風土47
今月の旅・見出し
 
 
福井県■古い町並みに清水あふれる北陸の小京都・越前大野


湧水の町。越前大野のシンボルの御清水

時計塔が目印の観光・交流拠点の結楽座

大野名物、400年続く七間通りの朝市

大野特産の清水食品の「里芋煮っころがし」

ポリポリの名物菓子「けんけら」

門構えの広壮な建物が残る武家屋敷

風格ある10数ヶ寺が連なる寺町通り
 福井駅から九頭竜湖へ向かう越美北線の列車で1時間弱。秋色深まる越前大野を訪れた。この季節は身が締まり、歯応えがあり、煮くずれしない、絶品の大野名物の里芋の収穫期。それを楽しみに越前大野駅に降り立った。

 県の北東端に位置する大野市は岐阜や石川と県境を接する人口3万4000の盆地の街。安土桃山時代、織田信長の家臣・金森長近が4年をかけて山上に大野城を築き、碁盤目状の町割りに武家屋敷や商家、寺院を配した3万5千石の城下町である。

 今も武家屋敷や商家、寺院が面影を色濃く宿し、「北陸の小京都」と呼ばれる。

 中心市街へは駅前から徒歩で10分ほど。400年続く朝市(7時~11時)が並ぶ七間通りを歩いて行くと武家屋敷街に行き当たる。その途中、名産の里芋をはじめ柿、ニンジン、ネギ、キノコ、総菜、弁当などいろいろと露店をのぞきつつ歩いた。

 正面の山上に大野城の天守閣が見えるはずだが、あいにく雲に隠れていた。通りの老舗の朝日屋で、粗挽きの大豆に白ゴマを混ぜ、水飴を加えて短冊に切ってひねった形の名物菓子の「けんけら」を購入。ポリポリ噛みながら着いたのは、物販・飲食・休憩所の越前おおの結(ゆい)楽座(0779・69・9200)だった。

 しばし足を休め、周辺の食事処に入って郷土料理の昼食。出された里芋の煮っころがしは、粘り気が強いのにほっくりした舌触りのなるほどのおいしさだった。

 すぐ近くの大野のシンボルである殿様の御用水として使われた御清水(おしょうず)は、地元の人の共同水汲み場だが、観光客が必ず立ち寄る観光スポット。屋根付きの汲み場に置かれたひしゃくで飲んでみると、水は軟らかくてさっぱりした感じ。周辺にも七間清水、芹川清水、新堀清水などそこここに湧水があった。

 結楽座の北側、武家屋敷街には家老を務めた立派な門構えの旧内山家や旧田村家など広壮な屋敷が歴史を感じさせる。街の東側にある南北一直線の寺町通りにはさまざまな宗派の10数ヶ寺の重厚な寺が整然と並んでいた。

 とりわけ板塀と白壁塀を巡らす、江戸時代の城主の土井家墓所のある善導寺は歴史がそのまま立ち止まったかのようだった。秋から冬は雲海の中から姿を現す「天空の城」の時期である。

〈交通〉
・JR北陸本線福井家駅から越美北線で55分、越前大野駅下車
〈問合せ〉
・大野市商工観光振興課☏0779・66・1111
・大野市観光協会☏0779・65・5521
岐阜県■水と緑に育まれた歴史と農産物と人情の里・山県市


大桑城跡から市街や岐阜・金華山を望む

石や苔を洗うように流れる円原の伏流水

ふれあいバザールで人気のざるそば定食

バザール5代目組合長の山口克己さん

美山地区だけ栽培の桑の木豆と豆製品

宿泊・キャンプのグリーンプラザみやま

名産の伊自良大実連柿は晩秋の風物詩
 先日、誘われて栗と柿の名産地の岐阜市の北隣の山県市(やまがたし)を訪ねる機会があった。山県市は郡上へ抜ける国道256号(高富街道)や福井・大野市に通じる国道418号の沿線に広がる、高富町、美山町、伊自良村の2町1村の平成の大合併で生まれた人口2万7000余の農山林のまちである。

 岐阜の中心街から長良川を渡って車で北上。旧高富町は江戸時代に陣屋が置かれた地だが、戦国時代からこの地方の行政・経済などの中心として栄えた。春は桜並木がみごとな鳥羽川に沿う道を経て、美濃国守護大名・土岐氏の拠点だった大桑(おおが)城のある古城山へ向かった。

 前日までの雨で足元が悪くはじかみ林道からの登城をあきらめ、市役所観光担当者の話では、石垣や堀切、竪堀、幾重にも連なる曲輪が次々に現われ、壮大な山城だったことがしのばれ、標高407mの山上からは岐阜城のある金華山や濃尾平野が一望できるという。麓の大桑地区には城下町の区割りの遺構や土岐氏の菩提寺・南泉寺など歴史の足跡を見ることができる。

 古城山を北に下った武儀川上流域を占める旧美山町はきれいな渓谷のある山林と製材の町。水栓バルブ製造の発祥地で、今も関連の会社が10社ほどあるとのこと。

 ここでの必見は舟伏山の麓へ、神崎川を遡った円原の伏流水。川が地上から一旦地下に潜って再び地上に出て岩間からこんこんと湧きあふれる水は、白い岩や緑の苔と映え合って透明感を増して見える。カルシウムを多く含む、全国でも数少ない硬水だそうで、1年を通じて水温は13℃とのこと。

 途中の瀬見峡の少し先の赤いトンガリ屋根が目をひくコテージ村・キャンプ場のグリーンプラザみやま(058・55・2615)や船越地区の地元野菜や漬物、味噌、コンニャク、菓子などの直売所と食事処のふれあいバザール(0581・53・2125)には県内外の客が多い。

 地元の主婦たち(組合員)が作る「ざるそば定食」(900円)などのそばもおこわもおいしかった。珍しいのは桑の木に蔓を這わせて育てるインゲン豆の一種の桑の木豆。国内では山県市美山地区だけの栽培で、鞘はピンクのまだら模様、豆の色はほのかな緑、ほくほくして甘みがある。おこわやお菓子などにも使っている。

 城下の旧大桑村は“栗の王様”と呼ばれる高品種の「利平栗」の発祥地。和栗と中国栗と掛け合わせて生み出したのが旧大桑村の「利平治」の屋号の土田健吉さん。栗の町で有名な中津川市へはここからもたくさん送られているという。11月下旬、特産の伊自良(いじら)大実連柿の吊るしの光景は青く高い秋天に映える晩秋の風物詩。訪ね入れば自然や風物、人情がしみじみと心に響くまちである。

※写真協力:山県市、㈱地方創生

〈交通〉
・JR岐阜駅から高富までバスで約40分
・東海北陸自動車道関広見ICから車で約12分
〈問合せ〉
・山県市企画財政課☏0581・22・6825
・山県市観光協会☏0581・22・6830
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。