風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
江戸時代の画家・伊藤若冲がくれるHAPPY(2016年2月1日)
 
東京で京都を体感「京あるき in 東京」開催

都内各所が会場となるイベント「京あるき in 東京」

京の台所「錦市場」の八百屋に生まれた伊藤若冲
 2月13日から1か月間、都内各所で京都のイベント「京あるき in 東京」が開催されます。

 東京に居ながらにして京都の歴史、景観、伝統工芸、観光などを体感できる企画満載です。私も期間中に講義をしたり、自分が学んだりと大忙し。そして我がコレクション「京都の絵馬」108枚を展示するなど、皆様に京都の魅力を伝える内容でお待ちしています。詳細は文末のHPから。

 そのイベントの幾つかの企画の「裏テーマ」になっているのが、2016年に生誕300年を迎える江戸時代、京都で活躍した画家・伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)です。大変人気のある画家なので、ファンも多く、皆様も作品を目にしたこともおありでしょう。今回は、その伊藤若冲のお話を少ししたいと思います。

八百屋の主人から40歳で画家へ転身
 

大津市にある義仲寺。住宅地にひっそりと建つ

義仲寺は松尾芭蕉ゆかりの寺としても名高い
 伊藤若冲は皆様も良くご存じの京の台所「錦市場」の八百屋の長男として京都で産まれました。当然、長男なので父亡き後、家督を継ぐのですが、あまり、いや、ご自身では商才がなく、興味もなかったようで、早々(40歳のとき)に弟に家督を譲り、画業に本腰をいれます。「ご自身では」と申し上げたのは、研究者の中には、錦市場の危機を救うため、あちこち奔走し、関東まで訴訟に行くなど、なかなか交渉力やリーダー力もあって、商売に本当に不向きだったか?は、断言できないと分析している方もおられるからです。

 でも、とにかく、本人は自分の好きなこと「絵を描くこと」以外には興味がなかったことは事実。商売人のたしなみの習い事や勉強はあまり得意ではなかったようで、また遊びや旅、そして女性にも興味なく、生涯独身でした。また京都からあまり外へ出ず、今でいう「引き籠り」で絵ばかり描いていた…年表を辿ると、そんな印象を受けます。

 若冲は85歳と長生きしました。亡くなった年にも作品を残しているので、病気でありながらも、絵を描く気力は最期まであったと読み取れます。

最後の作品となった天井画を見るべく大津へ
 

義仲寺の翁堂には若冲の天井画が残る

晩年は伏見の石峰寺門前で暮らした若冲
 その最後の作品に出会うために滋賀県の膳所駅下車(JR琵琶湖線・京阪石山坂本線)、大津市の「義仲寺」(ぎちゅうじ)へ行ってきました。この寺は名前からもお察しのように、木曽義仲の墓所がある天台宗の寺院。

 また松尾芭蕉が度々訪問、滞在したゆかりの寺でもあり、遺言によって、芭蕉はここに眠っておられます。今回は木曽義仲と芭蕉の話は逸れるので致しませんが、そうした歴史あるお寺です。

 その境内にある翁堂の天井画が伊藤若冲の作品「四季花卉図」15面です。

 現在の最先端技術によって、現状再製、スキャニング方式という方法で維持保管されていて、公開しています。薄暗いのですが、3×5列の花々から、若冲の息吹を感じとり、感激しました。その中にある紫陽花の絵は私が持っている若冲デザインのノートの元の絵と思われます。現状維持ゆえ、天井までの距離もあり、鮮明に見えないのですが、それがかえって想像を膨らませます。構図はわかるので、色がついていたら、こんな感じだったろうな…と思うと15枚の花々が華やかに見えてきます。完全復元されてしまったら、逆に興ざめかもしれません。天井画として描かれた作品である以上、建物と運命を共にし時を経過していく、そうしたものだと思います。ちなみに、義仲寺に伝わる、この天井画は描いた当初は、晩年過ごした石峰寺の観音堂の天井画の一部だったとされています。

何時も、側にある若冲作品に私の毎日はHAPPY

石峰寺に眠る伊藤若冲

若冲の作品がデザインされている沢山の文房具、私の日常をHAPPYにしてくれる
 晩年、過ごしたのは石峰寺の門前。寺はやや高台にあり、若冲はここに眠っています。3~4度、お墓参りに行ったことがあります。裏山には若冲が下絵をし、職人と共に自らも彫った五百羅漢さんがあるだけで、通常は絵の作品は公開していません。作品を観に行くならば、美術館の方が良いでしょう。いつも作品が見られる訳ではないのに、足が向くのは「若冲に会いに行く」という感覚でしょうか。確かに行けば、五百羅漢さんは、表情豊かで、和ませてくれますが、それが主ではないような…。京都の中心から遠くもなく、近くもないこの場所の距離感、晩年、絵を描いて過ごすには良い場所だったろうなと何時も思います。

 若冲の作品は出来る限り本物を見逃さず、公開される度に鑑賞に行ってはいるものの、知れば知るほど海外に流出されてしまったものも多く、里帰りは出来ないだろうなと思う絵もあります。ただただ、書籍の中に掲載されている写真を見るだけですが、そうした美術作品だけでなく、私の回りの文房具にデザインされた若冲の作品は、偉大な美術作品の感動!感激!とは別な次元で、私の毎日の生活をHAPPYにしてくれています。若冲の墓前に行くのは、感謝の思いからかなとも。

 皆様も是非、伊藤若冲の作品に所蔵する美術館へお出かけください。ここで「必ず作品が見られますよ」とお知らせしたいのは山々ですが、常時公開が非常に少ないので、調べてから行かれてください。

 合わせて冒頭でご紹介した「京あるき in 東京」で、東京でも京都を満喫してください。

「京あるき in 東京」ホームページ

塩原直美の絵馬コレクション「願いが叶う!京の絵馬展2016」


「京あるき in 京都」は都内各所で行われる京都のイベント。
絵馬展では108枚の京の絵馬が展示される
  • 期間:2月28日(日曜日)~3月13日(日曜日)
  • 開館は12時~18時(最終日は16時まで)
  • 火曜日定休、入場無料
  • 場所:東京メトロ「六本木駅」4a出口徒歩2分(モスバーガー地下)
  • 問い合わせ:京都商工会議所会員部 電話075・212・6440
プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き!にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