風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
秋の夜長に楽しむ「芸術」は? 映画・読書・音楽ゆかりの京都を巡る(2013年11月1日)

 芸術の秋、食欲の秋、スポーツの秋、旅する秋ですね。外出するにも陽気が良く、また夜長には映画鑑賞や読書もいいものです。この秋、お薦めは東京上野にあります東京国立博物館で開催中の「特別展 京都 洛中洛外図と障壁画の美」です。この展覧会は全国巡回がなく、東京のみ。「京都」と銘打っているのにも関わらず、京都でも開催しないという「特別」な内容になっております。

 室町時代から江戸時代までの京都を描いた風俗画「洛中洛外図屏風」の国宝・重文合わせた全7件を始め、明治の廃仏毀釈で龍安寺からアメリカに流失した襖絵が初めて里帰りするなど、見どころ満載。是非、上野へお出かけください。12月1日まで。という事で「芸術の秋」。皆様が一番身近に触れる芸術って何でしょうか?映画ですか、読書ですか、音楽でしょうか…という訳で今回は「芸術」をテーマに京都を巡ってみましょう。

東映京都撮影所が久しぶりに活気づいた! いいぞ!頑張れ!時代劇

公園の中にひっそりと建つ、尾上松之助「目玉のまっちゃん」胸像
 12月7日に全国ロードショーとなる「利休にたずねよ」(田中光敏監督・主演市川海老蔵)が今から楽しみです。映画の内容もさることながら、何だか、とても嬉しくて、胸熱くしています。その理由は、この映画、東映京都撮影所が5年ぶりに自社企画で製作された作品だからです。“日本のハリウッド”と呼ばれる太秦が久々に「時代劇」撮影現場となりました。

 私は撮影に立ち合った訳ではありませんが、久しぶりの“ザ・東映・時代劇”的な熱気、空気感をスクリーンから感じられるであろうと…しかも、モントリオール世界映画祭で、芸術貢献賞を受賞。封切が楽しみです。そんな、映画の本場、京都ですが、以前、「日本映画の父」として牧野省三を紹介しました。その牧野が育てた映画俳優の中で、「目玉のまっちゃん」と呼ばれ愛された尾上松之助、大スターですね。「目玉のまっちゃん」が生涯出演した作品は約1000本とも言われています。京都の京阪電鉄・出町柳駅を下車し、高野川と賀茂川が合流するVの字の広場(鴨川公園の一部)に、尾上松之助の胸像があります。


二条城撮影所跡 現在は中京中学校。校庭の端にひっそりと建つ映画ゆかりの碑
 胸像の真後ろに立って、何を見ておられるのかな?と想像を膨らませました。「太秦の方ではない。御所の方かな…いやいや、きっと、御所の先、二条城撮影所だ!」と勝手に思い込み、感動する私。そうなのです、二条城撮影所(現在は碑のみ)こそ、牧野省三と尾上松之助がコンビで初の作品「忠臣蔵」を撮影した場所なのです。

 二条城の西南角に1910年(明治43年)、300坪、板敷の舞台、日本で初めての撮影所がここに置かれました。それから太秦を中心に次々と撮影所が誕生、映画都市として京都は歩んできました。その歴史を想うと今回の東映京都撮影所が企画製作した「利休にたずねよ」まで、脈々と続く“京都映画人の誇り”を尊く思います。時代劇大好きな私の余生の楽しみの一つは「一日中、時代劇チャンネル」を見て過ごす、これに尽きます。頑張れ、時代劇。

大の読書家・徳川家康のあまり知られていない出版事業の功績

圓光寺入り口 紅葉の名所で秋は沢山の人が訪れる
 先日、電車に乗っている時、本や雑誌を読んでいる人が少ないことに気付き、この車両、読書0人というシーンに居合わせました。車両ほぼ席は埋まっている程度の乗車率で、立っている人は一人、二人という、まあ見渡せる一車両での出来事に過ぎませんが。もしかしたらスマートフォンやタブレットで電子読書をなさっているのかもしれません。それでも数年前に比べると激少していることは明らかです。

 ご存じかもしれませんが、徳川家康は大の読書家でした。12年間、今川家の人質だった時に沢山の書物を読んだと言われています。その読書好きは、文庫を開設する、さらには晩年に印刷、出版事業も手掛けるまでに至ります。京都の洛北・修学院離宮の近くに「圓光寺」という臨済宗のお寺があります。


