風土47
我が県のなつかしの味! パート Ⅶ
「なつかしの味」の特集も今月で7回目となり、ほぼ全ショップの品が出そろいます。
みなさんのお気に入りは登場したでしょうか?
自分の故郷の味でなくても、懐かしい食品は心を和ませてくれますね。
慌ただしい年の瀬、しばしほのぼのとした気持ちになっていただければ幸いです。
取材/撮影 中元千恵子(トラベルライター 日本旅行記者クラブ、日本旅のペンクラブ会員)
※ご紹介した商品は品切れしている場合があります。在庫を各アンテナショップにてお確かめください。
*記載の商品価格は、2014年4月の消費税増税後の税込み価格になっております。
〈甲府市・㈲三友商会〉
月の雫(100g 324円)
 「あ、知ってる」と思われた方も多いでしょう。山梨名物として名高い「月の雫(しずく)」は、生の甲州ブドウを、砂糖や水飴から作った白い蜜で包んだお菓子。砂糖を煮たシロップに一粒ずつ落とし、拾い上げて作るのだという。
 コロンとした可愛らしい形。ブドウの実の付け根の軸が、少しだけ見えているのも愛らしい。食べると糖衣が砕けて、ブドウの果汁が口に広がる。アイシングの歯応えとブドウの実のやわらかさ、砂糖の甘みとブドウの酸味。一粒に、いくつもの対比がバランスよくまとまって、よく考えられているなぁと感心してしまう。
 高温の蜜に漬けるため、皮が厚く、酸味が強い甲州ブドウが向いているのだそうだ。
 生のブドウを低温保存して使うので、季節限定販売。有名な銘菓だが、都内で買えるのはおそらくこのショップだけ。8粒箱入り756円もあるのでプレゼントにもどうぞ。
月の雫
かぶら寿し
〈南砺市・三和食品㈱〉
かぶら寿し(ブリ入り)(250g 1404円)
 富山の冬、といえばこの「かぶら寿し」が欠かせないそうだ。
 かぶら寿しは、酢飯ではなく、かぶらでネタを挟んだ寿し。塩漬けしたかぶらの輪切りにブリやサバの切身を挟み、麹で漬け込んで発酵させる。もとは正月料理で、年の瀬に各家庭で作られてきたという。県内でも西側はブリ、東側はサバが多いなど、特徴があるそうだ。
 シャキッとした歯応えのかぶらにブリのうま味がしみて、おいしいこと、おいしいこと。麹のほのかな甘みも加わって、まろやかで奥深い味わいになっている。かぶらがさっぱりとしているので、いくらでも食べられてしまう。発酵食品で健康にもとってもよさそう。
 さまざまなメーカーが作っているが、三和食品のある南砺市は、藩政時代からかぶらの名産地で、今でも各家庭でかぶら寿しを作っているお土地柄だという。
 年末年始のお酒のお供にもおすすめです。
〈松山市・㈱一六本舗〉
一六タルト(1個 119円)
一六タルト栗づくし(1個 140円)
一六タルトダークみきゃん(1個 151円)
 「一六(いちろく)タルト」は、ご存知の方も多いはず。カステラ生地で「の」の字のように餡が巻かれたこの姿を見ると、愛媛県松山市を思い出す。松山市では、ほかのメーカーもタルトを作っているそうだ。
 今回、なぜ松山でタルトが作られるのかを一六本舗の説明書きによって初めて知った。なんと、タルトは松山藩主松平定行がポルトガル人から教わったのだそうだ。定行公は幕府から長崎探題の職務も命ぜられ、1647年にポルトガル船入港の知らせを受けて長崎で海上警備にあたった。この時、南蛮菓子タルトに接し、製法を松山に持ち帰ったという。
 その菓子は、カステラでジャムを巻いたものだったそうだが、餡入りのタルトは定行公が独自に考案したそうだ。
 しっとりとしたカステラ生地と甘さ控えめの餡は絶妙のコンビネーション。プレーンや柚、抹茶、それにチョコ味などもありました。
一六タルト
アイスクリン
〈高知市・1×1=1〉
アイスクリン(100mℓ 163円)
 高知県の人に「1×1(イチかけるイチ)は?」と聞くと「アイスクリン!」と答えるそうだ。
 その「アイスクリン」は、高知県で愛される氷菓子。多くのメーカーがその名前で作っているが、一番有名なのが「1×1=1(イチかけるイチはイチ)社」なのだという。1×1=1が社名とは驚きだ。
 ここで「アイスクリン」を調べてみたら、「アイスクリームの過去の呼称である」と出てきた。一般的なものだったのだ。現在では、牛乳の代わりに脱脂粉乳などを使った乳脂肪分3%以下の氷菓子のことを指す、とある。高知県や沖縄県で多く作られているのだとか。
 食べてみると、アイスクリームというよりはシャーベットの食感に近く、シャリシャリとしてさっぱりとした味わい。ピーチのような、カスタードのような、いい香りがして、素朴なおいしさ。あっさりして食べやすいので、南国の夏にはぴったり。銀座に行ったらぜひ食べてみてください。
 
中元千恵子
中元千恵子 旅とインタビューを主とするフリーライター。埼玉県秩父市生まれ。上智大卒。伝統工芸や伝統の食、町並みなど、風土が生んだ文化の取材を得意とする。また、著名人のインタビューも多数。 『ニッポンの手仕事』『たてもの風土記』『伝える心息づく町』(共同通信社で連載)、『バリアフリーの宿』(旅行読売・現在連載中)。伝統食の現地取材も多い。(朝日新聞デジタル連載記事