風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
北海道◎釧路市|啄木ロマンと夕日の美しい霧の港町


夕日の美しさで知られる黄昏の幣舞橋

幣舞公園から見下ろす釧路の中心街

啄木の歌碑が立つ眺めのいい米町公園

「勝手丼」で観光客にも人気の和商市場

MOOの2階にある屋内施設の港の屋台

屋台には飲み食いできる店が多種多様

釧路銘菓「しとき」/ 名物駅弁「かに飯」
 北海道東部の中心都市・釧路は釧路川の河口にひらけた港町。目の前に太平洋がひらけ、サケ、マス、サバ、タラ、サンマなど全国屈指の水揚げを誇る漁港で知られている。背後には日本最大の釧路湿原を控え、市域は阿寒湖まで及ぶ。

 中心市街は釧路駅から釧路川にかかる幣舞橋にかけて。碁盤目状の道路に沿ってオフィスやホテル、飲食店などのビルが連なり、ネオン街もまとまってある。炉端焼き発祥の町だけに、その種の店がたくさんある。

 観光スポットの1つが駅前の和商市場。札幌・二条市場と函館朝市と並ぶ北海道の三大市場。海産物など多様な店が60軒ほど集まる。ご飯を入れた丼を持って市場内を歩いて、好みの魚介の刺身などをトッピングして自分で作る「勝手丼」はここから生まれた。

 一番の観光名所は駅から北大通りを徒歩で10分余りの幣舞(ぬさまい)橋。全長124mの長い橋の欄干には四季を表現した4体のブロンズ像が目をひく。この橋から釧路港に沈む夕日はマニラ、バリ島と並ぶ世界三大夕日と呼ばれ、とくに秋の夕日がきれいだという。

 橋のたもとのユニークな建物は、一大ウオーターフロント「釧路フィッシャーマンズワーフMOO(ムー)」の中心施設で、鮮魚市場、土産店のほか、2階に魚介、肉、ラーメンなどの10軒余の飲食店が並ぶ”港の屋台“がある。気さくで手軽で、地元民や旅行者でにぎわう。ランチ営業の店もある。

 対岸の石段の出世坂を上った幣舞公園からは市街が一望。ベストセラーとなった釧路を舞台にした原田康子の『挽歌』の文学碑に、“霧の町釧路”を思い出した。

 川沿いのレンガ壁の建物の港文館は明治41年、漂泊の歌人・石川啄木が新聞記者として務めた釧路新聞社の再現。2ヶ月半の在釧だが、多くの短歌や記事などでの活躍ぶりを展示。

 「さいはての駅に下り立ち雪あかりさびしき町に歩み入りにき」。当時の根室本線は釧路が終点。南大通りには芸妓・小奴とのロマンスをうかがわせる「小奴といひし女のやはらかき耳朶なども忘れがたかり」など市内に27基の歌碑がある。啄木が手厚く遇されている町なのである。

 南大通りの坂を上った高台の米町公園には「しらしらと氷かがやき千鳥なく釧路の海の冬の月かな」の大きな歌碑がある。啄木が釧路で過ごしたのは1月21日~4月5日。まさに冬だけの滞在である。

 公園の展望台に立つと、眼下に幣舞橋や釧路港、MOOをはじめ釧路市街や阿寒の山並みなどが大きく見渡せ、晴れ晴れとして、はるばるの旅の思いに浸された。

〈交通〉
・JR根室本線釧路駅下車
〈問合せ〉
・釧路市観光振興室☏0154・31・4549
・釧路観光コンベンション協会☏0154・31・1993
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)