風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
~新茶の季節 宇治へ!静岡へ!茶摘みに行こう~(2014年5月1日)


JR宇治駅近くで見つけた茶壺の郵便ポスト。地元の人には単なる郵便ポストかもしれませんが、旅人には、この演出も可愛いいお出迎えです。
「♪夏も近づく八十八夜♪」ですね。今年は5月2日が八十八夜です。

 毎月、京都に行っている私が未経験で「京都に行ったらやりたい事」(雑誌の特集見出しのような文言ですが)の一つに「茶摘み体験」があります。丁度、皆様が当コラムを読んでおられる頃、私は宇治でお茶摘み体験をしているはず。そしてイベント会場で“ちゃちゃ王国のおうじちゃま”という宇治商工会議所公認のゆるキャラと記念撮影をして童心に帰ってはしゃいでいることと思います。機会があれば、その土産話もまた紹介しますね。

一番身近にある煎茶、現代の茶事情と旅のお茶シーン

「お茶」は毎日、私を「ほっこり」させてくれる。

最高級茶筒「開化堂」の茶筒、まだ新品ですが使えば使うほど筒の色合いも良くなります。お薦めの京の逸品。

お馴染みの「伊右衛門」や「綾鷹」は京都の茶舗とのコラボ商品。ティーパックは某京都のホテルに泊まった時に用意されていた備品。京都のホテルなら用意されたお茶も京都の茶舗のものが嬉しい。
 今回は「茶の湯、茶道」の茶ではなく、急須で煎れる煎茶のお話しをしたいと思います。抹茶を点てる茶道をなさっている方以外は、急須で煎れた煎茶の方が日々、親しんでおられることと思います。私もコーヒーを飲まない日はあっても、お茶を飲まない日はないです。個人的な嗜好ですが、ほうじ茶や玄米茶も好きです。京都に行くとお抹茶を頂くこともしばしばあり「どうぞ、作法を気にせずに…」と言われても、やはり失礼があってはならぬと心してしまいます。茶道はやはり文化であり芸道であり、その緊張感も大切だと思っています。

 一方、煎茶は今やペットボトルでも気軽に飲めるようになりました。その種類も豊富ですよね。でも急須で煎れたお茶の「ほっこり」とした時間、ホッとする休息感はやはり、何とも言えません。また全国各地の旅館に到着すると仲居さんが、まず急須でお茶を入れてくださいますね。地元の銘菓が添えてあって。あの「もてなし」は是非とも続けていただきたい旅情のワンシーンです。佐賀県の嬉野温泉に行ったとき、仲居さんが煎れて下さった「嬉野茶」の美味しさは、15年以上経った今も覚えており、旅の思い出です。

 それから、まだ缶やペットボトルが普及していなかった私の幼き頃、駅弁と共に長旅のお供は、ポリ茶瓶のお茶でした。半透明の容器で蓋が湯呑となり、持ち手が細いワイヤーのような紐が付いている「ポリ茶瓶」。若い方は、この存在を知らないでしょうが、車窓に置かれた、あのお茶、旅の懐かしいヒトコマです。旅に出たら、その土地の食材やお酒、銘菓だけでなく「お茶」にも注目したいですね。

ズバリ、お茶を売る翁「売茶翁(ばいさおう)」が広めた急須の茶

売茶翁没後250年を記念して昨年建てられた碑。江戸時代、京都で文化人や僧を中心に煎茶を広めた。
 今回は急須で入れるお茶を世に広めた人物の一人「売茶翁」について少しお話を。

 売茶翁は肥前生まれ、江戸中期の黄檗宗の僧で月海元昭と言います。肥前の寺で得度しますが、その後13歳の頃には宇治の万福寺へ。20代の頃の病気を機に江戸や全国へ修行の旅に出ます。50代半ばから、京都を舞台に煎茶人として活躍します。この時に僧・月海から高遊外売茶翁と改名します。茶亭を構え、また茶具を収めた茶籠を担いで歩き、急須によるお茶を広めたと言われます。行く先々でお茶が出せる移動式、喫茶店とでも言うのでしょうか。ただ、売茶翁は、茶の精神回帰、社会批判など、思想家的な一面もあり、煎茶普及を行いながら、当時の社会に訴えていたようです。売茶翁が使用した茶道具やその交友関係を見ても、庶民への純粋なる普及というよりも、文化人を相手にしていたことが裏付け出来ます。…とは言え、煎茶の普及は売茶翁なくしては広まらなかったゆえ、「煎茶道中興の祖」とも、いやいや「文人煎茶」「煎茶道の始祖」とも言われています。京都・賀茂川沿いの畔に売茶翁の記念碑が没後250年を機に、昨年建てられました。京都府立植物園近く「半木(なからぎ)の道」と呼ばれるシダレ桜並木の南端脇に、その碑はあります。

