風土47
今月の旅・見出し


茨城・日立市の国営ひたち海浜公園のコキアは
丘の斜面をやさしく染める
 北国や山岳地帯から紅葉前線が南下を続ける10月。稲穂が刈り取られ、芋、栗、リンゴ、豆など畑や果実、木の実の収穫の時で、文字通り五穀豊穣の季節である。その実りへの喜びと感謝を込めて各地では秋祭りが催される。赤に黄に橙色に鮮やかに染まる紅葉狩りも、春の花見とともに国民的行事になっている。

 海からはサンマ、サバ、イカなどの秋の海の幸が水揚げされる。鮭が放流された川に3~4年経って産卵のために戻ってくる時で、リニューアルなった「サケのふるさと・千歳水族館」前の千歳川には捕獲するためのインディアン水車が設置された。

 花はコスモスから紅葉へ。緑から次第に真っ赤に移ろうコキア(ホウキ草)の群落が秋の深まりをまろやかに伝えてくれる。

長野県■紅葉が鮮烈な中央アルプスの麓、伊那路の駒ヶ根


10月上旬の紅葉盛りの千畳敷カール
(写真提供:中央アルプス観光)

霊犬早太郎伝説の天台宗の名刹・光前寺

山頂に見立てて盛ったガロのソースかつ丼

肌がすべすべの早太郎温泉「やまぶき」の風呂

多彩なキノコなど地物が豊富で美味な宿の朝食

竜東地区からの駒ヶ根市街と中央アルプスの眺め

美味しさで評判の食事処「菜々ちゃん」

駒ヶ根で発祥400年の養命酒駒ヶ根工場
 山岳地帯の信州・長野県には紅葉の名所が数多くある。鮮烈さで知られる1つが標高2956メートルの駒ケ岳や宝剣岳を主峰とする中央アルプス。なかでも宝剣岳南東山腹にカール地形を広げる千畳敷は、ロープウエィで2612メートルまで一気に昇れ、手軽に探勝できるので人気の紅葉名所である。

 高速バスやマイカーの出入口の中央自動車道駒ヶ根ICを出て、まずはバスでロープウェイ乗り場のしらび平へ。そこから2000メートルの標高差を7分30秒で上がる千畳敷駅まで行った。千畳敷カールは約2万年前に氷河によって山の地表面が削り取られ、すり鉢状になった地形で、荒々しい岩峰の宝剣岳を背景にハイマツ、高山植物、池を巡る1周40分ほどの起伏のある遊歩道が付いている。

 訪れたのは9月中旬。宝剣岳や檜尾岳などの高い峰々の上には澄みきった青空、風は冷気を含み、草木もかすかに赤く色付き始めていた。

 「一帯が赤、黄、橙色の錦繍に染まるのは9月下旬~10月上旬」と中央アルプス観光・常務の田村芳成さん。夜は誰もがウワッと歓声を上げる満天の星空だという。星はホテル千畳敷(0265・83・5201)に泊まらなければ観賞できないが、来年4月から日帰りでも可能な「星空観賞ツアー」の催行が予定されているとのこと。

 ホテルは鉄筋コンクリート2階建て、16室。山上だが、トイレは驚くことに快適なウオシュレット。さすが千畳敷?(洗浄式)である。

 駒ヶ根観光で外せないのは、駒ヶ池や大沼湖を中心にした清流と森に囲まれた駒ヶ根高原。開創1300年の天台宗の名刹・光前寺、池田満寿夫、藤原新也らの作品を常設展示する駒ヶ根高原美術館、光前寺に伝わる霊犬の名を付けた10軒余の宿や日帰り湯のある早太郎温泉など観光施設が集まっている。

 泊まったホテルやまぶき(0265・83・3870)は肌につるつるの24時間OKの温泉が心地よいゆったりした宿。朝食はキノコなど地の物を中心の美味だった。

 市街地や周辺にはシャキシャキのキャベツの上に各店秘伝のソースにくぐらせた豚ロース肉のカツをのせた「ソースかつ丼」の店が30軒余り。昔からの信州そばや五平餅をしのいで今や駒ヶ根名物の主役の座に就いた。食べたのは食事・喫茶ガロ(0265・81・5515)のそれで、アルプス山頂に見立てて盛りつけたボリュームのある4枚のカツは歯切れサクッと、子どもから高齢者まで食べやすさで人気がある。

