風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
~新しい街で新生活スタート 懐かしの京都生活~(2014年4月1日)

 お陰様で当コラム、今回で17回目を迎えます。沢山の「風土47」ファンの皆様にお読みいただき感謝しております。ありがとうございます。私の簡単なプロフィールやコラム文中で私の「京都LOVE」は届いている?!事と存じます。

 でも…「京都人ではない、塩原って何者?」と思われていることも否めない…4月になると京都生活を思い出すので今回は京都在住の経緯を語りたいと思います。それが直接、何故か?観光案内にもなりますゆえ。

「京都LOVE」を実現、京都移住物語
 「毎月、京都へ行っています」と話すと8割方「良いですね、ご実家京都で」と言われてしまいます。私は東京・板橋で生まれ育ち、田舎も帰省先もありません。どうも京都人と思い込まれているようです。

 「京都LOVEになったきっかけ」も度々聞かれます。それは高校生の歴史の先生との出会いです。先生はいつも歴史の時間、教科書を無視し、脱線話ばかりしていました。年号を覚えよとは言わず、歴史を作った人物たちの喜怒哀楽、出来事の伏線や思惑を、まるで現場に居合わせたかのように熱く語ってくれました。それが面白くて、興味は膨らむばかり。高校時代は部活と歴史の勉強しかせず、他の科目は赤点、追試と落ちこぼれでした。でも、歴史への興味が、今の私の原点。当時17歳ですね。

 大学は史学科に入りましたが、歴史好きな志をすっかり忘れ、バイトやスポーツばかりの勤遊学生でした。時より鎌倉にぶらりと行き、あるとき「いつか、京都に住みたいな…」と漠然と考えるようになりました。

 大学卒業後、契約社員&バイトを兼業し、「京都移住計画」を水面下でスタートさせました。この時期は朝から晩まで働きました。目標資金を貯め、2年後には実行するぞと決意。

 そして、ある年の4月、京都へ移住…と順調のようですが、今から10年以上前はインターネットや携帯が一般普及していない時代。大型書店に関西から住宅情報誌を取り寄せ、引越先を探しました。また部屋を借りる時も仕事もなく京都に親戚も知人もいない私を信用できるはずもなく…仕方なく親に1日だけ京都に同行してもらい、引越先を数時間で決めたという慌ただしさでした。

京都「遊学」生活の真実と忘れられない蝉の声

平野神社西門の近くで京都生活は始まった
 私が暮らしたのは、夜桜で有名な平野神社の隣、北野天満宮の裏です。

 歴史あるお社の傍らで、京都での新生活が一人で始まりました。2年間という期限付きの在住だったものの、夢の実現、憧れの京都への熱い思いで、“胸が躍る”というのは、こういう状態なのかと浮れていました。毎日が楽しくて面白くて仕方がありませんでした。寂しさなんて全くなかったです。たった一つ誤算だったのは、借りたマンションの場所。緑豊かであるがゆえ、夏は参りました…想定外の事態…それは夏になると早朝から夕方まで、平野神社のクマゼミが一斉に鳴きだすという騒音。夏は窓を開けられませんでした。あの元気良すぎる鳴きっぷりは、凄まじかった…。でも、今となっては、クマゼミの声が懐かしく…。

 都の新生活のために、貯めた資金は2年分の家賃や新生活資金だけでしたから、生活費のために京都でも働きました。まず4時起床、朝刊の新聞配達のバイト、8時半からはスーパーの開店前の品出し。10時半に解放されると、毎日毎日、どこかの社寺やお祭り、食事などに夕方まで出掛けました。翌日の配達がない前夜は先斗町あたりで呑み、文字通りの「遊学」。もし、9時~5時の週5日などの仕事をしてしまったら、どこへも行けません。それでは京都に住んだ意味がなくなり、目的が果たせません。その生活がベストだったと今も思います。

 「新聞配達、つらくなかったか?」と思われるかもしれませんが、確かに体力は必要。でも昼間の時間を確保するには有効でした。そして、配達の途中、某マンションの踊り場から見る京都の朝景色は春夏秋冬、それは、それは、美しいものでした。比叡山から朝陽が昇り、季節の移ろいと…時間の経過と…街が色を変えて行きました。生涯、あの踊り場で見たシーンは忘れることはないでしょう。

東山や嵐山に負けてないぞ!西陣散策
 私の借り住まいは金閣寺を含む衣笠エリアにあたりますが、散歩圏内の北野~西陣エリアが観光にもお薦めです。平野神社~北野天満宮~千本釈迦堂~千本閻魔堂~釘抜き地蔵と社寺も点在しています。


桜の名所「平野神社」、春は毎日が花見、夏はクマゼミの大合唱
 まず平野神社は50種類以上の桜が咲く「桜専門植物園」と思ってください。早咲きから遅咲きまでとロングランで桜リレーが楽しめます。花見目的で京都へ行ったが開花のタイミングが合わなかった、そんな時は平野神社を思い出してください、何かの種類の桜が咲いているに違いありません。

