の作州城東屋敷(無料休憩所)
 岡山県北東部のかつて美作(みまさか)国の中心の津山は、清流、吉井川の右岸に細長く町が広がる盆地の町。水運の河港、山陰・山陽を結ぶ出雲街道の宿場町、津山城の城下町などいろいろな歴史を折り重ねて栄えてきた。

 津山線から姫新線への乗り換えの折に時間を作って、駅前観光案内所のレンタサイクルで市内を巡った。駅前から城見橋を渡ると、頭上高く津山城の櫓が見えた。

 津山城は江戸開幕の1603年に入封の森忠正が12年を要して完成した5層の天守閣がそびえる平山城で、明治の廃城令で取り壊され、高い石垣だけが残った。それだけでも古城の風格はあったが、10年前に南に張り出す石垣上に賛否両論の末、備中櫓が復元された。「やっと城跡らしくなったのぉ」と喜ぶ市民や旅行者が多いという。

 とりわけ4月上旬のさくらまつり(4月1日~15日)には、千本を超すソメイヨシノが石垣や石段の上や下に花の雲をなしてらんまんと咲き誇る。城跡が最も華やぐ時である。舞い散る花びらもまた風情を添える。

 城跡の北には2代藩主が小堀遠州流の庭師を招いて造営した大名庭園の衆楽園。東の出雲街道沿いの重要伝統的建造物群保存地区の城東町並みには格子戸や虫籠窓、袖壁、なまこ壁の商家や仕舞屋などが鉤の手に曲がった細い通りに連なっている。

 目をひくのが火の見櫓と白壁の作州城東屋敷、ペリー来航の際の翻訳に携わった江戸後期の洋学者・箕作阮甫(みつくりげんぽ)の旧宅、江戸時代から昭和初期までの生活様式を蔵造りに伝える旧梶村邸の城東むかし町家など。時代をしのばせ、今の暮らしの匂いが漂う町並みである。

 斬新なデザインで建てられた津山洋学資料館では、幕末から明治初期にかけて西洋医学の宇田川玄随や対米露交渉で活躍の箕作阮甫らすぐれた洋学者を生んだ文化の町であることも知った。

 途中、銘菓の京御門(0868・22・3510)で、美作産の柚子の風味を生かした白餡を小麦粉で包んだしっとり上品な甘さの焼きまんじゅうの「桐襲」(きりかさね)を買った。くるみ、栗、ゴマなどを練り上げた餡を使った月餅「京御門」も名物菓子だ。

 ご当地グルメはホルモンに味噌ベースのタレとうどんを絡め鉄板の上でじゅうじゅう焼く、B-1グランプリ入賞の「ホルモンうどん」と聞いたが、残念ながら食べる時間がなかった。それでも津山は歴史・文化の香り高い、どこかおっとりとして味わい深い町として心に残った。

〈交通〉
・姫新線・津山線・因美線津山駅下車、津山城跡まで徒歩10分
〈問合せ〉
・津山市観光協会(津山観光センター)☎0868・22・3310
・津山市観光振興課☎0868・32・2082

栃木県■真岡はSL運行、イチゴ生産など日本一を秘める町


SLを形どった風変わりな真岡駅駅舎

観光拠点の久保記念観光文化交流館

ココロのランチパスタは女性に評判

質・量ともに日本一の真岡のイチゴ

温泉や宿泊に井頭温泉チャットパレス
 真岡木綿、真岡鐡道、真岡の苺……地名に見覚え、聞き覚えはあるが、何処にあるか定かでないが、市街地を五行川、行屋川が流れる真岡市は5~6世紀の古墳が発見された古くからの地。芳賀氏の城下町としてひらけ、江戸から明治にかけて木綿の集散地として栄えた。人口8万余の芳賀地方の中心都市である。

 明治45年に全国最初のローカル線として誕生した真岡鐡道は、日本一のSL通年運行で知られる鉄道の町。そこで真岡へはSLで行くのが流儀と、JR水戸線下館駅から乗った。広やかな関東平野に汽笛を鳴らし、黒煙をなびかせながら35分ほど。着いた真岡駅は鉄道ファンでなくてもうれしくなるモダンなSLをかたどった駅舎だ。

 SLの運行は通年の土・日曜、祝日で、機関車は平成6年から運行のC11形と平成10年運行開始のC12形との2種類がある。駅前には平成25年に9600形蒸気機関車を展示するSLキューロク館がオープン。土・日曜、祝日に1日3回圧縮空気で自走するキューロクが見られるという。

 中心街に昨年10月にオープンした久保記念観光文化交流館は駅から徒歩で10分ほど。日本銀行真岡出張所真岡支金庫に使われたという明治・大正の重厚な建物の久保記念館を中心に、米蔵を改装した美術品展示館やなまこ壁の美しいまちづくりセンター、観光物産館、トラットリアなどが石畳の広場を囲んで建っていた。

 核となる記念館は美術評論で名をなし、紫綬褒章を受章、跡見学園短大学長も務めた久保貞次郎の邸宅で、交流のあった池田満寿夫も来たという。観光案内所や無料休憩所の観光サロン、真岡木綿展示室など集まる、真岡の新しい観光拠点である。

 この一角にあるイタリアンのトラットリア・ココロ(0258・84・8008)で食べたランチパスタは地元の女性にも人気のように、工夫を凝らした美味だった。

 真岡は二宮町と合併して550世帯の生産農家から年間ざっと7700トンを生産するダントツ日本一のイチゴ生産の町になった。ここで食べたイチゴ王国栃木が誇るプレミアムな新品種の「スカイベリー」は、糖度、酸度のバランスがよく、大粒、色、形よく、ジューシーな希少な絶品だった。5月下旬には「いちごまつり」が催される。

 テニス、プール、パターゴルフなどスポーツや温泉、宿泊なら郊外の井頭公園がおすすめだ。4月上旬は市内各所が「一万本桜まつり」で華やぎに包まれる。

〈交通〉
・真岡鐡道の真岡駅下車、宇都宮からバス便あり
・北関東自動車道真岡ICからすぐ
〈問合せ〉
・真岡市観光協会☎0285・83・8135
・真岡鉄道真真岡駅☎0285・84・2911
・SLキューロク館☎028・83・9600

中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。