風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都  こんな古都  京都物語」
一足お先か?!リアルタイムか?!祝・「和食」が世界無形遺産に登録(2013年12月1日)


某・京料理店の「豆腐と万願寺とうがらしのおばんざい」
 そろそろ決まるでしょう…皆様がこれをお読みになられる頃、恐らく「和食 日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録となるかと思います。

 これまでの無形文化財遺産登録の中で“食”に関する遺産は、世界でたった4件。「フランスの美食術」「地中海料理」「メキシコの伝統料理」「トルコのケシケキ(麦がゆ)の伝統」以上の4件です。今回「和食」が仲間入り、嬉しいですね。特に「日本人の伝統的な食文化」という日本の食文化が認められるということは誇らしいこと。我々にとっても、「和食」を見直す、いい機会です。

 少なくとも私には、反省も含め、考えさせられます。一緒に暮らしていた祖母が他界してから、季節の節目の行事食を怠っている我が家の食卓。“この日には、これを食べる”お決まりルールが守られていた祖母との暮らし。今となっては「懐かしい思い出」となり、継続伝承しておらず、という有様。これでは、いけませんね。身近な「食文化」を守り続けたいものです。

京料理は和食の代表でもあるゆえ、登録を後押しする京都料理界

「京の食文化ミュージアム・あじわい館」外観

あじわい館での「おばんざい試食」(実施されていない場合もあります)
 京都はこの「和食」の登録に向けて、近年、様々な活動をしています。京都の料理人らでつくるNPO法人・日本料理アカデミーという団体が「和食に関する」講演会やフォーラムなどを国内外で開催し、また世界の料理人が来日し、京都の老舗料理店で「旨み」「出汁の取り方」などを学ぶなどの指導にも尽力してきました。また今年3月には京都府教育委員会が「京料理・会席料理」を京都府無形文化財に指定するなど、「和食」への関心の高まりを推進しています。京都では“京料理は「和食の代表」”という熱い思いが気持ちを一つにしているのかもしれません。これらがユネスコの登録を後押しと言っても良いかもしれません。

 また京都卸売市場に隣接する建物には食の施設として「京の食文化ミュージアム・あじわい館」が昨年、開設されました。季節の食卓の展示やおばんざいの試食、料理教室などで、食文化の発信、食育にも取り組んでいます。

 「京料理が和食の代表」か、否かは、さておき、「和食」が登録されるにあたり、全国各地の郷土料理、行事食を改めて、意識して、食す、料理法を伝承する、ということは大切で、京都に限ったことではないでしょう。全国を旅するときも、やはり、地元の食材、郷土料理は外せない楽しみ。食いしん坊の私にとっては、観光名所の見聞と同等に土地の食を味わうために“旅する”と言っても過言ではありません。

在住中に京都で私が、せっせと働いた、その訳は…ご褒美の京料理

ある日の老舗京料理のお昼メニュー。見た目も美しく美味

季節感、器、色彩、その演出で愛でて楽しむことも出来る京料理
 京都に遊学のため、住んでいた15年前、生活費および遊学費を稼ぐために、早朝からの新聞配達と開店前のスーパーの品出しのアルバイトを掛け持ちしていました。朝食と朝風呂の休憩はしますが、朝4時から午前中11時まで一気に働いてしまいます。「朝の早起き、辛くない?」「新聞配達、冬、大変そう…」とよく、同情されました。でも、私には毎日、ある企みがあったので、「辛い、シンドイ、辞めたい」とは一度も思わなかったのです。新聞配達をしながら、その企み事をいつも妄想していました。その企みとは数時間後に実現できる「豪華ランチ」のこと。アルバイトを2つ終えた11時半頃、心躍らせながら、京料理・京会席の老舗へ向かいます。そこでの昼のミニ会席、豪華弁当が、自分へのご褒美です。夜はなかなか、高くて、高級で伺えない老舗でも、お昼でしたら、何とか3000~6000円程度で頂けます。

 これが楽しみだったので、午前中のアルバイトの掛け持ちも、全く苦にならなかったのです。在住中に京都市内にある大半の有名老舗・料亭には行きました。早朝から稼いだ分、昼ご飯で全額?消えてしまいますが、私の中には、生涯、行った老舗の思い出が残ります。「美味しかった」だけでなく、店のしつらえ、部屋や庭の様子、カウンター越しに見える職人さんの動き、女将さんとの会話、従業員さんの気遣いなど。そして旬の食材、それを活かす器や色彩など、運ばれてくる一皿一皿、また弁当箱の場合は蓋を開けた時の感動など、それはそれは、素晴らしいひと時でした。