圓光寺の敷地の高台、見晴らしが良い場所に建つ東照宮
 紅葉の名所、そして家康を祀った東照宮も境内の高台にあります。

圓光寺にある木活字。カタカナもあり。これで印刷された書物が「伏見版」と呼ばれます。
 圓光寺は初め、家康が伏見に建てた学校で、そこで木活字を造らせ、書物を刊行。その伏見・圓光寺で刷られた書物は「伏見版」と言われ現在も残っています。圓光寺には、その印刷に使用した木活字が宝物館に展示されており、拝観者も見学することができます。

東京・文京区にある「印刷博物館」銅活字や「駿河版」書物、「伏見版」書物が展示されています。写真提供:印刷博物館
(圓光寺は伏見から相国寺を経て現地へ移転)さらに、この後、家康のお膝下、駿河では銅活字が造られます。こちらで印刷された書物は「駿河版」。これらは、東京・文京区にある「印刷博物館」で拝見することが出来ます。天下は治まり、戦いのない、穏やかで長く続いた江戸時代は学問が成熟する時代でもありました。書物を印刷して広めるという出版事業。家康の残した偉大な功績の一つです。書物へ情熱を注いだ家康の現在の“活字離れ”を嘆く声が聞こえてきそうです。読書の秋、家康を見習って、読書の時間を増やそうかな…
音楽の神様、いつもありがとう!今日も喉は絶好調?!歌います♪♪

伏見稲荷大社・千本鳥居「お山めぐり」は1周1時間半~2時間程度
 音楽は“鑑賞する、歌う、演奏する”など幅広い楽しみ方がありますね。通勤通学時、ヘッドホンで音楽を聞いている人も沢山います。私はもっぱら部屋で鑑賞派です。仕事柄、原稿を書いたり調べ事をしていると、行き詰ったり、気分がノラない時があります。その時は一旦、仕事の手を止め音楽鑑賞。気分がリラックス&リセットされ、とても音楽に救われています。

 時々、講演会で講師を務めるのですが、人前で長く話すので、出掛ける直前に、緊張を解く&発声練習を兼ね、1曲大声で歌います。私はまだしも、声を商売にしている歌手や役者、アナウンサーなどは喉を一番ケアしていることでしょう。京都には喉の病気平癒の神、声の神様がおられます。一つは伏見稲荷大社の背後の稲荷山中の「おせき社」。千本鳥居を潜りながらの「お山めぐり」。


北野天満宮 この本殿の裏や周辺には51もの摂社・末社がある
 その山中におせき大神を祀った「おせき社」があります。喉の神様です。奉納したのぼりなどに歌舞伎役者さんたちの名前を見つけることができます。また北野天満宮の摂社・末社の中の「桜葉社」。本殿の裏手に建っています。

出町柳にある妙音弁財天 京洛七福神や京都七福神の弁財天にもなっている(都七福神の弁財天は六波羅蜜寺)
 平安時代の声楽家・伊予親王が祀られ、音楽、声優、謡曲上達、声のご利益があります。あとは、弁天様が音楽の神ということは、よく知られていますね。全国、皆様のお住まいのお近くにも弁財天(弁才天)・弁天堂があることでしょう。京都にもいくつか弁天様がおられます。鴨川の近く出町柳の「妙音弁財天」、京都御苑の中に「白雲神社」、伏見の「長建寺」などなど。いつも救ってくれる音楽の神様には感謝しています。

 さて、今回は「芸術」の秋。コラムを書き終えたことだし、1曲かけて歌おうっと…♪♪♪♪

 

アクセス

  • 尾上松之助胸像 京阪電鉄「出町柳駅」下車、河合橋を渡り、北側すぐ鴨川公園内
  • 二条城撮影所跡 地下鉄東西線「二条駅」下車、御池通を東へ二条城方面 徒歩5分
  • 圓光寺 市バスまたは京都バス「一乗寺下がり松」バス停下車 西へ徒歩15分
  • 印刷博物館 東京メトロ有楽町線「江戸川橋駅」下車4番出口を右へ 徒歩8分
  • 伏見稲荷大社 JR奈良線「稲荷駅」または 京阪電鉄「伏見稲荷駅」下車 徒歩すぐ参道
  • 北野天満宮 市バス「北野天満宮」下車 徒歩すぐ
  • 妙音弁財天 市バス「河原町今出川」下車 または 京阪電鉄「出町柳」下車徒歩3~5分
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。