風土47
今月の旅・見出し


50万本が咲き広がる山形・
飯豊町のどんでん平ゆり園
 7月1日は元日から数えて182日、大晦日までは183日。各地で山開き、海開きが行われ、梅雨明けはまだの地方はあるが、陽光が強く、気温が日ごと上昇する、まぎれもない夏の到来。東京では七夕をはさんで、6日の入谷・朝顔市、9日の浅草・ほおずき市など昔に変わらぬ夏の風物詩が続く。

 七夕の7日はまた「そうめんの日」。平安時代から大病に罹らないようそうめんを食べる風習があるが、どうだろうか。とはいえ舌にひんやり、のど越しつるりのそうめんは食欲減退気味のこの時期にうってつけの食べ物ではないだろうか。

 七月の青きみずゆく竹の奥  舟月
 七月の冷たきスウプ澄み透り 草城

山梨県■日本一の「貴陽」と「完熟農園」が話題の南アルプス市


丁寧に育てられる高級新品種の「貴陽」

「貴陽」は糖度が高くみずみずしい

櫛形山を背景にした南アルプス完熟農園

野菜、果物など新鮮食材が自慢のレストラン

多種多様な品揃えを誇るマルシェの内部
 仙丈ヶ岳、北岳、間ノ岳など山梨県西北端に並び立つ標高3000メートル級の山々は、“南アルプス”と呼ばれる日本有数の高峰である。この山稜と釜無川の間に位置する櫛形、若草、白根、甲西の4町と八田、芦安の2村の大合併で平成15年に誕生したのが、人口7万2000人余の「南アルプス市」。

 一般公募で決まった市名だが、市街地から南アルプスが見える場所は少なく、カタカナ交じりもなじまず、地元からも外部からも違和感が抱かれ、異論がとなえられた。

 そんな中で「出身地をやっと南アルプスと言えるようになった」と苦笑する友人が自慢するのが、サクランボ、スモモ、ブドウ、ナシ、リンゴ、カキなど果実の数々。

 とくに7月下旬に最盛期を迎えるスモモは日本一の生産地で、当地が発祥の「貴陽(きよう)」は通常のスモモの2~3倍の大きさで、ギネスブックに“世界で最も重いスモモ”と認定された高級新品種。その生みの親といわれる高石農園(055・282・3400)で、昨年、貴陽狩り(7月27日〜8月9日・2500円・要予約)を楽しんだ。

 目の高さほどの枝に熟した実を取って噛むと、カリリッとした歯触りの後に甘やかな香りとクリーム色の果肉から甘い果汁が舌にほとばしる。酸味も少なく爽やかで、スモモの概念が変わるおいしさだった。

 糖度が17〜18度もある完熟の貴陽はスモモでは最高品種で、幻の果実とも呼ばれるほど。6月27日〜8月20日の40分食べ放題のもも狩り(2000円・個人は予約不要)も人気が高い。(予約は下記の南アルプス市観光協会で受け付ける)

 同市で最近の話題は櫛形山を間近に仰ぐ中部横断自動車道南アルプスICそばに今年6月12日にオープンした南アルプス完熟農園(055・284・0036)。産直ショップやレストラン、カフェ、農園などからなる東京ドーム2個分の広さの複合施設だ。

 地元の新鮮な野菜、果物、菓子などが集まるマルシェ(055・284・0036)にはハム・ソーセージの工房や実演販売のイベントキッチンなど多様なコーナーがある。

 ビュッフェスタイルのしゃれたレストラン(055・284・0067)では地場産の野菜、果物、食肉などの一流シェフによる料理がざっと50種余り並ぶ。果実狩りやアベニュー、カフェなど広やかな空間でゆったり過ごせる。季節によって園内の畑で果実狩りもできるそうだ。新しいスタイルの食空間が名実ともに“完熟”するのを期待しよう。

〈交通〉
・中央本線・身延線甲府駅からバスで約40分
・中央自動車道双葉JCT経由中部横断自動車道白根ICまたは南アルプスICからすぐ
<問合せ>
・南アルプス市観光協会(道の駅しらね内)☎055・284・4204
・南アルプス市商工観光課☎055・282・6294

