風土47
~あなたの街の〝ゆかり〟を訪ねて~塩原直美の「あんな古都 こんな古都 京都物語」
与謝蕪村の句碑を訪ねて
大阪 蕪村生誕地
 「菜の花や 月は東に 日は西に」で知られる江戸時代の俳人、文人画家・与謝蕪村。この俳句は聞いたことがあるけれど、与謝蕪村の人物像は?と言う方も多いのではないでしょうか?池大雅との合作・国宝「十便十宜図」でも蕪村の名前はご存じかな…。

 実は大ブームとなっている江戸時代の京都の絵師・伊藤若冲と与謝蕪村は同じ年生まれ。2016年、東京上野・東京都美術館の生誕300年「若冲展」では入場までに5時間も並ぶ、異常事態…その陰で「あの~与謝蕪村も生誕300年なのですけど…」と心の中で何度かつぶやいた私でありました。若冲は大好きです、でも、蕪村もいいです、良さが違うけれど…ということで、今回は与謝蕪村を巡ります。

結城駅前の句碑
結城・弘経寺
結城・弘経寺の句碑
結城城址公園
結城城址公園の句碑
 生誕地は現在の大阪都島区毛馬町。生家のあったとされる場所は整備され今は淀川の川底のようで、その近くであろう堤防には生誕地の記念碑と句碑が建っています。近くには蕪村公園もあり、俳句が書かれたパネルが並んでいます。

 蕪村は大坂から江戸へ出て、俳人・早野巴人の門下(現在の日本橋に庵があった)となり俳句を学びます。蕪村が27歳の時に、師匠である巴人が亡くなり、同門で兄弟子だった砂岡雁宕(いさおかがんとう)を頼って、下総(現在の茨城・結城)に約10年間、滞留します。この時、結城を拠点に松尾芭蕉の足跡を追って、北関東、東北などへも旅しています。

 では、その結城を旅してみます。

 結城は「結城紬」で知られる高級絹織物の街。今回は、その結城紬には触れず、結城市観光HPで知った「蕪村のコース」を歩きました。歩いて回れる範囲にスポットは沢山ありました。まず結城駅前の観光物産センターに蕪村が詠んだ3句が刻まれている碑。

 次に向かったのはゆかりのお寺「弘経寺」(くぎょうじ)。この寺に蕪村は長く滞在したとのこと。当寺には兄弟子の砂岡雁宕の墓、そして「肌寒し 己が毛を噛む 木葉経」の句碑が境内にありました。襖絵の作品も残されているようですが、通常非公開。

 その後は蕪村の詩碑がある妙国寺を目指し、最後に結城城跡公園へ。城跡だけに高台にあって、見晴らしも良く、寒空でしたがベンチで休憩。蕪村の絵の中に見たことがあるような長閑な風景が広がっていました。街並みは江戸時代と全く違うでしょうが、遠くに見える山々、その山の稜線は蕪村が見たものと同じだろう…としみじみ。城跡公園の句碑は「行く春や むらさきさむる 筑波山」でした。

 結城駅へ戻る道すがら、結城の伝統菓子「ゆでまんじゅう」を購入。その場で食べてしまいましたが、作りたてで温かくて美味しかった!

 その他にも銘菓「手織最中」と結城市マスコットキャラクター「まゆげった」のお菓子、蕪村に因んだ商品・結城うどん「蕪村の里」を土産にしました。

結城の伝統菓子「ゆでまんじゅう」と各銘菓
結城うどん「蕪村の里」
京都・宮津 見性寺
 さて京都。結城を拠点とした10年間の遍歴後、蕪村は京都へ向かいます。36歳のころのようです。

 その後も、京都の日本海側にある丹後へ約3年、滞留。ゆかりの寺は宮津の見性寺、天橋立には「橋立や 松は 月日のこぼれ種」と詠んだ句碑を見つけました。

天橋立の句碑
京都・天橋立
京都・与謝蕪村旧宅跡碑
京都・粟嶋堂の句碑
京都・金福寺の芭蕉庵
 京都に戻り45歳で結婚、住まいは現在の四条烏丸。ビルが立ち並ぶ中に「住居跡」の石碑があります。結婚後は、今度は西の讃岐に一時期、滞留していたようです。

 では京都市内を巡ってみましょう。病気の娘さんの平癒を願い、お参りしたと伝わる京都駅近くの粟嶋堂。境内には「粟嶋へ はだしまいりや 春の雨」の句碑。

 そして芭蕉を偲んで蕪村が弟子と共に再興した芭蕉庵のある金福寺に蕪村は眠っています(墓がある)。蕪村の絵画作品は北村美術館、慈照寺(銀閣)などで、公開時、観ることができます。

 余談ですが蕪村の弟子である呉春(絵師・四条派の祖)は、蕪村没後、円山応挙の弟子となります。

 応挙と蕪村はご近所で交流もあり、応挙は呉春を格別な対応で迎え入れたと伝わります。この時代の絵師たちは応挙、若冲、池大雅、そして蕪村。同じ時代に生きて、同じ京都で生活し、しかも、そう離れていないご近所同士。

 ライバル的な見解はむしろ現代の我々の色眼鏡であって、当の本人たちは、お互いに存在を認め合い交流しあっていたのではないか?と…。池大雅と与謝蕪村は没していたので天明の大火に遭っていませんが、応挙と若冲は、この大火で被災します。お互い、良い時も、また不運な時も絵師として称え合っていたのでは…。

 蕪村を思う時、同時代の、この3人のことも思い浮かべるのでありました。

プロフィール:塩原直美(しおばらなおみ)
東京在住。京都市観光おもてなし大使・「首都圏と京都を繋ぐ観光アドバイザー」としてフリーで活動中。BS朝日「とっておきの京都」ブレーン、BS11「古地図で謎解き! にっぽん探究」京都担当、京都商工会議所講演会(東京会場)講師、朝日新聞デジタル「京都旅レシピ」コラム連載など。また中学校へ出向き修学旅行事前学習講義も行う。京都観光文化検定1級。京都市観光おもてなし大使ページ