風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
日本の素晴らしさを語れる日本人になりたい~郷土愛を育む「ご当地検定」~(2013年10月1日)

 先日バーで、一人で飲んでいると、隣のテーブルに座っていた30代サラリーマンのグループの一人がこんな話をしていました。経緯の程は分からないのですが、上司から“郷土をPRしなさい”という課題が突然、出されたそうです。そのサラリーマンは、たまたま京都府出身。すると「俺、地元、知らなくてさ~困ったよ」と。彼がその場をどう乗り切ったか?乗り切れなかったか?は知る由もありません。京都観光を推進する私の立場上、酔った勢いで「京都出身なら是非、京都検定受けて下さい」と隣のテーブルに乱入しようかとも思いましたが、ただの酔っ払いなので、思いとどまりました。

 カナダにホームステイした我が妹も「日本の紹介、日本の良さを聞かれても、ちゃんと話せなかった」とかなり反省していたことを、その時、思い出しました。妹は帰国後、ホームステイ先に英語解説付きの日本の風景写真集を御礼の手紙に添えて送った、という有様。私は仕事柄かろうじて、何とか京都や日本の説明を日本語では出来ると思いますが、英語が話せないから、人の事は言えません。ただ言語の問題はさておき、そのサラリーマンや妹のような「日本の紹介、故郷の自慢」が出来ない若者は少なくないでしょうね。そう考えると一時期大ブームとなった「ご当地検定」は、まず地元への知識を深め、郷土愛を育むことには一役担っているのかもしれません。


写真:京都検定チラシ
 私がこのコラムを書かせていただけるのも「京都観光文化検定1級」保持者であることが幸いし、そして、ご縁があったからです。京都検定は、今年の実施で10回目を迎えます。数あるご当地検定が受験者不足で相次いで撤退する中、受験者は未だに多く、有難いことです。一時は受験者12000人を超え、ここ数年も大幅に減る事もなく、ほぼ横ばいの5000人台をキープしていることも凄いことだと思っています。他のご当地検定と数字を比較したいところですが、やめておきます。とにかく大人気であることは「京都」という大観光都市、1200年の歴史と文化の奥深い魅力のある街であるがゆえでありましょう。

 先ほどの我が妹もカナダでは「特に京都のお寺の事を聞かれた」とも話していました。海外の方に日本を紹介するとき、東京も凄い大都市ですが、情報が行き届いているせいか、イメージできるみたいです。特長的な日本らしさを強調するには「京都」を語ることで「日本」の良さを伝えられるのかもしれません。そんなシーンに慌てないよう、日本人として将来、海外で働き、活躍したいと望む若者、大学生には、是非とも「京都」を知ってもらいたいと願うばかりです。京都検定を受験せずとも、その魅力を伝えられる程度の現地見聞をして、世界へ飛び出してもらいたいです。せめて世界遺産に登録されている文化財には一度は訪れていただきたい!と現役の大学生にはアドバイスしたいです。

では、折角なので、京都検定にチャレンジ!全て過去問の3級です。

写真:二条城二の丸
( )に入る最も適当なものを以下のア~エから選びなさい。

問題1、平成6年(1994)に「古都京都の文化財」として世界遺産に登録された文化財は、( )と16の神社・寺院である。
• ア、京都御苑 イ、御土居 ウ、二条城 エ、琵琶湖疏水

問題2、藤原頼通が父・道長の別荘であった宇治殿を寺としたのが始まりである寺院はどこか?
• ア、鞍馬寺 イ、酬恩庵 ウ、平等院 エ、三室戸寺

問題3、東京の神田祭、大阪の天神祭とともに日本三大祭の一つに数えられている祭はどれか?
• ア、葵祭 イ、祇園祭 ウ、時代祭 エ、鞍馬の火祭

問題4、建仁寺に伝わる( )は俵屋宗達の代表作として国宝に指定されている。
• ア、風神雷神図 イ、桜楓図 ウ、洛中洛外図 エ、観音猿鶴図

 いかがですか?4択だから「これかな~」で正解を導けると思います。2級は同じく4択ですが、問題レベルも少し上がり、さらに正解以外の3つに迷わす意図のある語句が入ってくるので、悩ましくなります。3級と2級は、上記のような問題が100問出題され、70点以上で合格。1級は、全て記述式で、正確に回答を書くことが基本です。

