風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
与謝蕪村「生誕300年」記念で俳句の旅(2016年3月1日)
 

市内の中心部にある与謝蕪村宅跡
 「菜の花や月は東に日は西に」を詠んだ俳人・与謝蕪村(よさぶそん・1716~1783年)。春の夜にぼんやりと月が見えていると、つい浮かぶ句です。菜の花が、私の目の前に今、ある訳ではないのに、何故か、その光景が浮かぶ、素晴らしい句です。

 俳句は5・7・5という究極の制限の中に、景色が浮かび、心情が読め、主人公に共感できるような、不思議な世界。簡単そうだ!俺にも作れるさ!と、いざ句を詠もうとすると、季語?あれ?ああ~字余り…ん…~言いたいことが収まらない!となるので、蕪村のこのシンプルであって奥が深く、そして親近感のある「菜の花…」の句の凄さを痛感します。

 2016年の今年、その与謝蕪村は生誕300年を迎えます。実は先月、ご紹介した伊藤若冲も同じ年の生まれ。二人とも節目の年なのですが、若冲はほっといても騒がれ「若冲展」などが開催されますが、どうも蕪村は分が悪い、ということで、今回は、「俳諧の中興者」と言われる与謝蕪村を紹介。

 現在までに確認できる蕪村の句は約3200句。彼は画人としても有名ですが、今回は俳人としての足跡を追います。

蕪村の生涯と京都

宮津にある別名「蕪村寺」とも呼ばれる見性寺
 蕪村は現在の大阪市・都島区の生まれで、20歳の頃(諸説あり)、江戸へ出ます。22歳の時、江戸の早野巴人(はやのはじん・夜半亭)に入門し、俳諧の世界へ。住んだ場所の一つが日本橋室町だったとされています。そして蕪村が27歳の時、師の早野巴人が亡くなります。それを機に、約10年間、江戸を去り、放浪・修業の旅にでます。主に北関東・東北地方だったようですが、36歳の時に京都に入り、しばらく落ち着きます。京都では、あちらこちらの社寺に見聞にでかけていたようです。

日本三名勝・天橋立も訪れた蕪村

天橋立の散策路の途中に建つ句碑
 39歳の時、今度は京都府・丹後へ。3年ほど、そこで過ごしています。丹後では宮津にある見性寺に逗留し、俳句を詠み、絵を描き、過ごします。見性寺は別名「蕪村寺」とも呼ばれていますが、当時の面影はなく、ゆかりの品や絵の作品も当寺には残されていませんでした。宮津から移動し、足跡を追って、日本三景の一つ、天橋立へ。この散策路には、蕪村の読んだ句が碑になっていました。

「はし立てや 松は 月日のこぼれ種」蕪村


芭蕉を敬慕していた蕪村が復興させた金福寺「芭蕉庵」

京都駅に近い粟島堂に建つ句碑
 また智恩寺の絵馬の中には蕪村と俳諧の仲間が句を詠み、それを刻んだ俳額が奉納されていることが分かりました。丹後へ行った理由は京都でこの地から来ていた知人に誘われたという説もあれば、蕪村の母の郷里であったという説もあります。いずれにせよ、丹後には与謝野という地名があり、蕪村は、この丹後滞在を機に「与謝」と改名しています。

 そして京都に戻って拠点を置き、讃岐などにも行きますが、京都で没し、洛北の金福寺に眠っています。金福寺には墓のほか、愛用の文台や硯箱が残り、生前には敬慕する松尾芭蕉ゆかりの「芭蕉庵」を復興させ、俳人の結社を作り、句会を何度も開きました。句碑は京都駅近くの粟島堂などにも残っていますが、与謝蕪村の縁が一番深いのは、この金福寺と言えるでしょう。

「粟島へ はだしまいりや 春の雨」蕪村

生誕地の大阪、無村が帰れなかった故郷
 

蕪村は現在の大阪市都島区生まれ

誕生地にはゆかりの「蕪村公園」もある

大阪市都島区の毛馬堤防に建つ誕生地碑
 そして、最後に生誕地を紹介します。蕪村は20歳ごろまで摂津、現在の大阪市都島区で過ごし、そこを離れた訳ですが、生涯、二度と、故郷へ帰ることはありませんでした。淀川を船で近くまで来ていたことはあったかもしれませんが、でも故郷に帰ったという記録は現在の所、ありません。

 蕪村の生まれた村は現在、都市計画が進んで川の中。生誕地の碑は、その川底の村を見守るように、堤防の上に建っています。また近くには淀川改修100年記念で作られた「蕪村公園」があり、彼の功績をたたえた案内板や13の石に句が刻まれ公園内に点在しています。

 淀川の流れ、大きな閘門、整備された堤防や散策路、そして広場。生誕の碑に刻まれた「春風や 堤長うして 家遠し」の愛郷の句。故郷には帰らなかった?帰れなかった?蕪村の心情を思うと、ぐっと胸にくるものがありました。私が訪ねた時、石碑の隣の白梅が満開で春の突風に揺られていました。

「うめの地の 咲く花揺らす 蕪村かな」直美

プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き!にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