風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
福井県■幕末・維新に輝く足跡を残す歴史の町


恐竜像とモダンなハピリンが目に付く福井駅前

北ノ庄城址に立つ勝家とお市を祀る柴田神社

江戸時代を通して城下町の要となった福井城跡

郷土が誇る由利公正像と橋本左内像

万葉調の和歌で知られる橘曙覧記念文学館

名物駅弁の越前かにめし

越前おろしそばと焼き鯖寿し
 2023年春に開業予定の金沢~敦賀間の新幹線が、1年半延期になるとの発表で落胆気味の福井から敦賀へ行ってきた。

 福井駅前広場では恐竜像、駅舎の壁には巨大な恐竜のイラスト。県内で恐竜の化石が多数発掘された“恐竜王国”の玄関口としての歓迎モニュメントである。

 駅続きのプリズム福井や駅前のモダンな複合施設のハピリンには、名物の越前ガニ、越前おろしそば、焼き鯖寿し、ソースカツ丼、若狭カレイなどの食事処から花ラッキョウ、水ようかん、羽二重餅の土産物まで多種多様な店が並ぶ。人口約26万を数える県都らしい近代的なビルである。

 町としての歴史は戦国時代に柴田勝家が築いた北ノ庄城の城下町に始まるが、賤ケ岳の合戦で秀吉に敗れ、妻・お市(織田信長の妹)と自刃。7年で終わっている。

 城跡には2人を祀る柴田神社があり、お市の子の茶々、初、江の浅井3姉妹の像も加わり、歴史ドラマを語り掛けてくる。

 徳川家康の次男・結城秀康が福井に入ったのは1600年。松平藩68万石の福井城は石垣と内堀が残るだけだが、復元の山里口御門や御廊下橋に江戸時代への思いが膨らむ。本丸跡には県庁舎が建っている。

 幕末の名君で知られる福井藩主松平春嶽や藩士の橋本左内、中根雪江らを祀る福井神社や藩主松平家別邸の養浩館庭園などにも城下町の時代をしのばれる。

 福井駅の南西、足羽川にかかる幸橋を渡った足羽山麓の愛宕坂エリアには、幕末・維新の歴史が凝集。藩財政を立て直し、明治政府で金融財政を担当、「五箇条の御誓文」にも関わった由利公正の像や邸宅跡、公正と交流のあった坂本龍馬歌碑も立っている。

 足羽山麓には藩主春嶽に才を買われ側近として藩政改革に手腕を奮った橋本左内を顕彰する左内公園がある。左内は一橋慶喜の将軍擁立に動き、26歳の時に「安政の大獄」で斬首。像と墓所がある。

 左内公園から山裾の路を歩いて愛宕坂を上り、石段坂の途中にあるのが橘曙覧(たちばなあけみ)記念文学館。曙覧は「たのしみは」で始まり、「~時」で終わる形式で詠む「独楽吟」(どくらくぎん)で知られる幕末の歌人・国学者である。

・たのしみは妻子むつまじくうちつどひ
 頭ならべて物をくふ時
・たのしみは朝おきいでて昨日まで
 無かりし花の咲ける見る時

 観光的には地味に見える福井市だが、川や山を控えて、特に幕末・維新の歴史の懐深い町である。

〈交通〉
・JR北陸本線福井駅下車
〈問合せ〉
・福井市おもてなし観光推進課☏0776・20・5346
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)