

晩秋から初冬にかけて明るい黄色を
輝かせて咲く石蕗の花(富山・八尾にて)
京都・東寺では21日の終(しまい)弘法、北野天満宮では25日の終天神など、1年の締めくくりの行事が年の押し詰まりを感じさせる。
花屋や人家の窓辺では鮮紅色の葉が目に染みるポインセチア、庭や道端ではすらりと長い茎の上に清々しい黄色い花をつける石蕗(つわぶき)が色の乏しい冬場を鮮やかに飾る。


津和野のシンボル、白い土塀の殿町通り

酒屋や和菓子屋など古い商家が多い本町通り

石州和紙を使った愛らしい津和野人形

江戸時代からの伝統を受け継ぐ銘菓「源氏巻」


社殿が鮮やかな太皷谷稲成神社とお供え用油揚げ

海岸に迫り出すように建つ荒磯温泉・荒磯館

新鮮でおいしく珍しい海の幸いっぱいの夕食
土蔵造りや格子窓など酒や菓子、喫茶、食事などの商家、町家が連なる本町通りは以前よりいくぶん寂しい感じだが、家老屋敷や藩校の土塀が長く延びる殿町通りは一番の観光スポットなのにほとんど変わっていなかった。
津和野は東に青野山、西に城山を仰ぐ津和野川に沿う島根県南東部にひらけた亀井氏11代の城下町。4万3000石の小藩ながら8代藩主の時に藩校を設け、当時著名な学者を集めて藩士の子弟に学問を督励。日本哲学の父と呼ばれる西周(にしあまね)や明治の文豪・森鴎外ら多くの俊秀を輩出した。
その藩校養老館と鯉の泳ぐ、花菖蒲が咲く堀割の風景は、向かい側の藩主11代に仕えた田胡家老門・土塀とともに“山陰の小京都”と呼ばれる津和野のシンボル的なアングルである。この一角に長崎から送られてきて乙女峠で殉教した隠れキリシタンを悼むカトリック教会が違和感なくたたずんでいる。
殿町通りのはずれの大鳥居をくぐって石段を上ると、朱塗りの千本鳥居のトンネルの先の高台に朱塗りも鮮やかな太皷谷稲成神社の社殿があった。7代藩主が城の鎮護と領民の平穏を祈願するため京都・伏見稲荷を勧請した古社で、商売繁盛などのご利益から正月3ガ日で25万人の初詣客で賑わう。
手水舎には稲荷の使いのキツネに因んでお供え用の油揚げが無人販売されているのが珍しい。境内から見下ろす赤い石州瓦の町並みも風情があった。この下からリフト5分で三本松(津和野)城跡に登れる。
津和野で目に付くのは石州和紙と和紙で作った愛らしい「津和野人形」。土産物ではカステラ生地できめ細かなこしあんを平たく巻いた香ばしい香りと上品な甘さの「源氏巻」が名物。竹風軒本店(0856・72・0041)など製造販売店は9軒を数える。
名物料理は豆腐、カマボコ、シイタケなどの具をご飯の下に埋め、上にもみ海苔、セリ、ワサビなどの薬味をのせて澄し汁をかけて味わう「うずめ飯」や炊き上がったご飯にフキを混ぜ合わせた「蕗めし」がある。店ならお食事処ふる里(0856・72・0403)や沙羅の木(0856・72・1661)などがおすすめだ。
平成27年から始まった文化庁創設の“日本遺産”に、幕末の津和野藩の名所・風俗を描いた藩主亀井氏所蔵の「津和野今昔~百景図を歩く〜」が認定された。「この絵の半分の季節や風物に今も出会えますよ」と日本遺産センターで絵を示しながらコンセルジュの山岡浩二さん。百景図を片手に歩けば津和野の再発見ができるという。
泊まりは日本海に臨む益田の荒磯温泉の一軒宿の荒磯館(0856・27・0811)。荒波押し寄せる豪快な海景を見ながら温泉とノドグロ、カレイ、イカ、うちわエビなど新鮮美味を堪能した。晴れた日の夕焼けが素晴らしいという。
〈交通〉・JR山陰本線津和野駅下車、殿町通りまで徒歩10分
〈問合せ〉
・津和野町商工観光課☎0856・72・0652
・津和野町観光協会☎0856・72・1771


雲見の海岸から遠望する厳かな富士山

シンボルの漆喰芸術の伊豆の長八美術館

なまこ壁の町を象徴する趣ある小径

蔵らで人気メニューの1つのさんま寿司

生産日本一の桜葉の町の銘菓さくら葉餅

伊豆まつざき荘は眺め、料理、温泉よし
海岸線沿いからは随所で冬場は澄んだ空の下、青い駿河湾の向こうに富士山が見える。なかでも雲見辺りから望む白雪頂く秀麗な姿は、天空に浮かび上がったように厳かに見える。
温暖な気候ゆえ、養蚕が盛んなころは早く繭(まゆ)がとれた早場繭の産地で、生糸相場は松崎で決まったという。世界遺産で名高い官営・富岡製糸場の開設の折に名主大沢氏が一族の若い女性6名を派遣、製糸技術を習得させ、のちに静岡県下初の民営製糸工場を創業して、地域の発展に大いに寄与している。
そうした繁栄の名残の立派ななまこ壁の蔵を保存・修築して松崎の町づくりにあたり、江戸時代、左官技術を鏝絵(こてえ)芸術にまで高めた地元出身の入江長八を顕彰する伊豆の長八美術館の開設。これをきっかけに「花とロマンの里」「なまこ壁の町」として観光ブームを巻き起こし、人気の観光地になった。
以来30余年、私は毎年のように訪ね、人や店、宿など多く知って故郷のような温もりや親しみが深まって、気になる町になっている。
那賀川が流れる中心街にはなまこ壁の蔵を生かしたなまこ壁通りや無料休憩所・伊豆文邸、ときわ大橋、明治商家中瀬邸、重要文化財・岩科学校など文化財や建物が身近に見学できる。素材を発掘し、磨きをかけてきた成果である。
街には炭火焼の地魚など魚介が食べられる豊崎ホテル直営の民芸茶房(0558・42・0773)、ふっくらしっかりのさつま揚げのはやま(0558・43・3535)、地元主婦25人の出資で運営するワンコイン(500円)ランチが大人気の蔵ら(0558・42・0100)、桜葉生産日本一の町らしい香り高いさくら葉餅の梅月園(0558・42・0010)などイタリアンからソバ、スイーツまで評判の食べ処、お土産処がたくさんあり、ぶらぶら歩きの足休めに事欠かない。泊まりの宿の1つに鉄筋6階建て、海辺の町営宿舎・伊豆まつざき荘(0558・42・0450)がある。
白砂の入江の岩地、棚田が美しい石部、漁業の雲見の海辺の温泉の他に、山あいの清流の大沢温泉、春はレンゲなど花畑がみごとな桜田温泉など松崎は海、山、川、田にも恵まれたのどかでやさしい、多くの人の心にあるふるさとにどこか重なるような和みの町である。
〈交通〉・伊豆急行蓮台寺駅または伊豆急下田駅下車、バスで40〜50分
〈問合せ〉
・松崎町企画観光課☎0558・42・3964
・松崎町観光協会☎0558・42・0745
・松崎町振興公社☎0558・42・1881