 若輩者の私にとって、そこには、学ぶべき事が沢山ありました。基本いつも一人だったので生意気で、無礼もあったと思います。会話がかみ合わず、己の無知を知ることも、しばしば。でも、その無知を知る事こそが遊学の原点。「次回、この店に来るときは、もっと心豊かな大人になっていよう」「説明がなくとも、店の意図、心配りを感じて組み取れる感性と知性のある人間を目指そう」とよく、そう思ったものです。あれから15年経過、さてさて、あの店に、胸を張って行けるかな?私…それも、まだ精進中…?!

毎年12月には「京料理」展示大会開催、見どころ沢山のイベント

老舗料亭の豪華な京料理の展示物

ステージで行われる生間流式包丁の実演

京野菜の展示やPRコーナーもある「京料理展示大会」

千本釈迦堂で行われる「大根焚く」

比叡山の山頂でいただいた精進料理
 毎年12月に京都では「京料理展示大会」が開催されます。なんと、この大会、今年で108回目を迎え、明治から続いている歴史ある催しです。「業界展だろう…」と思って、足が向かなかったのですが、ある時、行ってみたら、食通だけでなく、観光客から食いしん坊の方まで、充分楽しめる内容でした。なかなかお目にかかれない老舗料亭のご当主が、普通に会場を歩いていて、ミーハーですが感激しました。

 有名料亭の豪華な京料理の作品の展示、京野菜のコーナー、有職料理の儀式「生間流式包丁」の実演なども見られます。

 老舗弁当は飛ぶように売れ、出遅れると完売です。今回、「和食」がユネスコに登録決定後の開催?!となりそうなタイミングなので、この大会もなお一層、盛り上がることでしょう。また、集まった料理人の皆様も、和食の発展、世界に向けて発信する担い手としての使命感で思いも新た、素晴らしいことですね。

 私は毎月、京都に通っているので、老舗料亭さん、有名無名問わず、3食、美味しいものを探して、フラフラしています。一度、行って良かったお店は忘れません。いつも、とことん歩いて自分のリストでの新規店を探します。「これぞ見つけた!」という店は本音を言うとあまり教えたくない、仲良しの人にだけ口コミで…です。 また料理からは離れますが、京都では社寺でご利益のある「食」も振る舞われ、親しまれています。地元の人々だけでなく、近年は観光客も沢山、参拝とともに訪れます。地元の皆さんと「食」しながら、ご祈願するという信仰も非常にいいものです。

 12月なら「大根焚き」や「かぼちゃ供養(冬至)」があります。それから、お寺の精進料理もまた、おススメですね。

 京都での食事、これからも、益々、楽しみたいなと思います。そして日々の生活では、祖母からの行事のおきまりのメニューを忘れず意識して、きちんと、その日に食すよう、心掛けようと思います。12月は冬至のかぼちゃ、大晦日の年越しそば、年始のお雑煮、七草粥、小豆粥…

 それから、時々は行きますが、都内にある各アンテナショップの食品・郷土食を再度、意識してみようと思います。「この県は、そうだ、これが名物、名産、郷土料理だったな」と。それだけで「和食」へ思いが豊かになりそうですから。

 皆様も地元で食している何気ない料理を大切に家族で食べ続けてください。そして、旅人には積極的にPRして、薦めてください。ユネスコの登録を機に、日本人が和食パワーを再認識することが、世界に認めていただくことよりも、本当は一番大切なのかもしれませんね。

アクセス・問い合わせ 日程は2013年12月(2014年以降は日程要確認)

  • 「京の食文化ミュージアム・あじわい館」常設施設(休館日は要確認)
    JR山陰線(嵯峨野線)「丹波口」駅下車 徒歩3分
    ☎075-321-8680
  • 「京料理展示大会」12月13日・14日 会場:みやこめっせ
    地下鉄東西線「東山」駅下車、または市バス5・100番「京都会館美術館前」下車徒歩3分
    ☎075-221-5833
  • 千本釈迦堂(大報恩寺)大根焚き12月7日・8日
    市バス「上七軒」下車 徒歩5分
    ☎075-461-5973
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。