風土47
今月の旅・見出し
 
 
新潟県■城下町・宿場町の歴史を宿す雁木の町・高田


紫陽花咲く高田の象徴の高田城三重櫓

飲食・物販・案内施設が揃う上越妙高駅

城の櫓風の塔をのせたユニークな高田駅

雁木を備えた町家交流館である高田小町

4と9の日に大町通りに立つ四・九の市

職人町の大町筋を代表する旧今井染物屋

往時の繁栄ぶりを伝える料亭・宇喜世

スキーの少佐に因むレルヒさんカレー
 北陸新幹線の開業で首都圏からグッと近くなった上越市は、45年前の高田と直江津の2市の合併で生まれた市。2005年の平成の大合併で周辺13町村を編入し、名前はそのままに市域は佐渡島より広く、人口は20万を超えた。しかし上越国境、上越新幹線の上越としばしば間違えられるという。

 新幹線での玄関口は「上越妙高」駅。モダンで快適な駅舎には観光案内所や土産物・駅弁などの物販店、コンビニ、飲食施設などが入り、待ち合わせ時間も退屈知らず。上越市の中心市街の高田へはここから第3セクターのえちごトキめき鉄道妙高はねうまラインでわずか7分ほどで着く。

 なのに立ち寄った観光案内所では「新幹線開業の波をさほど受けていない」といい、入り込み客は期待とは遠く、観光動向も目立つほどではないとのこと。

 高田といえば江戸時代の初め、徳川家康の6男・松平忠輝の築城とともにひらけた城下町。75万石の大藩なのに石垣は築かず土塁を連ね、天守閣は構えず3層の隅櫓を設けた。その復元が高田城三重櫓で、城跡一帯は高田公園となっている。

 訪ねた時は紫陽花の季節だが、聞けば周辺の広くて長い堀は夏には無数の蓮の花に埋め尽くされ、「蓮まつり」(7月22日~8月16日)が催されるという。

 特徴的なのは城を東側にして凹字型に囲んだ城下町づくり。街の中心に北国街道を通して沿道に旅籠や問屋、商店、職人など町家を集めて賑わいをつくった。それに豪雪地帯のため商家や町家のそれぞれが軒先をのばし、雪除けの共用の通路を確保する雁木が造られた。総延長16㌔をもつ日本一の雁木(がんぎ)の町である。

 その象徴的存在が、町歩きの拠点になる本町通りの町家交流館・高田小町(025・526・8103)。明治築造の町家・旧小妻屋を再生した交流施設で、無料休憩、内部見学できる。

 前を通る北国街道沿いには明治のハイカラな洋風建築の名残の洋食店や鉄筋コンクリート造りの先駆けの雑貨店、レトロな芝居小屋・劇場の高田世界館などかつての面影を残している。

 その名も下紺屋町には旧麻糸商や呉服商の風情ある家並みがあり、一本東の大町通りでは建物に組み込んだ雁木のある黒壁・黒格子が粋な旧今井染物店の商家が目をひいた。この大町通りでたまたま出合ったのが四・九の市。二・七の市もあるので、高田市街では月に12日も市が立つ。ふれあいを楽しむ朝市の町でもある。

 栄華の名残は江戸時代から続く登録有形文化財の料亭宇喜世や明治の作家・歌人で幸徳秋水の弁護人を務めた平出修の旧居、旧師団長官舎などにも留めている。

 市街南西部の金谷山はオーストリア・ハンガリーのレルヒ少佐が日本に初めて1本杖のスキー術を伝えた山で、銅像も立っている。ひと駅北にある春日山城跡は戦国の名将・上杉謙信の居城であまりにも名高い。

 歴史・文化の豊かな高田は、歩くほどに知識も思いも深まって行く町である。

〈交通〉
・JR北陸新幹線上越妙高駅、乗り換えて高田駅下車
〈問合せ〉
・上越市観光振興課☎025・526・5111
・上越観光コンベンション協会☎025・543・2777
 
群馬県■峠越えの道と鉄道の記憶を刻む横川・碓氷


レンガ色のゲートの碓氷峠鉄道文化むら

信越本線や各地を走った野外展示の列車

大人にも子どもにも人気があるミニ列車

横川駅では人気の峠の釜めしを(1000円)