 天竜川の東側の竜東エリアではかつて伊那谷を代表する養蚕や製糸の歴史を語り継ぐ駒ヶ根シルクミュージアムが見もので、2階のバイキングレストラン・菜々ちゃん(0265・81・8750)もよく満席となる地元主婦が共同経営する評判の店。大皿に盛った40種を超す美味しい料理に満足。人気振りがナットクのランチだった。

 駒ヶ根は天竜川流域の広い谷にひらけた米、果物、ゴマなど県内有数の穀倉地帯。
良質の水が豊富で、江戸時代以来の薬用・養命酒の工場やウイスキー、ワイン醸造の本坊酒造の工場もある(どちらも10名以上工場見学可)。清々しい水と緑、空気、静寂さ、それらが食べ物や飲み物、住民をまろやかに慈しんでくれるのだろうか。心も安らぐ駒ヶ根にとって秋はその魅力がことさら深まる季節である。

〈交通〉
・新宿から中央本線岡谷乗り換え飯田線で約3時間20分、名古屋から塩尻・岡谷乗り換え飯田線で約3時間30分
・新宿から駒ヶ根ICまで高速バスで中央自動車道で約3時間50分、名古屋から中央自動車道で約2時間50分
〈問合せ〉
・駒ヶ根観光協会☎0265・81・7700
・駒ヶ根市産業部商工観光課☎0265・83・2111
・中央アルプス観光(株)☎0265・83・3107

福島県■厳しい歴史、風土に育まれた魅力深い会津若松


復元50年を迎える赤瓦葺きの天守閣

土蔵造りや洋風建物が混じる七日町通り

割烹「田季野」の郷土料理・輪箱飯

江戸後期建築の蔵造りの鈴木屋利兵衛

囲炉裏で炙る「満田屋」名物の味噌田楽
 会津若松は鎌倉時代の芦名氏の統治に始まり、伊達政宗、蒲生氏郷、上杉景勝ら有力城主を経て、藩政時代は松平氏23万石の城下町として栄えた地。行政、経済、文化、産業、交通など今も会津地方の中心都市である。

 一昨年のNHK大河ドラマ『八重の桜』で沸き起こった観光ブームも落ち着いたことだろうと駅に降り立った。戊辰戦争で1ヶ月の籠城に耐えた会津のシンボルの鶴ヶ城は駅の南2キロ。まっすぐのびる繁華な通りをレンタサイクルで10分ほど。堀を渡り石垣をなぞると、白亜5層の壮麗な天守閣が現われた。けっこうな数の観光客が行き交っていた。

 難攻不落の城は明治7年、新政府の手でことごとく解体され、競売に付された。私財を投げ打って落札したのが旧会津藩士で銀行家の遠藤敬止。氏は忠心を以って城をそのまま旧藩主松平家に献上。松平家は市に寄贈して市民公園として開放された。

 天守閣の黒瓦屋根は3年前に幕末当時の赤瓦に葺き替えられて優美さを増した。改装された内部の歴代藩主や悲劇の戊辰戦争などの展示も分かりよかった。

 最上階からは北東に自刃した少年白虎隊十九の墓や白虎隊記念館のある飯盛山、松平容保が指揮をとった旧滝沢本陣を確認。東方には家老西郷頼母邸などを復元した会津武家屋敷や松平家墓所がある。磐梯山は会津盆地を見守る慈父のように北東方向に大きく裾野を広げていた。

 城を出て旧城下町を巡ると、そこここで長のれんを下げた白壁土蔵や木造商家、洋館が目につく。なかでも大町四ツ角から西に七日町駅へ延びる七日町通りには、野口英世が書生として住んだ洋館の旧會陽病院、土蔵造り洋館の白木屋漆器店、江戸時代からの酒蔵の鶴之江酒造、重厚な海産物商の渋川問屋など古い建物を磨き上げた飲食店や土産物店が観光客を引き寄せている。

 街を巡れば、民芸品を商う黒漆喰蔵の鈴木屋利兵衛(0242・22・0151)や白壁土蔵・なまこ壁の味噌・田楽の満田屋(0242・27・1345)、陣屋だった古民家を移築、伝統食のわっぱ飯が名物の田季野(0242・25・0808)など会津の歴史・文化を伝える買い物処、食べ処が数多くある。

 土産なら会津塗や地酒、あん入りカステラの「会津葵」や義経や弁慶が好んだ創業835年の「五郎兵衛飴」など長い歴史と厳しい風土に耐えてきた風物にもこの町の懐の深さが感じられた。

〈交通〉
・JR磐越西線会津若松駅下車
〈問合せ〉
・会津若松市観光課☎0242・39・1251
・会津若松観光ビューロー☎0242・23・8000

中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。