風土47
我が県のなつかしの味! パートⅤ
なつかしの味シリーズも5回目。
今月は漬け物や麺、海藻、デザートと、バラエティに富んでいます。
北から南、そして山から海までの食材がそろう日本は、地形も気候も、本当に変化に富んだ国だなと感じます。
特集の5品からもそれぞれの土地の風土が感じられますよ。
取材/撮影 中元千恵子(トラベルライター 日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)
※ご紹介した商品は品切れしている場合があります。在庫を各アンテナショップにてお確かめください。
*記載の商品価格は、2014年4月の消費税増税後の税込み価格になっております。
〈いわき市・西野屋㈱〉
いか人参漬(410g 410円)
 「いか人参」ってご存知ですか? あまり知られていないように思うのですが、ショップの説明書には、“福島県人のソウルフード”の文字が!
 そんなに愛されている「いか人参」とは……と調べてみると、細切りにしたニンジンとスルメイカを、醤油や酒、みりんなどで味付けをする漬け物。もともとは福島県中通り北部の郷土料理だったようだが、今では県内全域でご飯のおかずや酒のおつまみとして食べられているという。
 食べてみると、おいしい。ニンジンのシャキシャキともコリコリともいえる歯応え、スルメイカのうま味と甘み、そしてこの西野屋のいか人参漬には昆布も入っているので、さらにうま味が濃く、ぬめりがあるので食べやすい。サラダのようにたっぷりとニンジンが食べられて、とてもヘルシーだ。
 今ではニンジンは一年中買えるけれど、本来の旬は秋から冬にかけて。冬、野菜が不足しがちな雪国福島で、野菜をおいしく豊富に摂るために誕生したのかもしれない。生活の知恵を感じる郷土料理ですね。
いか人参漬
おにぎりせんべい
〈伊勢市・㈱マスヤ〉
おにぎりせんべい(62g 160円)
 三重県といえば伊勢神宮があり、旅人をもてなすため、伊勢うどんや赤福、ながもちなどさまざまな名物が生まれてきた。そして伊勢志摩は伊勢エビやアワビなど海の幸に恵まれている。
 そんな三重県のなつかしの味はさぞかし重厚感あふれるもの……と思われるかもしれないが、今回はなんと「おにぎりせんべい」。1969(昭和44)年7月に誕生して以来、愛され続けている商品だという。いいですね、大人から子どもまで「懐かしい~」と喜びそう。
 おにぎりせんべいは、西日本ではCMが流れたり、スーパーで販売されたり、なじみのある商品だという。なので、三重テラスに来店し、「えっ、おにぎりせんべいって三重県の会社が作っていたの?」と驚く人もいるそうだ。
 これ、おいしい。軽やかなサクッとした食感で、香ばしい焦がし醤油の風味が食欲をそそる。焼きおにぎりそっくりの味だ。1枚が小ぶりで、食べきりサイズなのもいい。
 「しょうゆ」のほか、広島県のお好み焼きに使われるオタフクソースを使用した「お好み焼きソース」味、つぶ塩を使った「銀しゃり」味の3種類が販売されている。
〈宇陀市・㈱黒川本家〉
吉野本葛餅(75g 410円)
 奈良県の吉野地方は古来、上質の葛粉の産地として知られてきた。澄んだ水や寒冷な気候など葛粉の精製に適した地形に恵まれ、「吉野晒(ざら)し」という伝統の製法で作られる。葛根の澱粉100%の「吉野本葛」は地域団体商標に登録され、質の高さで全国に名をはせる。
 奈良まほろば館にも葛きりや葛餅などの商品が並んでいて、この黒川本家の「吉野本葛(くず)餅」もその一つ。少し冷して、付属のきな粉と黒蜜をかけていただいた。ぷるぷるとやわらかいのに、しっかりと弾力があり、滋味を感じる葛の味わいが口に広がる。後味まで上品な本物のおいしさだ。
 黒川本家の創業は1615(元和元年)。京都にいた初代が吉野から葛根を取り寄せて葛粉を作り、朝廷に献上したのが始まり。その後、奈良に移り住み本格的に本葛作りを開始したという。砕いた葛根を井戸水を使って桶で清めていく「吉野晒し」という作業を繰り返す伝統の製法を今も守っているそうだ。約400年の重みを感じたい一品。
吉野本葛餅
天然隠岐あらめ
〈隠岐の島町・㈲池田海産物店〉
天然隠岐あらめ 巾広(50g 360円)
 日本海に面した島根県の懐かしの味は「あらめ」。耳にしたことがないという方も多いのではないかと思うが、島根県では煮物やみそ汁に使われ、家庭の食卓に上るという。
 「ヒジキとは違う種類の海藻ですが、使い方はよく似ています。煮物にしてご飯のおかずにしますね。島根の人にとってはヒジキよりあらめの方が身近です」とのこと。
 あらめの中でも、この「隠岐あらめ・幅広」は、隠岐の島周辺のやわらかなあらめを幅広のまま乾燥させている。調理方法もヒジキとよく似ていて、水でもどして煮物にしたり、天ぷらやみそ汁、和え物などに使用する。細く切って販売されているあらめもあるそうだ。
 あらめのサイズに合わせて、大きめに切った根菜や油揚げと炒め煮にしてみたが、おいしい。ヒジキよりもやわらかくて、クセもないので食べやすいと感じる。
 それに何といっても身体によさそう。あらめは、例えばカルシウムは牛乳の10倍以上など、栄養価に優れている。βカロチン、食物繊維、タンパク質、カリウム、カルシウム、亜鉛なども含む。血圧を下げる効果があるとされるアルギン酸も豊富なため、肥満や生活習慣病が心配な方は食べてみてもいいかもしれない。島根の人はこんな優れた食材が身近にあって幸せですね。
〈糸満市・㈱サン食品〉
本場ソーキそば(2人前 827円)
 沖縄そばやソーキそばは、おそらく沖縄県の方々のソウルフードの一つだろう。二つのそばの違いはトッピングに使われる豚肉の種類の違いで、沖縄そばは豚の三枚肉を、ソーキそばは豚のあばら肉を煮込んだものがのっている。
 小麦粉をかん水で練ったコシと風味の強い麺を、豚とカツオでダシをとった汁で食べる。具材には豚肉とかまぼこ、薬味には島ネギと紅ショウガが使われる。あっさりして食べやすく、それでいて甘く煮込んだ豚肉のコクも楽しめて、クセになるおいしさだ。
 この商品はソーキまで付いているので、湯を沸かし、ソーキを温め、麺をサッと湯がくだけであっという間に本場のソーキそばが食べられる。
 店の方に教えてもらったのだが、10月17日は「沖縄そばの日」だという。なぜか。それについての歴史は沖縄が本土復帰をして4年目の1976年まで遡る。公正取引委員会から沖縄製麺協同組合に、「沖縄そばはそば粉を使用していないのでそばと表示してはならない」とクレームがついたのだそうだ。そばと名乗るにはそば粉を3割以上使用しなければならない規定がある。けれど、長く親しまれてきた呼び名、そして沖縄の食文化を守りたいと、協会の理事長たちが東京の本庁へ通い、数か月にわたる折衝を続ける。その後、交渉相手を変えてさまざまな折衝が行われ、1978年10月17日、ついに「本場沖縄そば」として呼ぶことが認可された。沖縄の方たちがどんなに愛着を持っているかを感じられるエピソードですね。
本場ソーキそば
 
中元千恵子
中元千恵子 旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。 『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。(朝日新聞デジタル連載記事