こしあんで餅を包んだ一口大の峠の力餅

売店には本や菓子などグッズがいっぱい

緑に映える赤レンガの通称。めがね橋

「入り鉄砲に出女」を取り締まった関所
 長野冬季オリンピック開催に先立つ1997年、高崎から長野まで延伸した長野新幹線(現・北陸新幹線)の開業に伴って、アプト式鉄道で難所の碓氷峠越えの信越本線の横川~軽井沢間が廃線になった。その廃線敷地やレール、鉄橋などを保存、活用し、17年前にオープンしたのが、「見て、触れて、体験できる峠と鉄道の歴史」をテーマにした「碓氷峠鉄道文化むら」(027・380・4163/中学生以上500円)。

 終点横川駅のすぐ前に見えるレンガ色のゲートを構える敷地内に碓氷峠ジオラマや100両もの人気のHO模型車両、貴重な鉄道資料、鉄道グッズなど展示・販売する鉄道資料館をはじめ、特急「あさま号」などが見られる鉄道展示館ほか国鉄時代に活躍した貴重な車両が並ぶ野外展示を乗り降りしながら楽しんだ。

 野外展示の機関車や車両などにかつての雄姿を思い浮かべたり、懐かしさに浸ったり、それぞれに時代と思い出がからんでしみじみと眺めてしまう。

 展示だけでなく、イギリスから運ばれたグリーンの本格的蒸気機関車が園内一周(800㍍)する“あぷとくん”や“ミニSL”(300㍍)、トロッコ列車、手こぎトロッコなど体験乗車できるものも多くある。土・日曜、祝日ならば自分で運転できるEF63型電気機関車(要予約)もある。

 横川駅からは旧信越本線の鉄道跡を歩ける”アプトの道“と名付けた遊歩道がある。そのハイライトが高さ31㍍の赤レンガの美しいアーチ橋(通称めがね橋)の碓氷第3橋梁。鉄道の最大難所も歩いて渡れる。周辺の深い緑に癒された。

 鉄道ファンはもとより、子供から年配者まで幅広く、1日たっぷり楽しめる。

 昼食には横川駅が本拠地のおぎのや(横川本店027・395・2311)の「峠の釜めし」。かつてアプト式鉄道で峠越えの時は決まって買ったもので、立ち売り人が駆けながらおつりを渡したり、動き出す列車に向かって揃って帽子を取って頭を下げて見送る姿が忘れられない。

 ここ碓氷峠は中山道有数の難所。峠を控えた麓の坂本宿は本陣2軒、脇本陣2軒、旅籠40軒を数えるほど栄えた。面影残す町並みに将軍家茂に降嫁のため京からの皇女和宮一行の長い行列を思い浮かべたりした。

〈交通〉
・JR信越本線横川駅下車
〈問合せ〉
・安中市商工観光課☎027・382・1111
・安中市観光協会☎027・385・6555
 
銘菓通TVチャンピオンの絶品!旅の手みやげ|第7回☆どら焼き

 暑い夏、冷房の利いた部屋や扇風機に当たりながら、熱いお茶とともに味わいたい甘い物に「どら焼き」がある。小麦粉と卵、砂糖をたっぷり使ったふんわりした厚めの生地でしっとりたっぷりの小豆餡をはさんだもので、シンプルなだけに焼きと餡の旨さが命。ちょっぴり小腹を満たし、甘さで疲れが取れて、おいしさに大きなハズレがないのも好まれる理由だろう。

 どら焼きの名の由来には諸説があるが、1つは皮が打楽器の銅鑼(どら)に似ているから、もう一説は鉄板の代わりに銅鑼で焼いたからという。

 これを関西ではほとんど「三笠」とか「三笠焼」などと呼ぶ。「あまの原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも」と詠まれた、奈良にあるふんわりまろやかな稜線になぞらえてだろうか?

 なお弘法大師の命日の毎月21日をはさんだ3日間しか売らない京都・笹屋伊織の「どら焼き」は筒型の棹物で、輪切りの切り口が銅鑼のように見えなくもない。

 東京で1番の評判があるのが上野・うさぎやの「どらやき」。皮に縦の気泡がはいってふんわり。どら焼きは「ドラえもん」の大好物である。


どらやき
うさぎや☎03・3831・6195

創業103年の老舗で、皮は厚めでふんわり。北海道十勝産の小豆の粒あんはふっくらしっとり。甘過ぎない深みのある美味しさに唸る。
ミかさ
千珠庵きく川☎0747・22・1056

奈良・五條市の老舗。1枚1枚手で焼き上げた皮でよく練った北海道十勝産小豆の旨みを十分に引き出した古くからの店の看板菓子。カタカナのミが付く。
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。