風土47
旅空子の「味」な旅・見出し
 
群馬県■日本遺産の里沼に育まれたツツジ咲く城下町


市のシンボルのツツジ咲くつつじが岡公園

旧藩士住宅や長屋門を移築修復した「武鷹館」

城の堀にもなった城沼。畔には公園や記念館がある

宇宙への夢が膨らむ向井千秋記念子ども科学館

小説家・田山花袋の胸像と武家屋敷だった旧居

うどんにナマズの天ぷらも付く「本丸御膳」

香ばしく上品な甘さの三桝家總本舗の「麦落雁」
 今年は桜前線の北上が早めだが、ソメイヨシノが葉桜になると、日本列島の山川草木はみるみる緑に染まり始める。その色に映えて深紅や紫紅、橙、白など色とりどりに花を開くのがツツジである。

 名所は数多いが、群馬県東南部に位置する館林は、つつじが岡公園に象徴されるツツジの町として知られている。
 花期には早かったが、所用があって浅草から東武電車で館林を訪ねた。駅前の観光協会で貰った「まちなか散策ガイド」に従い、“歴史の小径”をたどり城跡まで歩いた。

 城といえば館林は赤井氏の築城の室町時代から明治まで続いた城下町。江戸時代は徳川四天王の榊原氏が10万石で居城し、徳川綱吉が5代将軍になる前に25万石を領して19年間、城主を務めた地である。

 城跡は市街地の東、細長い城沼(じょうぬま)を天然の堀に見立てた平城で、土塁や石垣が残り、藩政最後の城主の秋元氏別邸や鷹匠町武家屋敷(武鷹館)の建物が歴史を語り継ぐ。三の丸や大名小路、代官町、鞘町、鍛冶町などの地名にも城下町の名残がしのばれる。

 城沼の南畔に400年前に城主榊原忠次によって日本でいち早く開かれたというつつじが岡公園では、100余種、1万株のツツジが燃え立つ4月10日~5月15日のツツジ祭りには大いに賑わう。

 館林はこの城沼をはじめ、米や小麦の田畑を潤し、鯉や鮒、ナマズの育つ多々良沼や葦の繁茂する分福茶釜でおなじみの茂林寺沼がある。産業や文化が育ったこの沼が里山にならって「里沼」と称され、令和元年に「日本遺産」に認定されている。

 南西畔の二ノ丸、三の丸跡には市役所をはじめ館林出身の小説家・田山花袋記念文学館や旧居、女性宇宙飛行士・向井千秋記念子ども科学館などが集まっている。

 2階建てのレトロでモダンな洋風建物もその1つで、明治後期に建設された館林の発展に大いに寄与した毛織物会社の旧上毛モスリンの事務所である。

 市役所近くの館林うどんの「本丸」で腹ごしらえ。釜揚げうどんにエビやナマズの天ぷら、炊き込みご飯、香の物、デザート、コーヒーのセットに満足した。

 水沢、桐生と並ぶ群馬3大うどんの町・館林は豊富な水と小麦栽培に適した肥沃な土地、夏の長い日照時間、乾燥に適した冬の赤城おろしの条件に恵まれた小麦の一大産地。日清製粉の創業地である。

 帰りに三の丸の市役所通りに店を構える三桝家總本舗で江戸時代からの館林銘菓「麦落雁」を土産に買った。コリッとした歯切れのあとに芳しい麦香と上品な甘さがホロっと砕ける。派手ではないがこの町に似て、どこか奥ゆかしさが染みる。

〈交通〉
・浅草から館林まで東武伊勢崎線の特急で約1時間
〈問合せ〉
・館林市観光協会☏0276・74・5233
 
中尾隆之
中尾隆之(なかおたかゆき)
高校教師、出版社を経てフリーの紀行文筆業。町並み、鉄道、温泉、味のコラム、エッセイ、ガイド文を新聞、雑誌等に執筆。著作は「町並み細見」「全国和菓子風土記」「日本の旅情60選」など多数。07年に全国銘菓「通」選手権・初代TVチャンピオン(テレビ東京系)。日本旅のペンクラブ代表・理事、北海道生まれ、早大卒。近著に「日本百銘菓」(NHK出版新書)