長崎県■歴史と景勝、美味、人情のリゾートアイランド・壱岐へ


半島周辺は海女の素潜りのメッカ/レオタード姿の海女・大川香菜さん

「はらほげ」の生うにぶっかけ定食

充実した展示の一支国博物館

遊び写真の撮影で人気の奇岩・猿岩

断崖美と碧緑の海に感動する辰ノ島

島の味尽くしのビューホテルの夕食
 九州本土の北西、玄界灘に浮かぶ壱岐は、紀元2~3世紀の『魏志倭人伝』に「一支国(いきこく)」として登場する。『古事記』の国生み神話では大八洲(おおやしま)の5番目の島として記され、住吉神社など24の式内社を数える神の島である。

 以前に訪れたのは郷ノ浦、石田、芦辺、勝本の4町が合併、島全体が壱岐市になった頃だから10余年ぶり。変わっただろうかと思いつつ博多港からのジェットフォイル「ビーナス」で着いたのは東海岸の芦辺港だ。

 さっそく南に突き出す八幡半島に向かって、左京鼻、青嶋など断崖・奇岩の美しい海岸風景を見る。ウニ、アワビ、サザエ捕りに潜るカラフルなレオタードの海女さんが点々と目に付く。八幡集落は58人が現役の海女の里で、NHKテレビの『あまちゃん』ブーム以来、注目が続いているという。

 その1人の大川香菜さんは、大震災に遭って岩手・陸前高田市から長崎市内に移住し、地域おこし協力隊として壱岐に来て修行に励んで海女さんになった30歳の女性。
地元の青年と結婚。「島の人になりきりたい」と笑顔がこぼれた。

 昼食は満潮時は胸まで海水に浸かる海女さんの信仰厚いはらほげ地蔵近くの「うにめし食堂・はらほげ」(0920・45・2153)で生うにぶっかけ定食(2700円)を賞味。生うにと刺身、ひじき、あおさ汁、小鉢セットの美味だった。

 壱岐観光で欠かせないのは約2000年前の弥生時代に、一支国の王都と特定された原の辻遺跡(国・特別史跡)と5年前にオープンの一支国博物館(0920・45・2731)だろう。原の辻辺りの起伏地形を屋根に採り入れ、芝生を張って円筒状の展望塔をそなえた地上4階・地下1階のユニークな建物は、名建築家・故黒川紀章氏が国内で最後に手掛けた記念碑的作品。

 館内では海の王都・原の辻遺跡からの出土品をはじめ、魏志倭人伝の世界、古墳など工夫を凝らした展示に見入った。壱岐の歴史を現代から古代へと遡る通史ゾーンの展示も分かりやすかった。

 見どころ多い中でぜひとも立ち寄りたいのは、西海岸では黒崎半島にあるそっぽを向いたサルの姿そっくりの猿岩や山をくり抜いた筒型の黒崎砲台跡、北部海岸では勝本港から船で遊覧する地層がみごとな垂直断崖とエメラルドグリーンの海の美しさに息をのむ辰の島など。

 壱岐は南北17キロ、東西15キロ、さほど広くないが、長い歴史と変化に富んだ海岸、きれいな海などのほかに、イカやアジ、ウニ、アワビなど魚介、黒毛和牛のブランド肉・壱岐牛、麦焼酎の発祥といわれる壱岐焼酎、濃く固い壱岐豆腐など味も充実している。泊まった郷ノ浦港近くのビューホテル壱岐の夕食にも本マグロ、イサキ、真アジなどのお造りや、ウニ茶わん蒸し、壱岐牛、かじめ汁、うに飯、アムスメロンなど島の味が多彩に出てきた。

 海水浴場も多く、夏こそ行きたいリゾートアイランドである。

〈交通〉
・博多港から芦辺港まで九州郵船のジェットフォイルで65分
・博多港から郷ノ浦港・芦辺港までフェリーで2時間20分
・長崎空港から壱岐空港までANAまたはORCで30分
〈問合せ〉
・壱岐市観光協会☎0920・47・3700
・壱岐市観光商工課☎0920・48・1111
・長崎県壱岐振興局地域づくり推進課☎0920・47・1111
・九州郵船壱岐支店☎0920・47・0003

中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。