風土47
今月の旅・見出し
 
香川県■城下町の面影を残す海に臨む近代都市・高松


代々の藩主が造営を続けた大名庭園の栗林公園

浮城と呼ばれた海際に立つ高松城跡の月見櫓

近代都市の装いが進む広やかな高松駅前

香川名物の高松駅構内の「連絡船うどん」

干柿餡入り麩焼き煎餅の三友堂の「木守」

菊池寛通りに立つ『父帰る』の一幕の像
 江戸時代、松平氏12万石の城下町としてひらけた高松は、瀬戸大橋の開通までは宇高連絡船が往来する四国の表玄関。四国各地への列車の発着で大いににぎわった。今も行政や経済、文化、交通の中心地として中高層のオフィスビルやホテルが駅周辺やクス並木の中央通りに連なる。片原町や丸亀町にのびるアーケード街には商店が軒を接して続いている。

 そんな都市化の中で城下町の面影は駅から5分の高松城跡(玉藻公園)に残っている。海水を堀に引き込んだ日本三大水城で、安土桃山時代の領主・生駒氏から松平氏へ、150年後の今も月見櫓や艮(うしとら)櫓、石垣、庭園などに歴史がしみじみとしのばれる。

 駅前からバスで10分の栗林(りつりん)公園は、紫雲山を借景にして6つの池と13の築山、多数の松からなる広大な大名庭園。茶店や橋などもあって「一歩一景」の言葉通り、歩くごとに景観が変わり、心地よい空間と時間に包まれた。

 市役所や県庁など官庁街にある中央公園や周辺には、『恩讐の彼方に』『真珠夫人』の小説や文芸春秋社創立などでおなじみの小説家・実業家の菊池寛の生家跡や銅像、戯曲、『父帰る』の一場面を表したブロンズ像もある。

 丸亀町や片原町辺りの商店街で目に付くのは、太くてコシが強くダシのきいた「讃岐うどん」。近年は皮がパリパリ、肉がジューシーな「骨付き鳥」も高松名物になっている。

 数えきれないほどあるうどん店の中で食べた一軒が、JR高松駅プラットホームにある立ち食いの「連絡船うどん」。かつて宇高連絡船で評判だったうどんの味を伝えるので人気があるが、手軽に手早く味わえるのもありがたかった。

 おみやげには干し柿を餡にしてせんべいで挟んで和三盆糖を振った上品な茶菓の三友堂の「木守」や、高松城の瓦をかたどったすこぶる硬いが和三盆糖の甘さに和む宗家くつわ堂の「瓦煎餅」がおすすめだ。

〈交通〉
・JR予讃線・高徳線高松駅下車
〈問合せ〉
・高松市観光交流課☏087・839・2416
 
新潟県■港の繁栄が築いた柳都の華やぎ残る古町・新潟


六連アーチが目をひく市のシンボルの萬代橋

黒御影石に刻まれた「新潟ブルース」の歌碑

本町アーケード街に露店が並ぶ本町市場の様相

大阪屋古町本店の看板菓子の洋菓子「万代太鼓」

昼時の行形亭の座敷に上がる古町芸妓

豪商の別邸や高級料亭がつくる白壁通り
 日本一の長流、信濃川の河口にひらけた新潟は江戸時代、日本海西廻り航路の寄港地。幕末には外国船が出入りした開港5港として栄えた町。その名残を伝える豪商邸宅や行政建物、高級料亭が今も本町や古町、西大畑に残っている。

 「堀と柳と美人の町」と呼ばれたこのエリアへは、新潟駅前から徒歩10分の信濃川に架かる長さ306mの萬代橋を渡って行く。

 渡った橋のたもとの黒御影石に♫思い出の夜は 霧が深かった 今日も霧がふる 万代橋よ……50余年前に美川憲一が唄ってヒットした『新潟ブルース』(山岸一二三作詞)の歌碑があった。橋は六連アーチの鉄筋コンクリート造りで、クルマやバス、人の往来が絶えない新潟の大動脈である。

 アーケード街の本町通りでは野菜や花などの露店がずらりと並ぶ本町市場が市民の台所的存在。この本町・古町界隈で目に付くのは名物「笹だんご」などの菓子店。その一軒の大阪屋に入って新潟銘菓「万代太鼓」を味わった。筒形に巻いたバウムクーヘン生地の中にクリームを詰めた、ふわりの歯応えにとろりの舌触りの洋風焼菓子である。

 古町花街の料亭、鍋茶屋通りから西へ歩くと税務署、警察署、美術館など集まる西大畑。高級料亭の行形(いきなり)亭の前でタクシーを降りる芸妓の姿に、昼どきながら艶めきを感じた。この料亭の北側にかつて新潟刑務所があったことから、この間の道は今でも地獄極楽小路と呼ばれている。

 また表通りには漆喰壁の蔵や板塀が連なる白壁通りの名があり、回遊式庭園と建築美を見せる豪商・斎藤家別邸や、大地主・伊藤家から寄贈された別邸を公開した北方文化博物館が向かい合って情緒豊かな道筋をつくっている。

 界隈には会津藩士殉節之碑や作家・坂口安吾生誕碑のある新潟大神宮やスイス人設計によるロマネスク・ルネッサンス折衷の木造建築のカトリック新潟教会など和洋文化が織りなして栄えた時代を伝えている。

 駅に向かう柾谷小路の中央区役所が入った地上125mのNEXT21の展望ラウンジに昇って360度の眺望を堪能した。今しがた歩いてきた古町や西大畑のすぐ向こうに日本海が近かった。夕日がさぞかし見事だろうと思ってしばしたたずんだ。

〈交通〉
・JR新潟新幹線新潟駅下車
〈問合せ〉
・新潟観光コンベンション協会☏025・223・8181
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)