毎年恒例の宇治新茶「八十八夜茶摘みの集い」に行こう!

5月2日「八十八夜茶摘みの集い」では「美味しいお茶の淹れ方教室」も行われる。
写真提供:(公社)京都府茶業会議所
 今年5月2日金曜日、10時~15時まで、第1会場「宇治茶会館」第2会場「京都府農林水産技術センター茶業研究所」にて「八十八夜茶摘みの集い」が開催されます。土地勘のない方は、その会場、どこ?と言いたくなりますが、イベント当日はJR宇治駅・京阪宇治駅から無料シャトルバスが往復運行しますので、そちらをご利用ください。イベント内容は茶摘み体験、手もみ体験、お茶の淹れ方教室など。冒頭でお伝えしたように、私も今年は参加予定です。楽しみです。お天気だといいな。

5月2日宇治で行われる「八十八夜茶摘みの集い」自然仕立ての玉露茶園で茶摘み体験をする参加者
写真提供:(公社)京都府茶業会議所
 そして、地元では話題注目されているのが、世界遺産へのリスト入り。京都府は「日本茶のふるさと「宇治茶生産の景観」」として世界遺産登録を目指し、5月にも文化庁へ提案書を提出する模様。この国内暫定リスト入りを目指し、地元関係者たちを中心に盛り上がっているという宇治です。
生産量日本一、日本一の茶どころ、「静岡県」の新茶イベント

静岡県牧之原市の美しい茶畑。
写真提供:公益社団法人静岡県観光協会

茶摘み体験では茶摘み娘の貸衣装を着て。
写真提供:公益社団法人静岡県観光協会
 さて、今度は意外な?京都と静岡のゆかりを一つ。京都の紅葉名所として知られる東福寺。行かれた方も多いと思います。鎌倉時代に創建された禅寺です。この東福寺の開山が聖一国師(しょういちこくし)という僧侶。静岡出身の聖一国師が現・静岡県足久保にお茶の種を蒔いたことから、静岡の茶の栽培が始まりました。それゆえ、聖一国師は「静岡茶の始祖」と呼ばれています。

 そして生産量日本一を誇る静岡でも茶摘み体験が出来ます。「グリンピア牧之原」では5月~10月上旬まで、「香の丘茶ビア」では今年は4月26日~5月6日まで行われております。

 そして静岡の新茶のPRイベントが3都市で行われます。日程、場所は以下の通り。お近くの方は是非。各地の新茶も味わいたい、そして冷茶も美味しい季節となりました。宇治、静岡、八女、狭山、嬉野、大和などなど、各地の茶を旅するのも良いですね。



  • 東 京 5月3日(土・祝)〜9日(金) 東京交通会館「静岡県東京観光案内所」
  • 名古屋 5月12日(月)〜16日(金) 中日ビル4階「静岡県名古屋観光案内所」
  • 大 阪 5月13日(火)10時〜17時、14日(水)10時〜16時 「静岡県大阪観光案内所 備後町コイズミビル 駐車場」

【問い合わせ先】

  • 宇治新茶「八十八夜茶摘みの集い」京都府茶業会議所 ☎:0774-23-7713
  • グリンピア牧之原 ☎:0548-27-2995
  • 香の丘茶ビア ☎:0538-44-1900
  • 静岡新茶イベントは会場ごと 各静岡県観光案内所へ問い合わせ
  • 東京会場 ☎:03-3213-4831
  • 名古屋会場 ☎:052-262-7471
  • 大阪会場 ☎:06-6251-0357
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。「京都観光おもてなし大使」