風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
3体の銅像 と 七尾で出会った「等伯LOVE」
京都・上京区にある本法寺
本法寺本堂
本法寺の等伯像
 年明けすぐ、京都では毎冬恒例の「京の冬の旅」がスタート、3月まで実施されています。内容は社寺の文化財特別公開のほか、工芸品や芸能を絡めたお食事付きプランなど、盛りだくさんです。今年のテーマは「京都にみる日本の絵画」。そのテーマに関わる人物、安土桃山時代の絵師・長谷川等伯を今回は旅します。

 上野には西郷さん、仙台には伊達政宗というように、その人物のゆかりの場所には、銅像が建立されています。超有名人ですと、銅像自体が観光スポットにもなっています。

 京都にも街中や公園、社寺境内に銅像を見かけます。有名なのは円山公園にある坂本龍馬と中岡慎太郎が寄り添った銅像でしょうか。

 数ある銅像の中で、私が一番好きなのが長谷川等伯像です。上京区・本法寺の境内に建っているのですが、あまり知られていません。本堂前に建つ、その像は旅姿で笠越しに遠くを眺め、左手に筆を持っています。「空を見上げているの? その先に何を見ているの?…」何か語っているような姿にロマンと哀愁をいつも感じています。その長谷川等伯は今年、生誕480年を迎え、「京の冬の旅」でも特別に作品が公開されます。

 長谷川等伯(1539~1610年)の代表作は国宝「松林図屏風」「楓図」、重要文化財の作品は沢山あります。出身地は北陸・七尾、30代のとき、家族を連れて京都へ、晩年まで活躍し、江戸で没しています。等伯の作品にまつわるエピソードや生涯を語るには、このコラムでは紹介しきれないほど。等伯ファンの私としては、延々と語りたいのですが、今回は「銅像」に絞ります。

七尾駅前に建つ等伯像
七尾マリンパークの等伯像
JR七尾駅構内で出迎える「とうはくん」
市役所エントランス 楓図の復元パネル
路面にも等伯像をデザインしたサイン
等伯にちなんだ花月のお菓子
七尾美術館
七尾美術館のカフェで「等伯コーヒー」
夕食はお寿司
 実はこの等伯像、同じデザインであと2体存在するのです。要するに同じ像が3体ある、それを確かめに、北陸・七尾へ行きました。

 同一人物の銅像はよくある話。恐らく(二宮尊徳を除く)龍馬が全国で一番、数が多いのではないか? と思います。でも全く同一のデザインが3体もあるのは等伯だけではないか? 七尾にある2体にも会いたい…あ、蟹も食べたい・・・と動機に共通性がありませんが、等伯を意識して以来、長年の憧れの旅先は「七尾」、いざ。

 七尾駅前のロータリーに目的の銅像はありました。本法寺と同じ大きさです。デザインは全く一緒。銅像に執着する私は変でしょうが、目の前にある像が京都と全く同じだ~というだけで、グッと胸に込み上げるものがあり、感動しました。しかも、七尾の2体は京都を向いて建っているとのこと。その人生とも重なり、なおさら感激。笠越しに見ているのは「その歩みの先、目指す京都」だったのかと。

 そして、もう1体の場所へ。七尾駅から市内循環バスに乗り、海側にある「能登食祭市場」で下車し、隣接する「七尾マリンパーク」にありました。この3体目、デザインは全く同じで大きさが一回り? 二回り? 大でした。七尾湾を背にして、南西の方向、確かに駅前同様、京都の方を向いています。同じデザインの像(作品名「青雲」)が確かに3体ありました。「…とすると…京都の像は七尾を向いているの?」新たな疑問と疑念が…。

 その前に、七尾でたくさんの「等伯LOVE」に出会ったので、ご紹介します。

 JR七尾駅構内で私を出迎えてくれた「とうはくん」、旅姿で筆を持っていて何とも愛らしい…。2010年、等伯の没後400年記念で誕生したマスコットキャラクターです。

 お次は市役所、そのエントランスの頭上には国宝「楓図」をパネルで復元した作品が飾られていました。道を歩くと足元のサインに等伯が…(マンホールではない)。

 一本杉通り商店街を歩き、さらに「等伯」を探します。まず御菓子処・花月では国宝「松林図」にちなんだ「銘菓 松林」、作品に押される印を象った最中「等伯最中」、そしてココア味のサブレ「等伯サブレ」がありました。昆布海産物處・しら井では塩昆布などの「松林シリーズ」を。そして高澤ろうそく店では香りのよい「等伯香」と和ろうそく「等伯」。等伯関連商品がこの通りだけで沢山、購入でき満足。

 さらに能登食祭市場で、宗玄酒蔵の純米酒「等伯」をGET、これは純米酒が好きな私には最高、美酒でした。これら全て惜しみなく買い込み、大荷物となりました。

 今回の目的は情報収集でしたので京都へ出るまでの能登での作品が多く所蔵されている石川県七尾美術館にも行きました。毎春、等伯作品を展示、私が訪ねた時期は作品の展示はありませんでしたが、ハイビジョンコーナーで映像を拝見、そして過去の展示会資料を購入。そして…ここにも「等伯LOVE」を発見。ティールームでいただける「等伯コーヒー」! 七尾美術館には、作品鑑賞できる春に再訪したいです。

 さて夜ごはんは「すし王国能登七尾」ゆえ、お寿司屋さんへ。解禁したばかりだった加能蟹、地元の赤西貝、燗酒を飲みながら、等伯に思いを馳せていると店主が等伯の話をしてくださいました。ちなみにランチで入った飲食店でも、常連客と店員が等伯の話をしていました…私が旅人だから、気を使って話題にしたという感じではなかったので、スゴイなこの街の人たち、日常が「等伯LOVE」にあふれている…と…。

 このほかにも等伯のゆかりの寺院が集まる「山の寺」を巡り、小丸山城址公園にある等伯の記念碑など、隈なく回り、収穫の多い七尾の旅でした。

 さて京都・本法寺の銅像、どう考えても、七尾の方角ではない…真東を向いています。

 東にあるのは…江戸?「分かった・・・見つめる先は土地じゃない希望! 野望だ!」等伯は自分の力を発揮するステージへ果敢に積極的に向かった、最後まで精力的だったことを考えれば、晩年、江戸へ(幕府に呼ばれたとはいえ)向かうのは、そこに希望を繋ぐため。七尾から京都に、京都から江戸に銅像の向いている方向は、まさに等伯の生きざまそのものだったような気がします。江戸についてすぐ病死してしまった等伯、72歳の人生。等伯の話の続きは「生誕480年」をテーマにした講演会にて。

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プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き! にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