風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
父の日にちなみ…偉人の功績「○○の父」を思慕する梅雨

 さて6月になりました。毎年第3日曜日は「父の日」。今年は16日ですね。私の思い込みだといいのですが、どうも「父の日」は「母の日」よりも盛り上がりに欠けているような…。ともあれ、感謝の気持ちに差はありません。

 京都の郷土玩具の代表に"伏見人形"があります。その一つに「饅頭食い」と呼ばれる、二つに割った饅頭を手に持っている童の人形があります。これは童に「お父さんとお母さん、どちらが好きか(一説には大事か)?」と尋ねたところ、童は持っていた饅頭を二つに割って「どっちが美味しいか?」と聞き返した、という教訓を表現している人形です。

 という訳で、今回は「父の日」にちなみ、多少、こじつけですが、その分野で活躍、功績を残し、「○○の父」と呼ばれる人々をご紹介したいと思います。

尊敬する京都人の一人「水運の父・角倉了以」

写真:京都・嵐山「亀山公園」内に建つ角倉了以像。大堰川、渡月橋を見守る。

写真:高瀬川は鴨川と並行して京都の中心部を流れる

写真:高瀬川沿いに建つ了以の碑。高瀬舟をモチーフにした台座の上に建つ

写真:大悲閣からは眼下に保津川、眺望も素晴らしい

写真:大悲閣にある角倉了以の木像。眼光鋭く、事業に懸けた思いが伝わってくる

 京都の勉強をしている私にとって、尊敬する人物の筆頭に挙がるのが角倉了以(すみのくらりょうい)です。了以は日本史の教科書には出てきませんが、京都の郷土史には忘れてはならない人物。了以は、安土桃山~江戸時代初期に朱印船貿易によって富を得た豪商で、河川開削を手掛け、水運を発展させました。京都では現在、観光のメッカとなっている渡月橋が架かる保津川・大堰川の開削。また京都の中心部エリアでは鴨川に並行して流れている高瀬川も開削しました。また府外では富士川や天龍川も幕府の命により、了以が開削しました。(山梨県・富士川町には顕彰碑も建っています)

 始めは豊臣秀吉が方広寺大仏殿造営の資材を運ぶため、秀吉の命によって了以が着手しましたが、その後も高瀬川の開削を推進します。了以によって大坂と京都を結ぶ水運が大きく発展し、物流の運搬が活発になりました。それらの功績により角倉了以は「水運の父」と呼ばれ、京都のゆかりの場所には、像や碑が建てられています。

 また、了以は掘削作業の犠牲者を弔うために千光寺(大悲閣)を創建。嵐山の山中、眼下に川を見下ろせる絶景の場所にこの寺はあります。また秀吉によって死刑に処せられ、無念の死を遂げた豊臣秀次の妻、子供、妾の墓石を開削中に発見し、彼らを供養するためお寺も建立しました。そのお寺は高瀬川に架かる三条小橋のたもとにある「瑞泉寺」と言います。貿易で儲けた財力を社会に貢献する公共事業に投資、そして慈悲深い人物だった事も偲ばれる了以。了以の財力と高い志、技術者を統率するリーダーシップもあって完成した河川は現在、水運の役目は終えたものの、風光明媚な場所として親しまれています。

時代劇、映画ファンにはお馴染み「日本映画の父・マキノ省三」

写真:等持院の墓地南に建つマキノ省三像

写真:三吉稲荷神社は映画業界を支えてきた商店街の皆様にも親しまれている

 そして、もう一人。京都は「日本のハリウッド」と呼ばれ、現在も2つの撮影所のある太秦(うずまさ)は、日本映画の中心地でもあります。テレビ時代劇は減りましたが、映画では今も京都で撮影された時代劇が上映されることもしばしば。そのスタートとなる、日本初の劇映画「本能寺合戦」を撮った映画監督がマキノ省三。「日本映画の父」と仰がれています。マキノ省三が撮影所を置いた北区・等持院(とうじいん)の墓地南側には、彼の像が堂々と建っています。また、太秦の大映通り商店街に、ひっそりと佇む三吉稲荷神社(さんきちいなり)は映画の神様として親しまれています。境内には「日本映画の父・牧野省三の碑」が近年、寄進されました。京都には映画ゆかりのスポットも多いので、映画をテーマに散策するのもお薦めです。

父の日に手紙やカードを送ろう「郵便の父・前島密」

写真:「ていぱーく」に展示されている前島密の胸像など

写真:千代田区にある「ていぱーく」外観

写真:各都道府県の郵便局で販売されている「ご当地フォルムカード」

 さて京都ゆかりの「〇○の父」を2人紹介しましたが全国的に一番?有名なのは「郵便の父・前島密」なのではないでしょうか?前島密は明治の初め、郵便の仕組みを築いた郵便事業の創始者です。現在も1円切手の肖像となっている方です。東京・千代田区大手町にある「ていぱーく」では、郵便資料館のフロアで前島密の功績を知ることができます。郵便事業の仕組みだけでなく、明治時代の郵便局なども再現され、子供から大人まで楽しめる施設となっています。

 この「ていぱーく」は今年8月31日で閉館し、平成26年3月1日、スカイツリータウン(墨田区押上)のイーストヤード9階に移転、リニューアルオープンする予定。閉館前にも、そして移転後にも足を運びたいスポットです。

 最近はメールが伝達手段になっていますが、たまには手紙で父に感謝の意を伝えてもいいかもしれません。特に離れて暮らしている方は是非、今年の父の日は郵便でお手紙やカードを送ってはいかがでしょう。恐らく何よりものプレゼントになることでしょう。そして…いざ書くとなると…あれ?漢字が書けない(忘れた)、字か以前よりも下手になっているような…、と言った現実に私は手紙を書く度に直面しますが、手紙を書くことは嫌いではありません。記念切手やご当地フォルムカード(各都道府県を代表する食べ物や名所をデザインしたポストカード)を毎回、チェックするタイプなので、前島密は私にとっては親しみのある偉人の一人です。

 このほかにも「〇〇の父」と呼ばれる偉人が沢山おられます。皆様の街のご出身やゆかりの方を調べてみてはいかがでしょう?

アクセス・問い合わせ

  • 亀山公園
    阪急嵐山駅・JR嵯峨嵐山・嵐電嵐山の各駅より徒歩15~20分程度、公園内
  • 高瀬川・瑞泉寺
    市バス河原町三条下車、徒歩3分。顕彰碑は元・立誠小学校前
  • 等持院
    嵐電等持院駅下車、または市バス等持院道下車徒歩5~8分ほど
  • 三吉稲荷神社
    参拝自由 嵐電太秦広隆寺下車徒歩5分
  • ていぱーく
    東京メトロ各線大手町駅下車、A4・A5出口すぐ 9時~16時半 月休み
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。