風土47
今月の旅・見出し
 
 
長野県■北斎と栗と江戸風町並みに心和む小布施町


小布施観光のシンボルの美術館・北斎館

国道403号沿いに連なる木造和風の家並み

125年余の伝統の桜井甘精堂の栗ようかん

泉石亭で食べたころり入った栗わっぱ膳

文化・芸術を育てた高井鴻山の記念館
 9月は栗の季節。お菓子屋のショーケースでは栗の菓子がよく目につく。栗饅頭、栗最中、栗羊羹、栗きんとんなど、日本人にはこんなに栗好きが多いのだろうかと思うほど栗菓子が並ぶ。

 この栗菓子が町興しの大きな力となったのが長野県北東部の小布施である。

 江戸後期きっての浮世絵師、葛飾北斎が83歳から小布施に滞在中に描いた絵画を集めた北斎館を中心に住民が芸術、文化、歴史を掘り起こし、江戸風町並みを再現して、栗などの名物に磨きをかけて町づくりに努めた。それが好ましい観光地として人気を集めた。

 シンボルの北斎館へは小布施駅から歩いて12分ほど。展示された肉筆画をはじめ2基の祭り屋台に描いた鳳凰図など精緻で色彩豊かで、晩年とはとは思えない力強さを感じる。

 周辺には小布施堂や竹風堂、桜井甘精堂、栗庵風味堂など菓子店が集まるが、小布施が栗の産地になったのは江戸時代の城主が度々繰り返す松川の洪水防止に丹波の栗の木を植林したことに始まる。酸性度の強い水の松川の氾濫による強酸性土壌が栗の生育に適合。寒暖差の大きな気候も相まって良質な栗が育ち、幕府直轄の天領になり、栗は献上品にされた。小林一茶の句にも「拾われぬ栗の大きさよみごとさよ」とある。

 栗の木レンガを敷き詰めた栗の小径は、北斎や多くの文人墨客を支援した豪農商人で文化人の高井鴻山記念館に続いている。街には灯火のコレクションの日本のあかり博物館や日本人画家の作品を展示した小さな栗の木美術館、日本画のおぶせミュージアム・中島千波館、四季の花々を鑑賞できるフローラルガーデンおぶせなどの見どころが点在する。

 芸術や文化の香る小布施はどこか栗のようにほくほくとして心和む。

〈交通〉
・長野から小布施まで長野電鉄特急で約25分
〈問合せ〉
・小布施文化観光協会☏026・214・6300
大阪府■だんじり祭にわく城下町と街道の宿駅の町・岸和田


復元だが優美な姿の3層の岸和田城天守閣

古い町並みを残す紀州街道の町並み

テレビ小説の舞台として注目

藩御用菓子司の小山梅花堂

歴史史料もある、だんじり会館

飲食店がんこが入った五風荘
 9月が近づくとそぞろ浮き立つ町がある。毎年に秋に「だんじり祭」(今年は9月15日・16日)が催される岸和田である。

 祭りは提灯でにぎやかに飾り立てられた地車が各町内から繰り出し、互いに激しくぶっつけ合う、ケガ人が出るほどの喧嘩まつりでつとに名高い。

 そんなイメージや商工業の盛んなことからどこか荒々しいイメージを抱いて訪ねたが、城跡を中心に南北朝時代から江戸時代を通じて城下町だった面影が思いのほか残る落ち着いた町であった。

 町の表玄関の南海電鉄岸和田駅からアーケードの商店街をほんの2~3分。NHK朝のテレビ小説「カーネーション」の主人公・小篠綾子さんのコシノ洋裁店の角を左折して城見橋商店街を歩く。抜けて橋に至ると地名の通り岸和田城天守閣が間近に見えた。

 堀伝いに市役所方向に歩いて二の丸広場から門をくぐって天守閣に上がる。城主の武具や遺品、展示で歴史をたどる。記録には天守閣は江戸後期に落雷で焼失したまま再建されずに武家時代を終えたとある。

 それが昭和29年に3層の天守閣が甦り、その後に城壁や櫓を再現して江戸時代を彷彿させる。

 最上階に立つと櫓や堀が眼下に。足下には三国志に因む特異な八陣の庭が見える。だんじりが宮入りする鎮守社の岸城神社や素晴らしい回遊式庭園の五風荘、地車の展示や資料の充実した岸和田だんじり会館も近くにある。

 瓦屋根の連なるあたりは紀州街道の古い町並み。城のあとに足を延ばすと表門や鐘楼、太鼓櫓などをもつ圓成寺から光明寺にかけて土蔵造りや格子窓など古い商家や町家が残る。吉田松陰の逗留地碑に幕末の慌ただしさが浮かんでくる。

 歩いていてよく目につくのが小山梅花堂や風月堂、竹利商店などの和菓子店。たいていの店にあるのが村雨、時雨などと呼ばれる棹菓子で、岸和田は村雨の元祖的な存在。口の中でパラパラと降る食感からの菓名で、ほろほろながらちょっぴりもちっとして穏やかな甘さだった。

〈交通〉
・大阪・なんばから岸和田まで南海電鉄で約30分
〈問合せ〉
・岸和田市観光課☏072・423・1111
・岸和田市観光振興協会☏072・436・0914
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。