風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
新学期、京都の「国語・算数・理科・社会」(2013年4月1日)

 4月となり、新しい環境でスタート!という方々もおられることと思います。学生という身分を離れ早、何十年となりますが、この時期、電車や近所で出会うピカピカのランドセルを背負った小学一年生を見かける度、微笑ましく、その小さな背中に、つい「頑張れ!」とエールを送ってしまいます。仕事柄、超短文の原稿を書く際には今でも"ジャポニカ学習帳"の原稿用紙タイプを使っている私。購入時、隣に並ぶ「国語、算数、理科、社会」の懐かしいノートを横目に勉強しなかった学生時代を思い出すのであります。
 今回は「新学期」、学生気分で京都の「国語、算数、理科、社会」を訪ねる散策に出掛けましょう。各科目の"ゆかりの場所"やその分野で"活躍した人物"とは…。

一時間目「国語」

写真:人気の観光スポット嵐山にある「時雨殿」

写真:雅な平安貴族の歌の世界を再現した展示

 最初は国語。京都の国語にゆかりの人物や場所は沢山あります。一番、皆様に親しみのあるのは年末恒例の「今年の漢字」の舞台となる「清水寺」でしょうか。文学まで視野を広げると宇治にある「源氏物語ミュージアム」などが筆頭に挙がります。今回紹介したいのは昨年リニューアルオープンした嵐山にある「時雨殿」。"かるた"でお馴染みの小倉百人一首の施設です。小野小町の「花の色 うつりにけりな いたずらに わが身世にふる ながめせしまに」に代表される100首に親しめるスポット。展示内容は平安貴族の歌の場面を4分の1のサイズで再現したジオラマや100歌仙の人形など。2階では平安装束を身にまとい記念写真も撮れるので、旅の思い出のワンショットにお薦めです。さらに、嵐山・嵯峨野の一帯には歌と対応した100基の歌碑が建っており、この歌碑めぐりの散策が楽しむことが出来るという工夫もなされています。

二時間目「算数」全国の神社・お寺にも現存する「算額」とは?

写真:上の部分に白と赤で書かれた図形が見て取れる「算額」

写真:沢山の絵馬が奉納されている「絵馬所」

 次に算数ゆかりの場所へ。学問の神様として有名な菅原道真を祀る「北野天満宮」。その境内の絵馬所にある"算額(さんがく)"を探して下さい。算額とは神社やお寺に奉納された数学(和算)問題や解答を書き表した絵馬のこと。江戸時代の日本人は、大の算数好きだったそうで、問題や解答が絵馬として残っています。当時、解けた喜びを神仏に報告し感謝し奉納する風習があったのです。北野天満宮には最古級クラスの算額もありますが、写真は明治のもの。文字は剥落しているものの、上の部分に図形がはっきり見て取れます。こうした算額は京都だけに限らず、全国の神社・お寺に約800以上現存しています。是非、皆様のお近くの神社やお寺でも、この算額絵馬を発見してください。

三・四時間目「理科・社会」地図に繋がる江戸時代の天文観測所

写真:大将軍八神社は京都市の西北に位置する方除の星神

写真:方徳殿には天文資料の他、貴重な神像も

写真:江戸時代に観測所が設けられた「月光稲荷神社」

写真:日本を実測し地図を作った伊能忠敬(写真提供:伊能忠敬記念館)

写真:忠敬の偉大な功績を今に伝える伊能忠敬記念館(写真提供:伊能忠敬記念館)

 最後に理科と社会を同時に。理科は広い分野ですが、特に天文学に注目してみます。天文学は陰陽道や暦、数学というものにも深く関わってきますが、知名度抜群なのは平安時代の陰陽師・安倍晴明ですね。でも今回は昨年公開された映画「天地明察」の主人公・渋川春海(安井算哲)について少し。彼は江戸時代の天文暦学者で初の国産暦「貞享暦」を作った人物です。それまでの日本は中国の暦を使用していましたが誤差が大きくなってきたため暦の改革が必要だったようです。その春海が製作した日本最古級の天球儀が「大将軍八神社」の方徳殿に展示されています。ここには天文学史として貴重な古天文暦資料も所蔵されているので天文学に興味のある方に特にお薦めです。

 そして「貞享暦」の後、さらに江戸幕府が京都に天文観測所を設けました。その場所が「月光稲荷神社」の辺りです。住宅街にひっそりと建つ神社で、地元で聞いてもご存じの方になかなか出会えず見つけるのに一苦労しました。この辺りに「寛政の改暦」のための観測が続けられていたとのこと。

 さらに話は「社会」に繋がります。日本を測量して歩いた伊能忠敬が日本地図作成の中心線を定めたのも、この場所だと言われています。地球の経度の基準となる本初子午線ですね。旅好きな私にとって地図は必需品。伊能忠敬に始まる地図のお陰で見知らぬ土地へも迷わず安心して出かけられます。

 私に財力?があれば、この「月光稲荷神社」脇に「伊能忠敬日本地図作成の中心線跡」何て刻んだ石碑を建てたいほどです。その伊能忠敬は皆様ご存じでしょうが、千葉県生まれ、佐原の有力商人です。50歳で家督を長男に譲り、江戸へ出て勉強を始めます。55歳~71歳まで測量と地図作成に尽力した人物で教科書にも必ず載っています。香取市佐原には「旧宅」や「伊能忠敬記念館」があります。私の勝手な想像ですが、伊能忠敬は有力商人で安心、安泰な老後、のんびりと余生を過ごすこともできたでしょうに…と考えてしまいます。もともと興味があって独学していたとは言え、50歳から江戸へ出て学び、70歳になるまで全国を歩いて測量するなんて、電車も自動車もない時代、精神力や体力もさることながら、その志、その好奇心、向上心に心を打たれます。カッコいいです!伊能忠敬には到底及ばずとも、50代、60代となった時、歳を言い訳に思い半ばで諦めたり、自ら卒業宣言したり、終止符を打つのは、勿体ない!と、何やら勇気が湧いてきます。学生時代はサボっていたけれど、勉強は生涯。4月でなくとも、"いつでもスタートは切れる"、エールを送らねばならないのは、むしろ自分自身の背中に…ですね。

アクセス・問い合わせ

  • 時雨殿 嵐電(京福電鉄)「嵐山駅」下車徒歩5分 電話075-882-1111
    10:00~17:00 月曜日休、入館500円
  • 北野天満宮 京都市バス「北野天満宮前」下車すぐ 電話075-461-0005
  • 大将軍八神社 京都市バス「北野白梅町」下車徒歩5分 電話075-461-0694
    5月1日~5日、11月1日~5日は方徳殿公開(500円)、期間外は事前予約制
  • 月光稲荷神社 JR山陰本線(嵯峨野線)「二条駅」下車徒歩15分
  • 伊能忠敬記念館 JR成田線「佐原駅」下車徒歩10分 電話0478-54-1118
    9:00~16:30 月曜日休、入館500円
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。