風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
「出雲ぜんざい、一休善哉」いずれが「ぜんざい」発祥?!(2014年10月1日)
 
 数か月前、高円宮家の次女典子さまと出雲大社の禰宜・千家国麿さんがご結婚!と宮内庁が発表したニュース、記憶に新しいところです。その結婚式が10月5日、出雲大社で執り行われます。おめでとうございます。縁結びの神として全国に知られる出雲大社ですが、平成28年3月まで「平成の大遷宮」が執り行わられており、さらに今回の件で「良縁」を願う人々が沢山、ご参詣していることでしょう。

 …ということで今回は島根県出雲と京都の意外な「へえ~」をご紹介します。

カレンダーの10月、旧暦表記「神無月」、出雲地方は「神在月」

縁結びで知られる「出雲大社」
 皆様、お部屋のカレンダーやお持ちの手帳など「10月、October、神無月」と記載されていませんか?ご存じの方も多いと思いますが、旧暦表記の「神無月」ですが、出雲地方では「神在月」となるとのこと。これは、旧暦の10月に全国の八百万の神々が出雲に集まり、お酒造りや縁結びに関して会議が行われていたため、神が留守で不在のため、「神無月」と伝承されています。逆に出雲大社には神々が集いますから神が在る、ということです。

 現在も旧暦の10月11日~17日の7日間、出雲大社では「神在祭」(かみありさい)と呼ばれる神事が執り行われます。神々をお迎えして、お発ちになるまで7日間、縁結び会議を中心とした様々な神事が営まれます。(今年は12月1日~8日が旧暦の10月11日~17日に該当)

「神在祭」で振る舞われる「神在餅」が「ぜんざい」の発祥?!

出雲大社の表参道にある「日本ぜんざい学会一号店」
 この「神在祭」で振る舞われたのが「神在餅」(じんざいもち)という餅。この「神在・じんざい」が、出雲弁(ズーズー弁)で訛って「ずんざい」に、そして「ぜんざい」になったと言われ、我々にも親しみのある“ぜんざい”は出雲が発祥で、後に京都に伝わったという説があります。これは江戸時代の文献にも残っており、出雲が「ぜんざい発祥の地」という裏付けにもなります。

 出雲大社の表参道「神門通り」には「日本ぜんざい学会壱号店」があり、そこで美味しい「出雲ぜんざい」が頂けます。


日本ぜんざい学会一号店の「出雲ぜんざい」500縁(円)
 大粒の大納言小豆使用、紅白の白玉団子入りの「出雲ぜんざい」は一椀500縁(円)です。また日本ぜんざい学会は観光協会と協力して10月31日を「出雲ぜんざいの日」に制定。B1グランプリに出場するなど、地元を挙げて「出雲ぜんざい」をアピールしています。今後も「出雲ぜんざい」に注目です。

 (因みに「1031」が語呂合わせで、「せんさい、ぜんざい」ということで、この日にしたとのこと)

あの名僧・一休さんが「善哉」と名付けたことに始まる!?

京田辺市にある「酬恩庵一休寺」

一休寺で頂ける「一休善哉」
 一方、京都。まず市内から南へ京田辺市にある「酬恩庵一休寺(しゅうおんあんいっきゅうじ)」という臨済宗の寺院があります。室町時代に活躍した、あの一休禅師が晩年の25年間、過ごされたお寺で、現在は紅葉の名所としても知られます。

 皆様は1970~80年代にかけて放送されたテレビアニメ「一休さん」が懐かしいところでしょうか。あの「慌てない、慌てない、一休み一休み」という台詞、橋や虎などの頓智勝負のお話などを思い出します。私は未だに「慌てない、慌てない、一休み、一休み」と心の中でつぶやくことが時々あります。心を鎮める、気持ちを落ち着かせる、一旦休止、そうすることで物事が改善したり、失敗を避けられたり、何か閃いたり、という事がある、それは、やはり禅の世界に通じているのではいか…と。アニメのお決まりの台詞とは言え、私を幾度も救ってくれました。

 一休禅師については、アニメの後、ドラマ化もされ、史実とは異なることも多いのですが今回は言及しません。話を「ぜんざい」に戻しますと、名付け親がこの一休さんという説。

 一休禅師が大徳寺の住職にお餅が入った小豆汁をご馳走になった時、あまりの美味しさに「善哉此汁」(よきかなこのしる)とお褒めになられた、このことから、この汁を「善哉」と名付けたと言われています。もともと「善哉」は仏教用語で、師が弟子を褒めるときに「善き哉」と言うそうですが、この時は「汁」をお褒めになられた、という訳です。

 それに因んで「酬恩庵一休寺」では毎年1月最終日曜日を一善一年“善き哉善き哉”「一休善哉の日」と題した行事を催しています。参拝者は一年の自分の目標を新たに掲げ、誓いの言葉を奉納し、一椀の「善哉」を頂くという流れ。沢山の老若男女が、この日、寺を訪れます。奉納料1000円(拝観料・絵馬・祈祷料・善哉)

国民的スイーツ「ぜんざい」、どちらも旅先で
 島根県出雲、京都府京田辺、“なるほど”いずれも「ぜんざいの発祥」ですね。旅先で、こうした「○○発祥地」を時々目にすることもあり、また2つ3つの地域が、我が地こそ発祥地!とVSになっていることもあります。私は、そういう民間伝承、文献、信仰など、それぞれの言い分から生まれる“なるほど事”も名所、名物だと思っています。誤った知識はNGですが、どちらが正しいか?という説に出会うと、一体、誰が最終的に判断を下し、どちらかに軍配をあげるのだろうか?といつも疑問です。専門学者でしょうか? 論文を出す学者は別として、旅人の私としては「どちらも正解、いずれも楽しむ」ことで旅を豊かにしています。

 私が情報発信の本拠地としている京都は様々な説だらけ。その悩ましい所、曖昧さも、また魅力で、学べば学ぶほど、多方面化され、私の中では「わ~どれが本当なんだよぅ~」と楽しくパニックしていきます。よく立場上「どちらが正しいですか?」と聞かれたりしますが「どちらも正解、どちらだと(あなたは)思いたいですか?」と聞き返したりします。幾つかの説を知った上で応援したい方でいいはず。正解は、その人の中にあるのだと思います。

 今回は「ぜんざい」発祥の地の紹介でしたが、また、各地に説がある発祥地の面白いお話を探しておきますね。


日本ぜんざい学会一号店 電話0853-53-6031 http://www.zenzai-01.com/
酬恩庵一休寺 電話0774-62-0193 http://www.ikkyuji.org/index.html
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。「京都観光おもてなし大使」