風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
群馬県■雄大な自然景観と真田氏の歴史を秘めた町


沼田公園のシンボルの鐘楼

城跡に立つ城主信之と妻小松姫の像

昨年5月にオープンした沼田市歴史資料館

タレが絶妙の東見屋の「味噌まんじゅう」

十割そばが抜群の「山の音御膳」2500円

とんかつ店が点在する“とんかつ街道”

“東洋のナイヤガラ”と呼ばれる吹割れの滝
 群馬県北東部の沼田は“天空の城下町・真田の里”を謳う、河岸段丘に築かれた真田氏ゆかりの高台の城下町である。
 4年前のNHK大河ドラマ『真田丸』で広く知られたように真田氏が5層の天守閣や櫓、門を構え、水利や田畑、町割など領内の復興に努めた足跡が残る。

 沼田公園になった城跡の石垣や鐘楼、真田信之・小松姫像などがわずかに往時をしのばせるが、昨年5月7日にオープンの7階建てのテラス沼田(庁舎等複合施設)の沼田市歴史資料館では、沼田の成り立ちや風土を分かりやすく展示している。

 天下分け目の関ケ原の合戦の際に、長男真田信之と当主昌幸・次男幸村が東軍(徳川方)と西軍(石田方)に分かれて戦い、家名を遺した史話の解説もあった。

 街を歩きながら、本多忠勝の娘で真田家に嫁いだ小松姫が眠る正覚寺、屋根に六連銭を描いた天桂寺、大ケヤキの須賀神社などで真田の時代に思いを寄せた。

 街なかでは名物の「味噌まんじゅう」を東見屋で食べ、荒木屋でずしっと重い「栗羊羹」を買い、昼は十割そばの「山の音御膳」の味とボリュームに満足した。沼田高校前の肉屋で立ち食いした牛・豚ひき肉と枝豆たっぷりの「えだまメンチ」も忘れられない。

 沼田市街から東へ、名湯の老神温泉に向かう国道120号は沼田の動脈だが、とんかつの名店が6店ほど連なり、“とんかつ街道”と呼ばれている。大きな店構えのとんかつトミタは、「ひれかつ定食」の他にそば、うどん、てんぷらも食べられる。

 この店から見える赤城山を正面にした片品川の谷の大パノラマは、長い時間をかけた川の浸食と堆積の繰り返しでできた日本屈指の河岸段丘で知られている。

 道路沿いのリンゴ、ブドウ、サクランボの畑に果物の産地を実感しながら、片品川の上流へと遡ると、「日本の滝百選」の吹割れの滝があった。
 高さ7メートル、幅30メートルの凝灰岩、花崗岩の川床を轟音と飛沫を上げながら落下するさまは吸い込まれそうな迫力。夏はとびっきりの清涼感に包まれる。

 この吹割の滝や沼田観光の泊まり場として人気なのが老神温泉。皮膚病、リウマチなどに効く単純泉、単純硫黄泉の湯で、片品川の渓谷に臨む15軒ほどの宿は設備ともてなしがいい温泉地である。

 沼田は「森林文化都市」を名乗るように自然と歴史、食、花が豊かで、四季が鮮やかな安らぐ町である。

〈交通〉
・JR上越線沼田駅下車、または関越自動車道沼田IC
〈問合せ〉
・沼田市観光協会・沼田市観光案内所☏0278・25・8555
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)