

ついに富士山が世界遺産登録となりました。おめでとう。日本と言えば「ふじやま」と答える外国人の方も多いほど世界的にも有名。海外には富士山の倍も標高がある“高く険しい”山は数あれど、どこから見ても“バランスの良い円錐型”で、単独で座する稜美なお姿は独特です。私事ですが、高校時代のテニス合宿は麓の山中湖でした。その思い出を綴った手紙が富士宮市教育委員会の主催する「富士山への手紙・絵」コンテストで数十年前、佳作をいただいた遠い記憶があります。今も、このコンテスト続いていますので、是非とも、この世界遺産登録の喜びと誇りを手紙や絵に託してみてはいかがでしょう。詳しくは富士宮市HPを。
…ということで今月は、富士山世界遺産登録を記念し、そして夏山シーズン到来なので、京都盆地を囲む低山をご紹介します。私は自分では「山ガール」と思っていませんが、一部友人の間では「山姥」と言われておりますので、その奮闘ぶりをご紹介いたします。


写真:比叡山登山 景色の良いポイントは多々あり、写真の先には「ケーブル比叡」の駅

写真:雲母橋 この橋のたもとにも「雲母坂」の説明板があり、ここから山道
「京都の山」と言えば、どこが浮かびますか?京都は山に囲まれた盆地であることはご存じでも、浮かぶ山は?まず「比叡山」でしょうか。実は比叡山延暦寺の住所は滋賀県で山中に県府境があります。京都盆地を囲む山は知名度を踏まえ簡単に列挙すると、北に鞍馬山(513m)、東に東山三十六峰(一番高いのが比叡山で848m)、西に愛宕山(924m)です。鞍馬は山深くまで叡山電鉄が通っており、唯一、宗教法人が運営している日本一短いケーブルがありますので、比較的、楽に山頂まで登れます。今回、この鞍馬山は省略。
そして東山三十六峰のうち、一番北に位置する比叡山もケーブルやロープウエイ、バスを利用するのが一般的で山頂までのアクセスは容易です。無理に登山する必要性はありません。ですが私は麓の修学院離宮の脇から雲母坂(きららざか)を経て登った経験があります。比叡山への登山ルートは幾つかありますが、古の人々、特に天皇にお仕えする勅使は、この雲母坂ルートで延暦寺と都を行き来していました。それが、どれだけの体力、時間、見えた景色、それらを身をもって体験したくて挑みました。“雲母坂”とは夕雲が覆い、雲が生まれるように見えたため、この名が付いたとの事。何とも素敵な名ですが、いやいや、この山道、キツカッタ…山に入って15分位は、抉(えぐ)られた獣道をよじ登るような険しさで、軍手・ストックは絶対必須。この険しさが永遠と続くのなら引き返そうと思う程。でも事前に「最初の15~20分程キツイよ、でも、その先は楽」と耳にしていたので、後退は考えませんでした。ただ、何度も心の中で「昔の人はスゴイ、今みたいな登山靴はないし、私は麓までバスで来た…、都の中心からスタートなんて無理だ。すごいな~偉いな~流石だな~」とひたすら思い続けました。それが分かっただけ、ほんの少し古の人々と心通わせたような貴重な体験でした。ちなみに個人差はありますが、修学院道バス停から比叡山延暦寺まで私は3時間半程度かかりました。帰路は坂本ケーブルで下山(情けない…)。


写真:伏見稲荷 本殿にお参りした後、いよいよ「お山めぐり」スタート

写真:稲荷山四ッ辻 見晴らしも良く、茶屋もあるので休憩はここで

写真:稲荷山眼力社 「お山めぐり」で出会う眼の神様「眼力社」
そして東山三十六峰の一番南の稲荷山(233m)。スタートの麓は千本鳥居と商売繁盛のご利益が有名な伏見稲荷大社です。本殿お参り後、その裏の奥社奉拝所までは行かれる方も多いと思います。…が、その先の「お山めぐり」をなさる方は少ないかもしれません。「お山めぐり」は鳥居をくぐりながら階段式に登って行きます。
一番見晴らしが良いポイントは四ッ辻(よつつじ)。ここから右回り(正式は右回り、楽なのは左回り)で1周し、また四ッ辻へ戻ってきます。この1周は約1時間。途中、喉や声、眼の神様がおられ、小滝や沢山のお塚などに出会います。山頂上社(一ノ峰)は「末広大神」、何事も末広がりにと願いを込めてお参りをします。麓の本殿から本殿まで私は1時間半でした。四ッ辻までで体力的にキツイと思われた方は引き返してください。でも伏見稲荷は、この「お山めぐり」こそ神秘的で神と向き合う真摯な気持ちになるのでお薦めです。毎日のお散歩コースにしている御近所の方も沢山おられ、道中で出会います。


