風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
勝海舟さん、どちらを指しておられるや?!未来の日本、舵取りは…(2015年7月1日)
 

勝海舟(勝安芳)像は平成15年(2009年)生誕180年を記念して有志により東京・墨田区役所前に建てられた。迷いなく、指を指す凛々しいお姿。なかなかカッコイイ
 京都の銅像は当コラム(第16回)でもご紹介し訪ね歩いているのだが、東京となると「あれ?誰?」となる。先日、吾妻橋を浅草側(台東区)からスカイツリー方面(墨田区)へ渡る時、左斜め前方に銅像を発見!「ちょっと誰か、確認してきて良い?」と友人に聞くや否や早歩き。「おお~やっぱり、勝さん」と別に友達でもないのに、久しぶりの再会感。京都を勉強していると、先人たちの生き様を学び知り、縁の場所や品を見聞しているため、銅像や肖像画を初見する時、初対面ではない気がしてしまう。勝さんの銅像前でも周囲を気にせず、写真を前・横・裏・看板とグルリ撮影。傍から見ると、私は間違いなく「変な人」。

 さて…「勝海舟の縁、京都にもあったよね?」と自問自答。「あるある!地味だけど…」ということで。今回は、隅田川沿いに佇む、勝海舟の銅像発見をきっかけに、江戸のスポットから、逆に京都を再見してみることに。

東京・墨田区に点在する海舟さんスポットへ行ってみよう!
 

地元の子供たちが遊ぶ公園の片隅にある「勝海舟生誕之地」の石碑と解説版。父・小吉の実家である男谷家があったこの場所で海舟は産まれた


能勢妙見山別院は大阪にある能勢妙見山の唯一の東京別院。住宅地にポツンとある小さな寺だが、境内の空気はココだけ違って清らか。静かにひっそりと勝海舟の胸像がある
 冒頭写真の勝海舟の銅像は墨田区役所前にある。そう墨田区のお生まれだ。両国4丁目の公園には「生誕の地」、緑4丁目には「旧居跡」、そして本所4丁目の「能勢妙見山別院」境内には胸像がある。この胸像は晩年のお姿で渋くて素敵。“海舟の偉徳を長く後世に伝えるため地元の有志が昭和49年に建立”と説明書きがある。この寺は、海舟の父・小吉が信心し、海舟が9歳の時に大怪我をした際(病犬に急所を噛まれたとも)妙見さまのお力によって、九死に一生を得たとの話が伝わる。父に連れられ、手を合わせる幼き頃の海舟。想像すると何だかジーンとする。
江戸開城、江戸庶民を救った功績を称えて
 

三田駅・田町駅近く、田町第一ビルの片隅にある「江戸開城 西郷南洲 勝海舟 会見之地」。解説文は雨の浸食で読めないが、会見のシーンを描いたレリーフから2人の様子をうかがい知ることができる

JR田町駅構内2階、エスカレーター脇の美しい壁画「会見の図」には西郷・勝の二人の姿と咸臨丸が描かれている。JR東日本さんも粋なことをします、素晴らしい
 海舟の活躍はご存じの通り西郷隆盛との会談で江戸城を無血開城に成功した功績が一番有名。その縁の場所にも行ってみた。都営三田駅、JR田町駅より直ぐ、第一田町ビルの片隅に「江戸開城 西郷南洲 勝海舟 会見之地」と刻まれた大きな丸い石碑がある。ここは海に面した薩摩藩の江戸蔵屋敷があった場所。この場所で西郷と会談し、あの江戸城の無血開城が決まったということだ。

 またJR田町駅構内には素敵な壁画「会見の図」がある。これはちょっと驚きの芸術品だ。二人の姿と咸臨丸が描かれている。通勤で行き交う人々に揉まれ、ジロジロと怪しまれながら、しばし鑑賞…感動!

京都に残る、知られざる海舟の面影
 

鴨川沿いにある浄土宗・常林寺。この寺を勝海舟は宿坊としていたと伝わる。初秋には境内が萩の花で埋め尽くされ美しい寺院だ

若王子から山道を登った同志社大学共同墓地にある「新島襄之墓」。墓石の字は勝海舟の筆によるもの
 一方、京都には海舟の「書」があちこちに残されているのが、これぞ勝海舟のザ・観光スポットというべき場所は少ない。恐らく幕府関連施設には足繁く、通っただろうし、諸藩との交流で藩邸に出向くこともあったであろう。龍馬と一緒に行動していた記録もある。「蛤御門の変」の戦況の様子を見に行って危ない目に遭ったという話もある。

 まず京都で紹介したいのは「常林寺」。賀茂川と高野川が合流する出町柳の近くにある浄土宗の寺院。観光社寺ではないが、知る人ぞ知る「萩の寺」。ここに勝海舟が宿坊していたことは、あまり知られていない。二条城や各藩邸からも少し距離のある寺を宿舎としているのは海舟らしい。

 もう一つ。海舟と交流があったことを示す「新島襄の墓石」。桜の名所「哲学の道」から若王子の山道を登ると同志社共同墓地へ至る。囲いのある一際目立つ墓地の中央に新島襄は眠っている。この墓石に刻まれた「新島襄之墓」は、海舟による揮毫。昭和に墓石が壊れ直したらしいが、島という字、横一本足りないまま(海舟の勢い?誤り?のまま)にしてあるようだ。同志社大学に隣接する新島旧邸には勝の「六然の書」が残され、交流があったことが伺える。

 最後に告知を。毎年7月に「勝海舟の会」が主催する「勝海舟フォーラム」が墨田区役所2階(すみだリバーサイドホール)で開催されている。12回目を数える今年のテーマは「勝海舟と吉田松陰」。講演会は申込み不要なので、是非参加してみてはいかがでしょう。私も参加予定です。勝さんの経歴に因んで、海の日に毎年、開催しているのかな?

 詳細はhttp://katsukaisyu.com/event/report/detail/id=138

 勝さんの銅像、隅田川花火大会の特等席か?花火を毎年、楽しんでおられるのかな?迷いなく、どこを指さしておられるやら…今、安保法制で審議中。勝さんだったら、日本の舵取りをどう取られるのかな?

プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京生まれ、國學院大學卒業後、スポーツ新聞社を経て京都市へ転居。東京に戻り京都市の「京都館」勤務、2012年春退職。現在、首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザーとして活動中。BS朝日「京都1200年の旅」、「京都検定」講師。京都観光文化検定1級取得。「京都観光おもてなし大使」