風土47
ブデチゲ


 11月末から12月初めの間は、韓国のお母さんたちが一年中でもっとも慌ただしい時期です。なぜなら、この期間に一家が来年一年間食べるキムチの漬け込みをしなければならないからです。

 日本の友人に、キムチを漬けられるのかと聞かれることがありますが、何も考えずに堂々とできませんと答えると、韓国の女性なら誰でもできると思っているのか、みんな少し驚くように見えます。

 しかし、韓国では若い女性が一人でキムチを漬けるのは珍しいことです。結婚して子供ができてからようやく母親に教えてもらいながら漬け方を覚えるのが一般的です。実家から離れて暮す共働きのお姉さん夫婦と私も毎年、母からキムチを送ってもらいます。

 5人家族の我が家では、毎年白菜50個と大根10本でキムチを作ります。母ひとりで作るのはとても大変ですので、近所のおばさんたちが手伝ってくれますが、私と姉も手伝いのために実家へ帰ります。

 新しいキムチを漬ける一方、去年漬けたキムチは発酵と熟成が進み、チゲ(お鍋)やキムチチヂミ、キムチ炒め等を作る時に欠かせません。また、乾燥した冷たい風が吹くこの季節は、古いキムチを利用して作る料理が一番おいしく感じられる時期ですね。

 ということで、今月は「ブデチゲ」をご紹介しましょう。

ブデチゲ
◆典型的「ブデチゲ」。ラーメンは必須ではないが、今やイメージ的に欠かせない。
韓国では、インスタントラーメンが麺だけでも売られている。

 ブデチゲのブデは「部隊」のことで、朝鮮戦争で食べ物が足りなかった時代、米軍部隊の裏から出るハムやお肉などに古くなったキムチを入れて作ったのが今のブデチゲの始まりだという少し悲しいお話です。

 しかし50年経つ間に、ブデチゲはいつのまにかもっとも韓国的な食べ物の一つになりました。当時の韓国人にとってハムやソーセジは少し脂っぽいと感じる食材だったので、古いキムチとコチュジャンで味付けをして、韓国人の口に合うように工夫し、見近かなフュージョン料理として発展してきました。

ノルブブデチゲ
◆とてもブデチゲ専門店とは思えないおしゃれな店。なぜか入りやすいのも良い。

 いまや「国民食」とさえいわれるブデチゲですから、どのお店を取り上げるか大いに悩みましたが、若者から年配者まで幅広い客層に支持されている韓国ナンバーワンのチェーン店「ノルブブデチゲ」をご紹介することにしました。

 今回取材した「ノルブブデチゲ」は、水原駅ビルの最上階にあり、一般的なブデチゲ店とは少し違ったおしゃれな雰囲気で、店員たちの応対が丁寧なこともあり、喫茶店にでも来たような感じを与えてくれます。

キムチブデチゲ
◆「キムチブデチゲ」2人前。これで12,000ウォンは安い。

 「ノルブブデチゲ」では5種類のブデチゲがあります。私たちはキムチブデチゲを2人前注文しました。平たい鉄板鍋にキムチ、ソーセジ、ハム、豆腐、米もち、新鮮な野菜が盛られて出てきます。それをテーブル上のガス台に乗せ、牛骨を煮込んで作ったお店特製のスープを注ぎ入れ、火を点けます。具はお好みで追加することができます。ブデチゲにはラーメンというイメージがあるので、ラーメンを入れて食べる人が多いそうです。

特製スープを入れて
◆きれいに盛り付けられた鍋に、牛骨を煮込んで作ったお店特製のスープを注ぎ入れる。

 古いキムチの酸味がハムから出る油のしつこさを押さえ、ハムの油は辛さを押さえて、というように油と酸味と辛さの絶妙な調和を味わえます。スープがとてもおいしくて、先にご飯を一口、口の中に入れてからスープを食べるとほっとするくらい暖かくて懐かしいおいしさがあります。それに、色々な材料が入るので選んで食べる楽しさもあります。ブデチゲさえあればご飯が何杯も進みますよ。

カキチヂミ
◆食べ頃に煮え上がった「キムチブデチゲ」。

 お値段は1人前6,000〜7,000ウォンです。追加の具は1,000ウォンから。具の盛り合わせは3,500ウォンです。

 韓国の冬は雪が積もるほど寒いですが、ブデチゲを食べた後は、外を歩くのが心地よく感じるほど体が温まります。

 

  • 金昭英(キム・ソヨン)1979年江原道江陵市生まれ
    東京の語学スクールで日本語を学び、現在は水原市で日本語通訳として働いている。