境内に咲く梅の香が風に乗って近隣まで漂う
 そして学問の神・菅原道真の北野天満宮。梅が咲くころは、境内から道路まで梅の香が風に乗って漂っていました。朝刊の配達担当がこのエリアだったため、この梅の香で、寒くて配達が大変だった冬がもうすぐ終わる…と春の到来の喜びを感じたものでした。

 12月の「大根焚き」とお亀桜が有名になってきた「千本釈迦堂」(大報恩寺)も、天満宮から直ぐです。皆さん、ここで大きな声で言いたいことがあります。有料(500円)ですが、是非、当寺の宝物館に立ち寄って下さい。素晴らしい仏像がズラリと揃っています。高名な仏師の作のほか、梅の木で菅原道真が彫ったとされる観音様もおられます。それから千本通沿いには閻魔大王様が鎮座する千本閻魔堂が、そして、道を挟んで、苦を抜いてくださる釘抜き地蔵の石像寺があります。このコースで充分一日楽しい充実した散策できます。

ご近所グルメと西陣土産

庭を愛でながら軽食、喫茶が出来、運がよければ舞妓さんに会える?!
 お食事処やお土産も勿論、エリア内に沢山あります。上七軒の通りは事欠かないでしょう。

 まず北野天満宮の隣、上七軒歌舞練場があり、春には芸舞妓の舞踊「北野をどり」が華やかに開催されます。知る人ぞ知る?歌舞練場には軽食、喫茶ができる「茶ろん」があります。(Coffee400円など)「北野をどり」とビアガーデンなどの時期はお休みですが、お茶している、芸舞妓さんに運が良ければ会えます。

 夏のビアガーデンも非常に楽しいです。今でも時間があれば、ふらっと行きます。可愛い舞妓さんがテーブルに来て下さり「ねぇさん、一人、わ~素敵」と言ってくださり、しばし談笑。(スタートはビール&おつまみで1900円~)


夏みかんをくり抜いた果汁たっぷり、喉ごし爽やか美味
 それから上七軒の通りの有職菓子御調達所・老松にも是非。夏の「夏柑糖」(1470円程度)が有名ですが、高級ゆえ、自分ではなかなか手が出ませんが、自信を持って贈答できる逸品、納得の美味です。夏みかんと寒天でつくられた涼菓子なので夏限定商品です。

店内は勿論、テイクアウトもでき、お花見にもおススメ
 平野神社の西の鳥居、西大路通を挟んで直ぐ「クリケット」という昭和を感じるフルーツパーラー。ここの「フルーツサンド」(950円)も大好きです。在住中に遊びに来てくれた友人らの朝食やおやつに何時も用意していました。10年以上経過した今でも友人たちの間では「あのフルーツサンド、また食べたい」と言ってくれます。それから千本通の京のお漬物処・近為「お茶漬け席」(2100円~)も友人らには忘れ難い味だったようで、思い出話には必ず登場します。

お座敷でいただける優しい親子丼、スープも絶品
 最後に、京都市考古資料館裏の鳥岩楼の名代「親子丼」も良いですね。今でも時々、その味が恋しくなり行きます。親子丼(800円)に付く「スープ」に心がジーン(美味しさの感激の擬音)としてしまいます。

 忘れてはならないのがお土産。西陣土産のお薦めは、京菓子司「かま八」のどらやき「月心」(180円)や西陣の味「五辻の昆布」。特に「五辻の昆布」の佃煮昆布(350円~)はパッケージに京都名所のイラストがデザインされているので素敵で喜ばれます。両店とも物産展や百貨店にも出ておらず、希少価値が非常に高いです。

 あら、冒頭は京都生活だったのに、最後は近所のグルメレポートになってしまいました…お許しを。京都から離れ、東京に戻って、もう10年以上経過。でも、私の「京都LOVE」は一途に深まるばかり。毎月、恋人に会うかの如く京都へ出掛けていますが、何度行っても新鮮で、いつも発見や感動、そして謎(宿題)が与えられ、それが癖になり、また「行かずにはいられない」という繰り返し。「会いたい」「あなたをもっと知りたい」という恋心に似ていますね。

 …という京都に恋する私に対して、今度は「定宿はどこ?」「食事のお薦めは?」「いつも行く場所ありますか?」と話は尽きぬ…毎月京都お楽しみ編は、またの機会に。

【紹介した店】

  • クリケット ☎:075-461-3000
  • 近為    ☎:075-461-4072
  • 茶ろん   ☎:075-461-0148
  • 鳥岩楼   ☎:075-441-4004
  • 老松    ☎:075-463-3050
  • 五辻の昆布 ☎:075-431-0719
  • かま八   ☎:075-441-1061
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。