風土47
今月の旅・見出し
 
 
長崎県■城下町の面影の中に湧水あふれる水の都・島原


水の都を象徴する鯉の泳ぐまちの湧水スポット

島原市のシンボル、キリシタン哀史を語る島原城

湧水の水路に沿って石垣と建物が残る武家屋敷街

情報と交流の拠点として3年前に開設の清流亭

水屋敷の涼感に癒される湧水庭園の四明荘

幻の名物の味が復活した銀水の「寒ざらし」

大爆発の惨事がよみがえる雲仙岳災害記念館
 猛暑続きの今年の夏。滝や清流、湧水あふれる町に心ひかれる。そんな町の1つが、雲仙岳普賢岳を背に有明海を前にする長崎県東南部の島原市である。

 古くから海、道路、鉄道など交通の要衝で、島原半島の中心としてひらけた。島原の乱の舞台にもなった城下町だが、清水湧きあふれる水の都でも知られている。

 玄関口の島原駅に立つと、正面にそびえる堂々たる松平氏7万石の天守閣に引き寄せられる。夏は堀の蓮の花がみごとで、8月下旬にはレンコン掘りの行事もある。

 天守閣内はキリシタン弾圧の資料を中心とした「郷土史料博物館」になっていて、最上階からは市街はもとより有明海や眉山が間近に展望できる。

 城郭のすぐ北側には水路をはさんだ石垣沿いに武家屋敷が400mほど連なり、一般公開の屋敷が江戸時代のたたずまいと暮らしをしのばせる。

 この水路に尽きなく湧水があふれるように、島原市は60ヶ所の湧水ポイントを数える昔から名高い水の都。なかでも城の南に位置する新町地区は「鯉の泳ぐまち」と称する湧水の町。道路際や民家の塀伝いに清々しい水音とあふれるほどの湧水が流れ、色とりどりの錦鯉が泳ぎ、五感を和ませる。

 街歩きのスタートは情報入手や休憩の拠点として3年前に開設した観光交流センター「清流亭」。ここから住宅街をゆっくり歩いて、無料休憩所の涼やかな水屋敷の「しまばら湧水館」でひと休み。緑と水に囲まれた涼しい屋敷で、眼に肌に心に涼感がひんやり、心地よく走る。

 ここから少し先にある医師の別邸として建てられた3つの池をもつ湧水庭園「四明荘」の縁側に腰を下ろす。水面を見つめていると、涼気とともに心が浄化されるような気持になった。水のチカラをいろいろと考えさせられた。

 この湧水を活かした「寒ざらし」は、白玉粉で作った小粒のだんごを湧水で冷やして、蜂蜜や砂糖で作ったシロップをかけて味わう、口にひんやり、喉につるり。市内に20店を数える島原ならではの名物甘味だ。

 元祖は共同井戸・浜の川湧水の「銀水」の名物おばちゃん。亡くなって閉店のまま20年余経つが、味を惜しみ、懐かしがる声が絶えず、市が建物を入手して一部を改装。地域おこし協力隊の若い夫婦に運営を託して、かつての味が復活。共同井戸の生活風景とともに、幻の味が甦ったと訪れる人が増えている。

 27年前の雲仙普賢岳の大噴火を忘れないためにリニューアルなった「雲仙岳災害記念館」(がまだすドーム)にも足を延ばした。

〈交通〉
・島原鉄道島原駅から徒歩10~20分
〈問合せ〉
・島原市しまばら観光おもてなし課☎0957・62・8019
・観光交流センター「清流亭」☎0957・63・1111(内線210・214)
北海道■軍都から文都へ流れを変えた文学と彫刻の町・旭川


夏は多種多彩さを誇る庭園の上野ファーム

日本初の歩行者天国の駅前の平和通買物公園

『氷点』の舞台にもなった外国樹種見本林とその一角に立つ三浦綾子記念文学館

軍都の歴史を綿密に伝える北鎮記念館

旭川生まれにちなむ作家・井上靖記念館
 北海道の屋根と呼ばれる大雪連峰を望み、そこに流れを発する石狩川や牛朱別、忠別、美瑛の3川が流れる旭川は川の町。人口34万の道内第2の都市である。

 町の歴史は先住のアイヌ民族に始まり、明治には屯田開拓の拠点として、やがて北方警備の屈強の第七師団、のちに陸上自衛隊の基地として軍都として発展する。

 その名残を宿しながら、井上靖や三浦綾子らの文学者、中原悌二郎らの彫刻家の記念館など文化施設が多く、文都のイメージが膨らむ。

 リニューアルされた駅舎の正面から延びる日本で最初の歩行者天国を始めた「平和通買物公園」や、師団通りを平和通りに改称したショッピング・ロードから始まる国道40号を歩いて行くと、石狩川にかかるアーチ型橋の旭橋が見えてくる。

 たもとの常磐公園には「旭川文学資料館」や「旭川美術館」、中央図書館。重戦車も通れる頑強な鋼鉄製の旭橋を渡った先の春光町あたりが師団の本拠地で、今も広大な陸上自衛隊駐屯地が広がる。

 その一角に屯田兵から第七師団、警察予備隊・陸上自衛隊までの歴史と活動ぶりを貴重な資料で伝える「北鎮記念館」がある。

 第七師団の軍医を父にこの地で生まれたゆかりから作家の「井上靖記念館」が建てられ、陸軍将校の社交場であったモダンな洋館の旭川偕行社は中原悌二郎記念旭川彫刻美術館に活用されている。

 国道沿いで目につくスタルヒン球場はロシア生まれで旭川育ちのプロ野球投手として活躍したスタルヒンを讃えて名付けた硬式野球場。北海道日本ハムファイターズの準本拠地になっている。

 郊外にはユニークな行動展示で話題を蒔いた「旭山動物園」をはじめ園芸家・上野砂由紀さん一家が丹精込めた自然感覚の美しい庭園の「上野ファーム」、真夏でも涼感と幻想美に浸れる「雪の美術館」など多彩な花咲く観光地である。

旭川はラーメンの町としても知られる
旭川が誇る壷屋総本店の美味な銘菓「き花」
〈交通〉
・JR函館本線旭川駅下車
〈問合せ〉
・旭川市観光スポーツ交流部観光課☎0166・25・7168
・旭川観光コンベンション協会☎0166・23・0090
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。