上記の4問の回答は以下の通り。
 問題1=ウ、問題2=ウ、問題3=イ、問題4=ア

 京都検定の今年の受験日は12月8日(日)、申込み期間は10月1日スタート(11月10日まで)。受験会場は京都と東京です。

 詳細は http://www.kyotokentei.ne.jp/

東京駅が街になる”また、一つ完成 東京駅八重洲口「グランルーフ」

写真:京都文化博物館
 突然ですが、また京都検定3級問題。

問題、現在の京都文化博物館別館(旧日銀京都支店)を設計した明治・大正期の建築家は( )である。
• ア、片山東熊 イ、武田五一 ウ、村野藤吾 エ、辰野金吾

写真:八重洲口「グランルーフ」
 答えとなる エ、辰野金吾。問題の様に京都にも彼の設計した建物がありますが、昨年から来年にかけ、何かと話題の東京駅。この東京駅も辰野金吾の設計です。東京駅は昨年から着々とエリア毎に順次オープンしています。丸の内駅舎は昨年10月に保存・復原工事を終え完成。9月20日には八重洲口側に「グランルーフ」が完成。「グランルーフ」の大屋根は長さ約230m、高さ最大27mです。

写真:東京駅丸の内
 辰野金吾に話を戻します。1914年(大正3年)に完成した東京駅は、1945年(昭和20)、第2次世界大戦で損傷・焼失。その東京駅丸の内駅舎の南北ドームと屋根・内装部分は、辰野金吾が設計した創建当時の姿を忠実に再現し、保存・復原しています。八角形のドーム、本当に素晴らしいですね。人々が沢山、見学しています。さらに、その八角形のドームの天井には東西南北を除く、8つの方角を示す干支(動物)のレリーフが飾られています。そして何故か居ない東西南北の4つの干支(動物)?謎です?その辰野金吾の遊び心?が今、明らかになり始めています。

写真:辰野金吾が設計した武雄温泉の楼門(写真提供:武雄市観光課)
 辰野金吾は佐賀県の出身。東京駅完成の翌年、地元・佐賀県の武雄温泉にある楼門を彼は完成させています。何と、その楼門の2階天井に東西南北に当たる干支(子・卯・午・酉)が杉板に彫られ、はめ込まれていた!!ということがこの度、分かった(らしい)のです。詳しいことは現在調査中で教えていただけなかったのですが、この話、辰野金吾が意図的に仕掛けたのであれば(恐らく、そうであろう)大人の遊び心、カッコいいですね。私には感動話です。たまたま、完成時期が近かったことも勿論、仕掛けやすかったのでしょうが、出身地の建造物と東京駅という大プロジェクトを結びつける郷土愛!(今の所、文献や伝聞として、この仕掛けをしたことを残していないようなので)後世の人々が、いつか気が付くであろうことを、秘かに楽しんでおられたのかもしれません。天国で「やっと、気が付いたか、お前たち」と微笑んでおられるかも…。建築物そのものの素晴らしさもさることながら、偉人の郷土愛に満ちた大人の遊び心、本当に素敵です。佐賀県の武雄温泉に行き、楼門(国重要文化財指定)を見て、確かめたい!現在、楼門は修復中ですが、11月末完成を予定しています。

 現在と過去、一人の建築家を通じて東京と佐賀、繋がっているのですね。地元の歴史や文化を知ることは、紐解いて行くと、その時間軸や距離を越えて、どこかと、誰かに、何かに、必ず繋がっているのかもしれません。

アクセス

  • 京都文化博物館 京都市営地下鉄烏丸線「烏丸御池」下車 徒歩3分
  • 佐賀県武雄温泉 JR長崎本線 佐世保線「武雄温泉」下車 徒歩10分
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。