写真:弘法大師堂 大の文字の中央に小さなお堂

写真:大文字火床 火床に腰掛けて絶景ランチ!
お次は東山三十六峰の一つ、五山の送り火の「大」の文字のある如意ヶ嶽(にょいがたけ)。慈照寺・銀閣の脇からのコースが一般的で門前から30~40分程度で火床まで登れます。途中、長くて急な石段があり、そこが一番つらいポイントですが、後は問題ないでしょう。大の文字の中央には、弘法大師を祀る小さなお堂があります。
手を合わせた後、火床に腰掛けて、食べるお弁当は最高!送り火の他の文字や鴨川、御苑などが良く見え絶景です。この火床から約1キロ登ると山頂ですが、私は火床の景色で満足して下山してしまいます。
今度は山頂まで行ってみようっと。ただ一つ忠告が。火床はかなり急斜面で、身体を支えてくれるものはなく、高所恐怖症の方は、かなり怖いはず。鳥の様に飛びたてて、そこに浮かぶ雲に乗れそうな解放感があって、高い所が好きな私には最高ですけど。ちなみに送り火の8月16日は入山禁止です。


写真:おのぼりやす スタート地点の清滝川に架かる橋に灯る行灯

写真:愛宕神社 薄暗い境内には沢山の人々がお参りしている

写真:「火廼要慎」護符 これを台所や厨房に貼る
最期に西にそびえる愛宕山の愛宕神社へ「火廼要慎」の護符をいただきに向かいましょう。
7月31日から8月1日にかけて登ると千日分のご利益があり、この日は「千日詣で」と呼ばれています。私もちゃっかり、この夜に登りました。比叡山より標高は高いのに、清滝から私は2時間半で登ったので、その道中はキツイということが言えると思います。この夜は表参道に電球が付いているので足元は照らされ安心。でも一応、懐中電灯は持参します。その上、大勢の参拝客が登り下りするため、所々で数珠つなぎになります。ただ夜道なので周囲の景色が見えないのが、キツイ道中、モチベーションを下げる要因。でも行き交う人々の合言葉「おくだりやす」(下山の人への声掛け)「おのぼりやす」(登る人への声掛け)が絶える事なく続き、しんどい登りでは声が出ないのですが、その声が励みになったり、「なんでそんなに元気なの?」と思えたり。とにかく辛かったのに、もう一度、いや出来る事なら毎年登りたいと思ってしまう不思議な気持ちは何ナノだろう?と。山頂の愛宕神社に到着した時の達成感とビックリするほどの大勢の人々。
何とも言えない信仰心が漂っており、そこだけ世界が違うような感覚に包まれています。さらに、恐らく登らない方々から頼まれた人が10枚、50枚と沢山「火廼要慎」の護符をいただいて下山していく姿。だから京都の飲食店の厨房や家の台所(おくどさん)には欠かさずと言っていいほど、この護符が貼られているのだな…と納得。ある意味、町中の台所に貼ってあるのだからスゴイ。
そして、3歳までに愛宕神社に詣でると一生火難を免れるとされ、確かに、あやされながら登る三歳児、まだ恐らく歩けない幼児をおんぶして登っている父親が目立ちました。これも驚きでした。
京都の山々はスポーツ登山というより、どの山も“信仰の山”であることを、身をもって感じ得られることと思います。素晴らしい体験となります。是非、この夏、無理せず、自分の体力にあった「神の山」を選んで登ってください。トイレや水分補給にも気を付けて、例え低山でも最低限の備えと事前の下調べもしっかりとなさって「おのぼりやす」。
アクセス(今回は上記で紹介した登山口までのアクセスとします)
- 比叡山
京都バス・市バス「修学院離宮道」下車、または叡山電鉄「修学院」下車 - 稲荷山
JR奈良線「稲荷」下車、または京阪電鉄「伏見稲荷」下車 - 大文字火床
京都バス・市バス「銀閣寺道」「銀閣寺前」下車 - 愛宕山
京都バス「清滝」下車