風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
明治維新への歴史的スポット・太宰府
福岡・太宰府天満宮
太宰府天満宮は菅原道真と民芸品「木鷽」でも知られる
 NHK大河ドラマ「西郷どん」もいよいよ役者が揃った感があります。龍馬や勝海舟、そして岩倉具視も登場。「明治」が目前となってきました。

 今年はご存じの通り、「明治150年」という節目の年で、京都だけでなく全国各地の関わりの深い都市では、「明治150年」にちなんだ展示会やイベントが開催されています。

 元何藩だったかによって、盛り上がりに違いはあるにせよ、歴史の舞台の1ページであった地で盛り上がるのは、歴史ファンには嬉しいことです。

 さて今回は福岡太宰府にある太宰府天満宮と京都を旅します。…とはいえ「菅原道真」ではなく、幕末のゆかり、明治への一歩を追います。

幕末、時代に翻弄された公家たち
梨木神社
 幕末から明治にかけ活躍したのは各藩の有志、武士、藩主だけではありません。京都では公家、公卿たちも懸命に国の大きな転換期に奔走しました。その中で暗殺された公家、都落ち、蟄居を命じられた公家も沢山います。「西郷どん」では、まさに岩倉具視が、その一人です。都から追われ、京都の北、岩倉村に身を潜め、一時期、蟄居謹慎していたわけです。

 そしてもう一つ、大事件といえば教科書にも載っている「8月18日の政変」。1863年8月18日に京都で起こったクーデターです。長州藩や尊王攘夷派の7人の公卿が都から追放されます。その中に後の明治に活躍する三条実美も含まれていました。7人の公卿のうち、一人は「生野の変」に参画し外れ、もう一人は病死、残り5人の公卿が謹慎した所、それが九州福岡・太宰府なのです。今回はその五卿の一人、三条実美のスポットをご紹介します。

公家出身の明治の政治家・三条実美
9月には萩まつりが開催される梨木神社
妙法院境内に建つ七卿碑
都落ちする七卿は時代祭にも登場
 三条実美は尊王攘夷派の公家の中心人物。最後の太政大臣でもあり、明治政府で活躍する政治家です。岩倉具視と同じく、明治政府と公家の調整役でした。岩倉具視とは意見が異なることもあったようですが、天皇がいなくなってしまった京都の失望感を共有しあい、また岩倉が没した後も尽力しました。三条実美は東京で没し国葬され、墓は東京・護国寺にあります。

 そして故郷である京都には明治18年、三条実美とその父が祀られた梨木神社が創建されました。場所は京都御苑の東(三条家邸宅跡の東側)にあります。

 梨木神社は萩の名所として有名で毎年9月には「萩まつり」が開催されます(今年の萩まつりは9月17日、22~24日)。

 また京都の東山七条にある妙法院は、「8月18日の政変」で七卿がここから都落ちしたため、その歴史を刻む碑が境内に建っています。この妙法院から長州藩士と共に長州へと向かいます。その有名な都落ちの様子、蓑をはおり、笠をかぶり、雨の中、トボトボと西へ向かう7人。そんな惨めな寂しい姿が碑にも刻まれています。また10月の時代祭の列に、再現した姿を見ることができます。

都落ちした公家に会いに太宰府へ来た西郷や龍馬
太宰府天満宮にある五卿が暮らした「延寿王院」
延寿王院には「五卿遺碑」も建つ
延寿王院門前の案内板にある七卿落ちの様子を描いたレリーフ
 さて長州を目指し、西へ向かった一行。五卿が3年間滞在したのが太宰府の地でした。滞在していた延寿王院は当時、宿坊だった場所。現在は宮司邸となっています。非公開ですが、庭先に五卿遺蹟の碑が建っています。

 ここに幕末、五卿を訪ねて、西郷、桂、龍馬、高杉晋作などが訪れています。幕末、明治維新への歴史の1ページである知られざるスポットがこの地なのです。ちなみに五卿は三条実美のほか、三条西季知、壬生基修、東久世通禧、四条隆謌です。

 その滞在中に彼らが残したゆかりの品々が、現在、太宰府天満宮の宝物館で展示されています。11月25日まで開催中の「太宰府幕末展」では西郷隆盛や高杉晋作の書状、三条実美が所有していた鎧や具足、都落ちの絵などを見ることができます。

 追放された彼らの思いや、そうした彼らに頼る意図があって訪れた者たちの志、時代の流れに奔走され、秘かに着実に“次の出番”を待っていたのでしょう。

 そして、ついに、その復帰の時がやってきます。薩長同盟を結んだ2藩が計画し、発表された1867年12月の「王政復古の大号令」によって、五卿は京都へと戻り、復帰。三条実美は新政府で議定、太政大臣、やがて内大臣と、要の政治家となっていきました。(議定とは新政府最初の3つの官職の一つ)。

新政府で大活躍の岩倉具視と三条実美
 今年のNHK大河ドラマ「西郷どん」では、強烈な存在感である岩倉具視は、以前500円札のデザインでもお馴染みで、また新政府が派遣した欧米使節団の団長でも知られます。一般的な知名度は岩倉の方があるかもしれませんが、三条実美も幕末から明治に活躍した公家出身の中心人物。岩倉らが欧米へ視察中、留守を預かったのが三条や西郷らでした。また、この後の西郷の征韓論で一番頭を悩ませたのも三条でした。新政府が軌道に乗るまで、その渦中にいた人物が三条実美なのです。

 是非、萩の美しく咲く9月には京都の梨木神社へ、そして11月末までに太宰府天満宮宝物館へもお出かけいただき、三条実美を通じて明治150年を感じていただければと思います。

プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き! にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